この日、死ぬのは皆彼女だと予想していた。
アレだけの大騒ぎをして、揉め事を引き起こしたのだ。
当然の結末だと考えたのだ。

だが。

読みは、違っていた……。

翌朝。
談話室に向かった彼らが見たのは、驚愕の事実だった。

未来

……お、おはよ……
三城、夜伽兄妹、一条……

とても渋い顔で椅子に座っている、占い師――久遠寺未来の姿だった。彼女は、生きていた。

月子

く、久遠寺!?

天都

生きてたのかッ!?

兄妹が彼女を見て驚いた。
今宵死ぬのは、きっと彼女だと二人は予想していたのに。

未来

か、勝手に殺さないでよね!
あたし、そこまで馬鹿じゃないし!

未来はムッとして言い返すが、慌てて表情を崩した。
元の渋い表情に。

未来

あぁ……っと
そうだった……

彼女はまだ全員が集まっていない中、一番乗りでここにきたことを説明した。
そして、彼女は。

未来

昨日は……その、ごめんなさい……
怒鳴ったりして……

未来は、頭を下げて謝った。
自分が全面的に悪いと非を認めて、和解したいと言い出す。
進行をしている春菜はいいよ、と笑顔で告げて、天都の許すことにした。
憮然として、月子は眉を釣り上げていたが……。
神無は未来を不思議そうに見ている。

未来

……あれから幾分一人で過ごして、頭を冷やしたわ
怒りに任せて、夜伽妹を占おうと思ったんだけど、やめたの
下手なリスクを負うこともないと思ってね
どっちかを占うのはやめておいたのよ

未来

二人には、先に伝えるわ
占ったのは、式見よ
あの子は白だった

未来がそう言う。
目を丸くする天都。
あのストーカーが……白?
白のくせに、あんな言動を繰り返していたのか?

春菜

確かに、白は白だったみたいだね
でも……式見さんは、今日ここにはこないよ

未来に言い返したのは『霊能者』の春菜。
彼女が口を開いた……ということは。

未来

えっ

春菜

式見さんは『狐』
『占い師』に占われることで死んでしまう、だったよね、天ちゃん?

春菜がそう、天都達に伝えた。
……そうか。
確かに『占い師』からみれば『狐』は『狼』ではない。白と出るのは当然だ。
だが占われた場合、呪殺という『占い師』による『狐』殺しが発生する。
意図しなくても、『占い師』は『狐』を殺してしまうのだ。
そして、死んだあとには『霊能者』は『狐』を把握できる。

月子

『狐』……
まさか、初日に噛まれたのは……式見だったのでしょうか?

春菜

そうかもね
天ちゃんから聞いている限り、『狐』は『狼』には殺されない
だから、一見すると死人が出なかったみたいに見えたんだよ
実は、『狼』はしっかりと動いていたんだよ

春菜は月子の推測に納得出来る言い分をつけた。

天都

あいつが……『狐』……か

神無

天君……悲しいの……?

天都

いや、別に
どうでもいいわ

自分が殺したと絶望に浸る未来を横目に、しみじみと呟く天都。
神無が問うと、しれっと一蹴した。

神無

えっ?
し、知り合いでしょ?
悲しくないの……?

呆気なく言い放つ彼に、神無は吃驚ながらもう一度問う。
彼の返答は同じだった。

天都

神無、思い出してくれ
ストーカーされてる人間は、俺だぞ?

天都はやれやれ、と肩を竦める。
本当に、疲れた顔をさせながら。

天都

あんな変態、どうでもいいよ
死のうが消えようが、知ったことか
これで学校は安心して暮らせるから、それがありがたいけど
まともな学校生活、漸く戻ってきたぜ

神無

うわ……
この反応……本物の被害者の反応だ……

天都の言ってることは別に非常でも何でもない。
彼女に与えられたストレスは、それ程過剰なもので、被害者というのは加害者が居なくなれば、大なり小なり喜ぶものなのである。
死んだとしても、彼は自業自得だとバッサリ切り捨てた。

月子

兄さんにはいよってきていた害虫が死んだのは良いことです
久遠寺、今回の一件で私への殺害未遂は水に流しましょう

春菜

……あんまり……
人の死を喜ぶことは、したくないけど……
でも天ちゃんの反応は、多分正常だよ

月子

犯罪者を駆逐したんですから
久遠寺に罪はありませんよ

春菜

そういうことは、言わないほうがいいよ月ちゃん
たとえ、思っていてもね……

春菜は唇を尖らせて、月子を嗜める。
四人とも、未来を人殺しとは罵らないと言った。
むしろ、二人は大いに感謝していた。

未来

あ、あたしは……

天都

不可抗力だよ、久遠寺
お前のせいじゃない
強いて言うならあいつが悪い

天都の言うことに納得できないのか、まだ懊悩としている未来。
神無が、それを見て彼女に言った。

神無

……自分を責めても……意味、ないよ

それは当たり前のこと。
いくら自分を責めても次はすぐにある。
次は、投票の時だ。
その時も、人を誰か殺すことを義務付けられた。
避けられないかもしれない。
ルールは、絶対だ。

未来

…………

神無

人を殺してでも……叶えたいこと、あるんでしょう?

神無

だったら、今は止まれないよ……?
ここにいる限りは、誰かを殺すんだから

神無は悔やんでいる暇があったら、早く終わらせることに貢献してくれと言う。
未来は、神無の励ましに似た言葉で……後悔を、一時捨てることにした。

未来

……悪かったわね、一条
あたしはもう平気よ

未来

そうよね……
殺すって、覚悟決めたんだもの……
今更、ビビって何もできないとか……冗談じゃないわ

天都

既にもう殺しているしな
逃げられねえよ、罪悪感からは

天都の言葉に、頷く未来。
血にこの手は染まっている。
今頃になって拒絶をしたところで。

ぬぐっても。
拭っても。
この手はずっと。
真っ赤なままなのだ。

月子

私達は微塵も後悔感じていませんけどね

春菜

…………

神無

……

朗らかに笑う月子。
目を伏せて無言になる春菜。
天都を見ている神無。
それぞれ、人殺しの味を知っている。
二人は、二度と味わいたくないとも思っている。
月子だけは、必要なら何度でもやると誓っている。

そして。
立夏を除いた生きている全員が、談話室に顔を出し始めていた。
三日目の話し合いの始まりだ……。

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