真澄

……完全に逃げられたね
どうする、凛?

早く見つけて、片付けてしまいましょう
のちのちになると、面倒なことになるわ

二人は逃げていった獲物たちを探して、談話室を出た。
ゲームシステム上、後半になればなるだけ、残されたプレイヤーの実力は大幅に上昇する。
呑気にその罪人とやらを殺してポイント稼ぎをする奴などいないだろう。

二人は長く続く廊下を警戒しながら歩く。
慣れた手付きで弾丸を補充して、拳銃を再び使えるようにする。
端末によると初期武器は皆拳銃と一回分のリロードの弾丸のみ。
それぞれにそれぞれの特殊能力を保持し、何も持たない犯罪者共を殺しまくるゲーム。

過去に参加していた言葉で殺し合うのではなく、即ぶつ的に殺しあえる。
シンプル故に、実力差がはっきり出る。

経験者たる二人には、経験も覚悟も、十分なほどあった。
あのゲームをクリアしてきたのは伊達ではない。

真澄

そういえば、凛
そっちの能力は?

『オートエイム』、『ワンショットキル』が私自身の能力
そこにさっき奪った『スティール』、『マッピング』に加えて『アンロック』
五つあるわ

真澄

成程
私は『オーバークロック』、『ペインキラー』が自分ので、『ステルス』、『サイレンサー』がさっきのやつから奪ったので、『オートヒール』が訳あったやつね

二人は合計5つずつ、能力をもっている。
それぞれがそれぞれ、強力な能力だった。

能力解説
真澄

『オーバークロック』
身体能力、五感の爆発的な向上。
比例して、身体の負担増大。
長時間使用し続けることで自滅確率上昇。
上限を越えると負担により自滅する。

『ペインキラー』
保有者の痛覚を鈍化、又は遮断。
発動中、痛みによる能力低下を防御。
 但し、受けるダメージは軽減しない。
あくまで、自覚する痛みの軽減のみ。

『ステルス』
保有者の姿を風景に溶け込ませる。
発動中、視覚による情報制限。
感覚強化系能力には看破される。

『サイレンサー』
保有者の立てる音を消す。
発動中、聴覚による情報制限。
感覚強化系能力には看破される。

『オートヒール』
保有者の回復能力の強化。
解毒、治癒などの生命体が持つ基本的な回復を底上げする。
致命傷の治療は不可。
また、即死する怪我は治療できない。

真澄

我ながらまた好戦的なモノを引いたもんだよ
これなら、多少やられても問題はないかな

真澄は死に慣れているしね……

彼女の言うとおり、彼女は何度も死んでいる。
死ぬような、ではなく何度も本当に死亡していた。
そこには非常に面倒な事情があり、黄泉がえりのような事を繰り返しながら、現在に至る。

私の方はサポートに特化しているようね
有難いけれど

能力解説
速水凛

『オートエイム』
保有者が銃火器装備時、照準が最適化、自動化される。
銃火器を装備していない場合は発動しない。

『ワンショットキル』
保有者が銃火器装備時、攻撃が命中した場合、箇所によらず相手を即死させる。
即死無効の能力を保有している場合は無効。
また、攻撃が命中しない場合、及び銃火器装備をしてない場合も発動しない。

『スティール』
戦闘時、一定確率で他プレイヤーのアイテムを自動で奪取する。
対象との距離が近ければ近いほど成功確率が上昇。

『マッピング』
保有者の端末に移動した地図、及び必要な情報が随時更新、記録されていく。
本人が知覚した分だけ、詳細かつ正確なデータを更新可能。

『アンロック』
武器弾薬を保管してある区域への立ち入り、及び道具箱の施錠を鍵無しで行うことができる。

真澄

えげつねえ……
だからさっき銃を撃ったとき、普通に扱えたんだ

本来ある程度慣れているとはいえ、銃を使い慣れていない私が使いこなせるのはこれのおかげね

先ほどの殺害。
拳銃の扱いなどそうそうしたことのないであろう凛は、片手で、しかも的確に相手を射殺している。
相当な訓練を積まなければできないはずの芸当を行なっているのだ。
尚、真澄はその過去の経歴上、拳銃の扱いは慣れていた。

二人は獲物を探しながら、使えそうなものも物色することにした。
フローリングの床を音を出さずに歩く真澄と、音を殺して歩く凛。
ドアを開けて、リュックや医療品に弾丸などを凛の『アンロック』で回収しながら、進んでいく。

真澄

……ん?

最初に気付いたのは、入手したナイフの切れ味を見ていた真澄だった。
何か、がっしゃんがっしゃんと金属を打ち付けたような派手な音をさせながら近づいてくる。

なんの音……?

音のする方を見つめる凛。
先を歩いていた真澄が驚いたような声を上げて戻ってくる。

真澄

もしかして、罪人とかいうの!?
ちょ、鎧とか聞いてないんだけど!!

鎧ッ!?

真澄の言うとおり、狭い廊下には相応しくない巨大な銀色が、長もの構えてこっちに向かって突撃してくるのが凛から、彼女の背後に見えた。

罪人

プレイヤーってのはテメェらか!
ぶっ殺してやるよォ!!

鎧、というよりは西洋の甲冑。
ファンタジーゲームで門番でもしてそうな頑丈な甲冑を纏った罪人らしき男達が、数名現れた。
手には大きな槍を持っている。
彼女達を発見するや、足踏みしながら真っ直ぐ突撃。

……大身槍(おおみやり)っ!?
何て馬鹿力……
あんなもの振り回すなんて……!

真澄

うわ、あんなにいるの!?
ってか……おーみやり?

重くて太くて頑丈な槍!

聞きなれない武器の名前に首を傾げる真澄。
だが、身も蓋もない凛の説明に納得して、仕方なく武器を構える。

真澄

わかりやすくありがと
そんじゃ……やるよ、凛!

罪人だって言うなら、殺すだけよ
支援は任せて!

突然襲ってきた罪人達。
まさか、甲冑で防御してくるとは予想外。
あれでは拳銃弾などいとも簡単に弾き飛ばすだろう。
逃げればあの重武装、重さが欠点となって簡単に撒けるだろうが、それでは意味がない。

真澄

フンッ……
単なる人間が、私に勝てると思うなよっ!

拳銃を手にした真澄が、迫り来る銀の壁に向かって走る。
本格的な、罪人VS断罪者の殺し合いのゴングが鳴り響く。

罪人

ゴルァ!

真澄

遅いよ

前衛は真澄、後衛は凛。
真澄は制服姿で、三人の甲冑を相手していた。
真澄を囲むように陣形を組んで、槍の突きを繰り出す罪人達。
それを紙一重で、華麗に避ける。

罪人

クソ、なんだこいつ!?
何で攻撃が当たらねえ!?

罪人

おいテメェ!
女だからって気ィ抜いてんじゃねえだろうな!?

罪人

あぁ!?
テメェの方こそ手抜きしてんじゃねえぞ!!

真澄からすると、格好が同じなので誰が誰だか分からない。
取り敢えず全員男。みな、真澄よりも大柄。
当たらぬ攻撃に苛立ち、仲間で罵り合う。

真澄

そいやァッ!

罪人

ぬおおっ!?

回避ばかりでは終わらない。
一人に飛びつき、兜に飛び蹴りを放つ。
靴底が目穴を塞いで、強化された膂力による一撃で、甲冑は地面から足が完全に浮いて、後方に吹っ飛んだ。
終着地点の壁に背中から激突し、のめり込んだ。
端末にはポイント追加――つまり死亡にはなってないが、動けないだろうと判断。

真澄

軽く着地して、その光景に硬直する二体のうち、後衛――凛に近い奴に直ぐ様突撃、懐に飛び込む。

罪人

なっ――

真澄

凛、送るよ

相棒に聞こえるように一声かけると、そのままハイキック。
胴体を揺らして、くの字で吹っ飛ぶ甲冑。

罪人

どはァ!?

甲冑は凛の前に仰向けに吹っ飛び、墜落。
その自重のせいで、起き上がるのにも時間がかかるうえに、中身にも衝撃という形でダメージが入り、動けなくなる。

感謝するわ、真澄
気をつかってくれてありがとう

見下げるように現れる少女。
その手には……何故か酒瓶が握られている。

ねぇ……知ってる?
いくら甲冑で身を守ろうと、人間はやろうと思えば、生身で武装した相手にも勝てるのよ?

倒れる罪人の近くで屈んで、兜の開閉部分を開くと、恐ろしいことを言いながら、酒瓶を振り上げる。

罪人

な、何をする気だ……?

こうするのよッ!!

罪人

ギャァアアアアッ!

凛はビンを振り上げると、その開閉部分にビンを叩きつけた。
当然、ビンは割れて破片と中身は鎧の中に降り注ぐ。
頭を押さえて悶える罪人。
目潰しというには過剰な一撃。
凛は当然のようにスマシ顔で言う。

まだ武器がそんなにないからね
使わない道具でなんとかできるなら節約するのは当然でしょう

顔を押さえて震える甲冑。
彼女はそこに更に栓をしている酒瓶を取り出すと、あけてドバドバと甲冑にふりかける。

さて……室内でこんなことしていいのかわからないけれど、端末には罪人の殺し方はなんでもいいと言っていたしね
非力な私でも出来る方法をさせてもらうわ

罪人

き、貴様……!?

彼の鼻も感じるアルコールの臭い。
そして特有の音と、焦げ臭さ。
嫌な予感は、的中する。

――罪人は罪人らしく業火に焼かれるのが相応しいわ

彼女が取り出したのは、ライターだった。
それを動けない甲冑に放る。
放物線を描いて、漸く起き上がろうと藻掻く彼に着地。
忽ち、罪人を焼き尽くす烈火となる。

罪人

ぐぁああああっ!!

山吹色に染まる甲冑。
あまりの熱さに脱ごうとしても、頑丈さと引き換えにした重さが邪魔をする。
結果、脱げないまま転げ回り、甲冑の中で焼かれていく。

優しく殺してあげる義理もないわ
人を殺すのなら、殺される覚悟も決めてきなさい

燃え盛る人間の不格好なダンスを眺めながら、最期に『断罪者』は一言添えて、背を向け歩き出す。

真澄

終わったー?
いやぁ、えぐいなぁ凛ってば

眼前では、銀と赤のコントラストを生み出す少女が
笑顔で問うた。
既に壁には、兜から多量の血を流して壁に埋め込まれた鎧と、無数のヘコミによって破壊された鎧。
馬乗りになって、そのヘコミを作った本人は嗤っている。
真っ白な制服は、一部に返り血で赤く花を咲かせている。
拳もまた真紅の雫を垂らしていた。

随分と遊んでいたわね
すぐに殺そうと思えば殺せたものを

真澄

こいつらの実力ってもんを見ようとおもったけど
ただの素人だわ、くっそ弱い

相手の実力を図るために遊んでいたという真澄。
実際、強化された一撃は、鎧の板金を貫く威力だ。
やろうとおもえば、穴をあけて終わらせることもできた。

真澄

中身はただの犯罪者だね
一般人と言ってもいい

そう

呆気なく、三人裁き終わって二人はまた進む。
一般人と聞いても、凛も真澄も動じない。
ただ、笑って残骸となったそれらに振り返る。
真澄は笑顔で、彼らの血で染まった中指を立てて。
凛は何も言わずに前を見た。

彼女達のゲームは始まったばかり。
断罪は、まだまだ続く。

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