ふう……やっといなくなったか

そう言いながら散らかった缶チューハイを片付けていく。

たくっ。どんだけ飲んでから消えるんだっつの

そう僕は文句を言いながら、食べ終わった皿を片付ける。

まっ、これでまた今までどおりの生活が始まるな

と、一人ごごち、安堵する。

そう言いながら、思い出していた。

あいつの食べる姿を。

屈託なくお酒を飲む姿を。

無邪気に笑う姿を。

湧き上がるのは、あいつとの時間はなんだかんだ楽しかったという感慨。

ほんと……賑やかだったよなぁ

急遽大量に準備した食料、そして酒。

……そしてその前に緊急に作った「あれ」

マジで無駄にならなくて良かった……

それにしても、アイツ----いなくなった後は大丈夫なのか?

いなくなった「その後」に一抹の懸念を覚えるが……

まあ、アイツのことだ。自分でなんとかすんだろ

そう言って懸念を振り払う。

すると、

ぴりり、と携帯が震える。

相手の名前を見ると、見覚えのある名前だった。

「通話ボタン」を押し、電話に応対する。

もしもし?

おーーーー。アラヒャーーー? ヒック、わらくし、無事つきましたであります!

僕のアパートから徒歩5分かかんねーところで着かなかったら困るわ

アハハハ! ナイスツッコミー!

分かったからさっさと休め。あ、あと寝る前にしっかり水分摂れよ?

はーーい! わかりまひたでございまする! おやすみーー!

おぉ、おやすみ

ぴっ、という電子音の後に通話が切れる。

ふう、これでひと段落ついた。

さて、明日もあるしそろそろ僕も寝るか

もう、良いのかえ?

あぁ。待たせて悪かったな

良い良い。我も楽しませてもらったからの。お主もそうだが、茜とやらもやっぱり面白いのぅ

明るいバカなだけだ

ふふ。素直じゃないのぅ

…………

む? どうした?

……なんでもねーよ

変な使徒じゃのぅ。ふふっ

そう笑う「彼女」の体は数日前と比べて鮮明でとても美しい姿だ。

--―-なんてずかしい台詞、頭で思ってても死んでも言ってやらねえ。

そう思いながら、僕は数時間前の夕焼けでの出来事を思い返していた。

サヨナラだ、自称神様

――--え?

ミドリ先生との話を聞きながら、ずっと考えていたんだ…………「お前は僕の信念に値する程大切か?」って

…………

んで、お前との日々を思い返していた

……それで……我との日々はつまらないものだったと……?

そう、すごく弱弱しい声で自称神様は僕に問うた。

その姿にひどく罪悪感を覚えながら、僕は返す。

そうだ

――――!

自称神様がはっと息を呑み、口元に手を当てた。

きっと涙をこらえているのだろう。

だから、僕ははっきりここで告げる。

――――なんて即答してたら、わざわざミドリ先生に相談しねーよ

……へ?

色々と手は焼かされたのは認めるけどな。よく食べるし、よく飲むし。どこそこ連れてけーってうるせーし

うっー―――

――――けどさ、お前すごく素直な反応するだろ? 未知なものに対して

ま、まあ実際、我からすれば物珍しいものばっかりだったからの

なんというかさ……僕も楽しかったんだよ。そんなお前を連れていろんなとこ行ったり、友達や先生に会うのが

……人の子

……他の人には見えねーけどさ。僕しかお前の楽しさは共有できねーけど。それでも。それでもここ数日の楽しかった記憶は僕のなかでは紛れもなく本物だからな。だから――――

だからさ――――さよならなんだよ。自称神様は

……うむ!

正直、今でも神だなんだに頼って努力しねー奴は見下してる。神だなんだに縋る前に自分が努力しろよって

…………

神様なんていねーから、自分で目の前を現実を変えればいいじゃないかって……でも、今は

いてもいーんじゃねーかなって。いてもいなくても、頑張るのは人間だけど……いて、つまらねーってことはないかもなって

……うむ! うむ!

だから……信じるよ。お前が神様だって。食べ物は食う、酒は勝手に飲む。いちいち知らないものに新鮮な反応を示す、ちょっと頼りないとこもあるけど――――

改めて言われるとちょっとへこむの…………

――――グッバイ、自称神様。ハロー、神様

うむ! これからよろしく頼むぞ、使徒よ!

そう言って神様の体はみるみる濃さを取り戻し、鮮明に夕日に照らされていた。

で、「これ」を作ってる間に茜からデンワがあったのだな

あぁ。「昼間の失言を許してやる代わりにご飯と酒をおごれ」と来たもんだ

めちゃくちゃ、楽しんで帰っていったの

その前に「これ」をつくり、かつ買出しを速攻で済ませた僕の苦労を知らずにな

まっ! いつの時代も殿方の役目は女を敬うことぞよ!

茜は絶対、僕を敬ってもいいとおもうんだが……まぁいいや。ほらよ、これ

む? これは…………

御神酒……またの名をカシスオレンジという。せっかくあのバカから守り抜いた酒だから、飲んでいただけると嬉しいんですが

おおーー! 流石は使徒じゃ! どれどれ……

そう言って、神様は慣れた手つきで缶のプルタブを開け……

とくとくと半分ほど空のコップにお酒を注いだ。

ん?

せっかくじゃ。使徒よ、お主も飲まんか

――--んじゃ、お言葉に甘えて

かんぱーーい! じゃ!

かんぱい、と

部屋にちんと、静かにコップと缶がぶつかる音が響く。

神様はんくっ、んくっ、と喉を鳴らしながら実に美味そうに呑む。

ぷはーーーー! やはり、現世の酒はんまいのぅ…………にしても、急ごしらえでよく完成したのぅ

まっ、急ごしらえでめっさシンプルな作りだが、まずはこれで我慢してくれ

そう言って、僕と神様の視線の先には。

神棚…………と呼ぶにはいささかシンプル過ぎる木箱が置かれていた。

良い良い! 我は結構気に入っておる。なんせ、使徒が我を認めてくれた証でもあるからの

帰り道に僕と神様はホームセンターに寄って木材を買った。

その時点で神様は以前のように鮮明な姿だったが、僕自身が欲しくなったのだ。

「信じている証」を。

そこで作ってる最中に茜から電話が来て、速攻で完成させたのだ。

お褒めいただいて光栄だよ

素直に喜べばいいものを。使徒は相変わらずだのう。と、時に使徒よ?

ん?

出来れば、もう一回言ってくれぬか? そ、そのほれ! 外来の言葉で「こんにちわ」から始まるあれを

あれ?

あれじゃ! その外来語と我のことを表した……!

……! あぁ

数秒考えてやっと通じる。

素直じゃないのはどっちだよ……

は、ハロー、神様。その……これからもよろしくな

うむ! こちらこそよろしく頼むぞ、使徒よ!

満面な笑顔と凛とした朗らかな声が部屋に響く。

そんな素直な姿勢の神様を見ながら思った。

やっぱ神様ってのはいてつまんねーことはねーかもな。

んくっ……んくっ……

なんてことを二杯目のチューハイを開けてる神様を見ながら思いましたとさ、まる

グッバイ、自称神様。

ハロー、神様。

7参拝目「グッバイ、自称神様」

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