白雲が不登校となった。
白雲が不登校となった。
夏休み中ということもあり登校は義務ではないのだが、彼が「裏風紀委員会」入りをしてからというものの、積極的に学校に来るようになっていたのだ。
なのに突然、何の連絡も無しに。
携帯も繋がらない。
向陽からの電話でもダメか?
はい、ダメです……。メールをしても返事が無くて……電源でも切れてるんでしょうか?
オマエに連絡も行ってないんだな?
あぁ、来ていない
三日まではよかった。
だが、向陽が
一緒に学校に行こう
と誘っても返事がないと発覚した四日目でおかしいと気付いた。
予定にはない臨時会議となったが、社は不満一つと言わずにきちんと来ている。
綾女は生徒会の仕事でほぼ毎日文化祭の準備に携わっているし、向陽もクラスの出し物に積極的に参加しているようで週に三日は必ず来ているのだが……。
午後から出勤する社が午前の応接室に来ているというのは、奇跡に等しい。
どうするんだ?
実害が出れば、責任はお前に行くぞ? 社
そうなんだよな~……まぁ、非公認組織だし? オレの私物みてぇなもんだから無視出来るっちゃー出来っけど……
おい
オマエがうるさいからこうして来てんだろ? つか、これが向陽だったらうるさくないってのに……
ハァ……と短くため息を吐いてコーヒーを口にする。
同じ組織内の後輩、となると綾女はこういう男なのだ。
校風を良くし、生徒達を大事にし、全てを正しくし、管理したい。
勿論、〝女〟を除いて。
連絡が取れないんじゃ対処しようがありませんよね? どうしたら……
白雲の家はわかんねーのか?
それがまだ家まではわからないんですよ~……最寄り駅までしかわからなくて……
白雲のステルス機能は向陽に効果てき面だな
相手が社じゃないから本気を出してないんじゃないか?
そんなことありませんよ!?
先生から『調べとけ』と直々に言われたんですから! 一生懸命探してますよ!
一年B組の担任教師なら、生徒個票の資料があるだろう?
…………あ
盲点だったのか、そこまで手が出せなかったのか……いや、向陽ならどんな所にでも忍び込めるだろう。
灯台下暗しだったのか。
いや、保健室登校の白雲の住所は書いてない
どうしてだ
だって電話一本で親来るし
…………
そんなので大丈夫なのか……と眉間にシワを寄せるも、社は他人事のように口笛を吹いている。
いや実際、他人事か……。
白雲のことはオレが電話でもかけて確認しとくからいいだろ。時間がもったいねーし
だがどうするんだ? 今後は
社が珍しく能動的なのは気味の悪いことだが、効率を重視した末だろう。
問題は、今回の犯人の予想である。
今まで怨みを買うようなことは……
ま、白雲と綾女ってんなら、どっこいどっこいだな
……
社のその言葉に反論出来ない綾女と、何食わぬ顔をして話を聞いている向陽。
綾女にしてみれば、白雲が一体何をしたのかは全く知らないが……反対に白雲もそのはずだ。綾女が何をしたかは知らない。
社は勿論どちらも知っているはずだが……
向陽はどうなんだか。
でもですよ、怨みを買っていたとしても……同じ人物からっていうのはないんじゃないんですか?
あぁ、それは……確かに
だったらやっぱり全く別の人ですよ、きっと!
では、誰だ? と、振り出しに戻った。
そこで社がポツリと呟く。
……アイツか
綾女と向陽が同時に首を傾げると、社はふむと口に手を当て思い出しながら説明を始める。
綾女は知らないだろうが、春にオレと向陽である変態ロリコン教師をこの学校から追い出したことがあった。その教師のことが発覚したきっかけは、職員室への匿名の張り紙
――社優仁(まさひと)は、
本校の女子生徒へ性的暴行を働いている。
という旨の、学校のパソコン室で刷られたと考えられる告発文。
そして、この間のいじめの件で、生徒会に匿名で届いた……白雲が犯人じゃないかと思わせるような大量の写真
路地に入って行き、死骸を眺める白雲の姿を捉えた尾行写真。
……その匿名人物が、今回の件だと?
どっちもオレ等に関わりがあるし、貼り紙に関しては向陽のことだろ?
続きには
『昨日の放課後、社優仁から性的暴行を受けたという密告があり、通達した所存である』
って書いてあったしな
よく覚えてますね……先生
そんな密告した覚えないだろ?
ないですよ? そもそも先生から性的暴行なんて受けてませんし、受けられたら一生の思い出ですもん♪
嬉しそうに言う向陽を無視して社は続けた。
春、夏と立て続けに匿名の告発がある方がおかしいんだ。
それに、ソイツは向陽が受けてたセクハラも、白雲の死骸探し趣味も知ってるってことになる
なのに匿名で、回りくどく告発……。いや、名前を隠したいだけでは?
それはねーだろ。
匿名が良いなら『名前は明かさないで欲しいんですが』って教師にも生徒役員にでも言えば済む話だ。そこら辺は守るだろ、この学校の連中は
その言葉に確かに、と綾女も頷いてしまう。
それならどうして、こんな手法を取るのか……。
……探しましょうか? 先生。白雲君じゃないならすぐに調べられますけど……
話が進まない空気を見兼ねて向陽は提案したが、いや。と社は手を挙げ、そしてニヤリと笑った。
面白ぇーじゃねえか、コイツは
面白い? と、二人は首を傾げる。
わざわざオレの名前を使った告発文を職員室に貼り、さもいじめの主犯が白雲なんじゃないかと臭わせる写真を生徒会に送りつけ、そして白雲と綾女だけに危害を加えようとする……。どっちかだ
どっちか?
告発文で貶めようとしたオレか、写真を送りつける前日に白雲と接触したオマエか、だ
そう言って、社は向陽を指差した。
告発文には向陽も一口噛んでるし、それに……いじめの話が生徒会に漏れたことも気になる
……そういえば
綾女は社にいじめ問題に関して文句を言ったことがあったが、確かにあの時は
教頭から口止めされているのに……
と社が不思議そうにしていたのだ。
一年のクラスってこともあってな、職員会議には教頭と生活指導主任、それから一年の担任を持つ教師しか出席しなかった
社は一年A組の担任である。
目の付け所がいいじゃねぇか……オレか向陽か、か
物好きとも言えるがな
綾女は呆れるしかなかったが、ここまで話が進めば絞り込みは容易い。
因みに、俺を襲って来たのは手慣れたスーツの大男だった。まるで〝SP〟って臭いがしたな
じゃあ確定だな
素人が白雲の尾行写真をあんなに取れるはずがない。
白雲と綾女と、二人の生徒をそう襲えるものではない。
何者かが自分の手ではなく、人を使って何やら動いている。
その目的の先には、社がいるか向陽がいるか……そこまではまだわからない。
目障りどころか興味が沸いた……どんな奴か会ってみて、もしイイ奴だってんなら……
是非とも、お知り合いになりたいもんだ……。
次回更新予定日:04月13日