穂波さま

ただいまなのじゃー

ただいま

おかえりー

 リビングのソファで横になっていたつばさが起き上がり、僕らに顔を向けた。

あ、神様登録終わったんだね

穂波さま

うむ、そしてこれをもらったのじゃ!

 と穂波さまが表記にYATA-CLAWの文字が入った小箱をつばさにみせつけた。

あ、YATAもらったんだ。よかったね、穂波さま

穂波さま

ありがとうなのじゃ。さてと、早速使ってみるのじゃ

じゃあ、何を挟むか決めないとだね!

穂波さま

挟むもの?

ああ、YATAは画面表示する時、平面な所に置くか、四角形の薄い物に挟まなきゃダメなんですよ

穂波さま

ほー、そうなのか

ということで、紙を持ってきますね

 僕はいつものコピー用紙を自室から持ってこようとするが、つばさにシャツを引っ張られ、体を止める。

何言ってるのお兄ちゃん! YATAで挟むと言ったらディスプレイガラスでしょ!

つばさこそ何を言ってるんだ。YATAに挟むべきは紙。特に折りたたんだ紙なら、必要に応じて画面サイズを大きくできる

雨には弱いくせに。耐久力なくてすぐヘタるのに

ぐっ

その点、ディスプレイガラスは雨にも強いし、耐久力は抜群だし。その上、裏面は好きにシールとかでデコれるんだよ!

といいつつ、年に一回は割ってるじゃないか。高いのに

うっ

穂波さま

ちょっと待てお主ら。何を言っておるのじゃ……

……実は、YATAの画面を表示するために挟む材質は、好みと主張が織り交ざって派閥になってるんです

穂波さま

絵が表示されるだけじゃいかんのか?!

ええ、僕は紙派で、つばさはガラス派。それぞれ良い点もあれば悪い点もある。だけど、どちらも自分の選択が至高! と譲らない……

穂波さま

戦争でも起きそうな話じゃの……

だってお兄ちゃん、毎回使い込んで汚くなっていく紙を見る妹の立場になってよう! 恥ずかしいったらもう!

安価で効率がよくて使い勝手いいんだ、紙は。大体、つばさのディスプレイガラスも同じだろう、端っこにひびが入ってるじゃないか

こ、これはその、ロックだからいいの!

どこに行こうとしている妹よ

ともかく、穂波さまは何を挟むの?! 紙? ディスプレイガラス?

穂波さま

わ、わらわは

紙だったらストックはいっぱいありますよー。軽いですよー

ディスプレイガラスも、お母さんの一つ余ってるから用意できるよう! 綺麗だよう!

穂波さま

わらわは……木がいいのう

は?

え?

穂波さま

木じゃ。できれば香りの良い木がいいのじゃ。白檀とは言わんが、檜なら最高じゃ

木……ですか

木……かあ

 思わず出た第三の選択肢に、僕とつばさは呆然と立ち尽くしていた。

 その日の夜。
 日曜大工が趣味な父が腕を振るい、穂波さまのYATA専用檜ディスプレイが完成したのであった。

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