事のあらましはこうだ。

やきそばパンー、メロンパーン、カレーパンマーン♪

おい

ふんふーん

お前だ、お前!

へ? アタシ!?

さっきからずっと呼んでるだろうが……

あー、ごめんごめん。パンに夢中で聞いてなかったわ。アタシになんか用?

……お前、名前は?

へっ?

名前だよ、名前!

え……松下、茜…………

茜か……俺と似たよう名前だな……おい、茜!

はい?

回りくどいのが嫌いだから、ストレートに言うぜ。お前に惚れた。俺の女になれ

----はいぃいいいい!?

王子ーー? どこいったのーー?

あ! あそこじゃない!?

ほんとだーー! ねー、王子ーーー!

そう言って、数人の女生徒がその男の下に駆け寄ってきた。

ちっ、うるせー奴らにみつかったぜ。おい、茜!

はいっ!?

返事待ってるからな!

そう言って、その男は颯爽とかけていき、その男の後を追うように女性たちが駆けていったそうな。

……なんじゃ、ありゃ……あ! やべ! パンが!

そう言って、茜も学食へ猛ダッシュをしたらしい。

そして、

もうさー、変な人に絡まれるわ、パンは売り切れるわ、最悪だよー。アラター、どう思う?

だからって、明日の僕の朝食のチョコクリームクロワッサンをほおばる理由にはならないと思う

うまかったー! ごっそさん! 流石、アラタだね!

お前のためじゃねーんだよ、今完食したパンは

あははは! 男が細かいこと気にすんなって!

はぁ………で、どうすんだ?

ん、なにがー?

いや、なにがじゃねーし。その野郎から告白されてんじゃねーか。付き合うのか?

あ! そうだった! 実はまだ続きがあってね!

まだ、なんかあんのかよ…………

とほほー、やっぱり売り切れていたかー

もし? そこのお嬢さん?

へっ?

もし、良ければこのパンをどうぞ。間違って買ってしまいましたので

え、くれるの!? って、いやいやいやいや! 悪いって! いいよ!

お気になさらず。多すぎても私は食べきれませんし

まじで! じゃ、お言葉に甘えて! ありがとう!

…………

ん?

お嬢さん、お名前は?

あ、アタシ? アタシは松下 茜って言います!

茜さんとおっしゃるのですね……いい名前ですね。会ってそうそう、申し上げることではない、と承知の上で言うのですが……

天真爛漫な貴方に見惚れてしまいました。誰よりも貴方に尽くしていきたいです

ええっ!

茜が驚いている間に、離れたところから数人の女子から……

執事ー、はやく行きましょうよー

みんな待ってるよー、執事ー

あ、今行きます!----それでは、茜さん。答え、お待ちしてますよ

…………

そうして----

今に至るというわけだよ、アラタくん

随分濃い一日だったな。というか、モテ期来てるじゃねーか、お前

まさかのアタシに来るとはねー、神様も何考えてんだか。アタシよりも可愛い娘に来ればいいのに

……だそうだぞ、神様?

一人の女子をめぐり、奪い合う二人の男性かー。面白いしちゅえーしょんだのぅ

と、当の神様はわくわくといわんばかりに目を輝かせている。

そもそも、アタシあのひと達のこと、よくわかんないしさー、どうしたもんかなーって困ってるんだよね

茜……お前、その連中のこと知らないのか?

うん! 全然!

使徒よ、お主は知っておるのか?

……学校の女子の人気を2分している二人のイケメンのこと、聞いたことないのか? 僕でも知ってるくらい有名だぞ

全然! それよかアタシは食べ物とかのが興味津々だね!

自由でいーな、お前は

そう言って、僕はため息をつく。

そいつらは「赤王子」と「青執事」だな

インスタントなうどんとそばみたいだな

誰も赤いたぬきと緑のきつねのことは言ってねえ。お前に最初に告って来たオラオラ系の野郎が赤城 仁(あかぎ じん)。通称「赤王子」だ

そういえば、赤いフードを被ってたな

振る舞いとか言動は俺様全開なんだが、そのルルックスと相まって、学校屈指の肉食系男子と女子から絶大な人気を誇ってるんだと。で、その暴君王子風な立ち振る舞いや名前から「赤王子」って呼ばれて、その手の野郎が好きな女子から追っかけまわされてるらしい

そういえば、女子から逃げ回ってぞ、アイツ

人気者には人気者なりの苦悩があんだろうよ。で、次にお前に告ってきた物腰穏やかな野郎が青田 和也(あおた かずや)。通称「青執事」

羊? 普通に人間に見えたぞ?

執事な。メイドの野郎バージョンとでも思っとけ。で、そいつが「赤王子」と双璧をなすもう一人のイケメンってわけだ

なんか前に私に話しかけてきた奴とは全然雰囲気違ったな

だろーよ。オラオラ系な赤城に対して、女性に尽くすのが好きな「執事系男子」だからな、青田は

いつも毛皮着てそうな男子か?

「羊系男子」じゃねーんだよ。で、その徹底的に女性に尽くす姿勢とやさしさとあのルックスでついたあだ名が「青執事」ってわけだ

なるほどーー!

にしても、使徒よ? お主詳しいのぅ

……そんだけ、ファンがいれば当然アンチもいる。正人が「赤王子、青執事をやっかむ会」ってアンチクラブに入っていてな、聞いてもいないのに情報をくれるわけだ

うっわ、藤原くん、そんなのに入ってるんだ。引くわー

男の嫉妬はいつの時代も醜いのう

ぶえっくし!

何故だろう、けちょんけちょんに罵られている気がする……!

で、アラター。アタシどうすればいいかな?

とりあえず、茜の好みな方と付き合ってみればいいんじゃね?

ええー……どっちも興味ないんだけどな。というか、アラタは平気なの?

ん? なにがだ

アタシがそのどっちかと付き合ってもアラタは平気なの?

平気もなにも----

うおっ!

平気も何もめでてーことじゃねーか。祝福すろぞ、僕は。

そう言おうとした刹那、僕の顔面すれすれのところに広辞苑が飛んできた。

わっ! 何今の!?

あー、たまによくあるんだ。気にするな

たまによく本が飛んでくの!?

まあ、僕のことはことは気にするな。それより----

今本を投げた理由をバカな使徒にも分かるよう、説明してくれませんかね、神様?

決まっておろう? 寝言をのたまいそうだったから、眠気を覚ましてやったのじゃ

寝言じゃねーし。本音だし

まぁよい。この後、茜とやらから頼みごとをされるじゃろ。神として命じる。頼みごとを受けろ

頼みごとーー?

おーい、アラター?

お、わり。ちょっと考えごとしてたわ。んで、どうした?

んーとね。せっかく告ってくれた二人には申し訳ないんだけど、アタシ断ろうと思うんだ

いいのか? 学校1、2を争うくらいのイケメンだぞ?

もともと、その二人に興味ないし……それにアタシはイケメンよりも一緒にいて楽しい人と過ごしたいもん

それにアラタにはまだご飯たかり足りないしね

左様でございますか

で、断ろうと思うんだけど……アラタも一緒についてきてくれない?

は?なんーーーー

なんで、僕が----

と言いかけて口を噤む。

ふと、茜の後ろを見ると、

あー、使徒よ。我、無性に電気ぽっどを投げたくなってきたぞよ

と、電気ポットを構えようとしている神様の姿が目に入った。

? アラター?

…………いいよ

へ?

付いてってやるよ。その代わり、ちゃんと断れよ?

マジで!? やったー! 一人じゃ心細かったんだー! ありがとう、アラタ!

どーいたしまして

うむうむ。よく了承したな、使徒よ

誰かさんの物理的な圧力をひしひしと感じましたからね

まぁ、そうやさぐれるな。お主の願いにも関係していることぞよ?

僕の願いに?

まぁ、それはおいおい分かるじゃろうて

こうして、

どういう因果か茜に告白していきた「赤王子」と「青執事」の返答に、僕(と神様)も付き合うことになったのだった。

8参拝目「赤王子と青執事」

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