真澄

結構殺してきたけど減らないね

はぁ……
鎧で分かりやすい防弾をしているだけね
所詮、獲物は獲物ってことか……

死屍累々。
彼女達の歩んだあとには、屍しか残らない。
現在、既に規定ポイントの半分、500まで数を進めている凛と真澄。

罪人は、殺してもわずか10ポイントしか加算されない。
確かにこれでは埒が明かない。
途方も無い数を殺さなければならない。
結果として、近道はプレイヤー同士の殺し合いに発展する。

真澄

雑魚はやっぱ雑魚だね
プレイヤー殺しが近道だけど、変なリスクを負いたくもないしな……
どうする? 凛

そうね……
『処刑人』のプレイヤーを殺しつつ、罪人で数を稼ぐのが一番妥当じゃないかしら
考えられる中では一番安全かつ、妥当な方法よ

真澄

りょーかい
同種には手を出さないのが基本だね

襲ってきたら迎撃しながら撤退するわ
幸い、物資は沢山あるし

真澄

つまり逃げるんだよね?

まぁね

既に殺しへの呵責はない。迷うだけ無駄だ。
物資を集めに集め、途中で拾ったリュックにありったけ詰め込んで、真澄が背負っている。
相当重たいのだが、身体能力向上のおかげでそれ程負担にはなってない。
相変わらず、武器は拳銃のみ。
罪人相手には、過剰攻撃で撃退中。
方法はいくらでもある。

真澄

おっ、あっち見て凛
広い場所に出そうだ

広い場所?

真澄が指差す方角。
大きな木製のドアが、開きっぱなしでそこから光が差し込んでいた。
広いかどうかは分からないが、他の場所に出るのは確実。
二人は急いだ。

真澄

うわぉ……B級スプラッタ……

これは酷い有様ね……

ドアを隔てた向こう側。
そこはまさしく地獄だった。

そこは一面、血の海。
グチャグチャに潰されたミンチの何かがそこらじゅうに散乱している。
骨ごと、腸ごと、筋ごと。
凄まじい衝撃で潰されたかの如く、異臭を放つ真っ赤な絨毯の出来上がり。
見人が見れば、吐き気を催したり卒倒しそうな光景だった。

床や壁はひどいが、天井は高く空間としては広い。
広間、とでも言おうか。
豪華な明かりまでついている。
その中央に男と女。
背中合わせに、立ち尽くす。

幸太朗

……お前らは……

白雪

げっ……!?

黒のスーツに黒い革靴。
知的な目元に似合う眼鏡。
手にしているのは美しい刀身の日本刀。
若い男が一人、何かを祈るように天を仰ぐ。
白いセーラー服にスカート。
驚愕の表情に、長い黒髪。
手にしているのは大きなアサルトライフル。
若い女が一人、こちらを見て驚いている。

半井さんっ!?

真澄

……如月

そこにいた、二人組。
過去に、殺し合いをしたことのある二人だった。

幸太朗

久しいな、占い師と進行役

前回のゲームで最も実力の高かった異次元の怪物。
中二病を拗らせたスーツ男性、半井幸太朗。

白雪

な、なんでこう……
顔見知りが多いんですか今回は……

困ったように頭をかく女子高生、もとい殺し屋。
前回キレて暴れまくった問題児、如月白雪。

…………

真澄

あららー……
どうする、する?

幸太朗

はははっ、面白い冗談だ
俺はそこまで貪欲ではない

白雪

面白くないですって……

屍を乗り越えて、彼らは合流する。
お互い、一度は争った敵同士。
だが、武器を向けることはなかった。

幸太朗

なぜここに、と問うのは愚問だな
そちらも誰かを人質に?

……えぇ

白雪

はぁ……

真澄

如月、あんたキャラ違ってない?

察しのよい幸太郎は、得物を鞘に戻すと肩を竦めた。
互いに事情は同じなのだな、と言いたげな目。
以前と違って、ハイテンションがなりを潜めている白雪は、意気消沈して俯いている。

白雪

こちらも色々ありましてね……
姉には家から勘当されるわ、会社からまたお暇出されるわ……散々ですよ

真澄

あんた妹だったんだ……
ってか姉いたの?

白雪

ええ、まぁ
私よりも危ない性格の姉が一人……

どうやら、テンション低いのは酷い目にあっていたかららしい。
裏社会の会社にクビにされかける、家からは追い出されるなどなど。
そんな状況なら、いくら異常者でも落ち込むというものだ。

白雪

で、まぁ食い扶持稼ぎに参加したのはいいんですけど……
いきなりまたこの男に狙われて、危うく生命まで無くすところでした

幸太朗

貴様はまず、自分の言動を思い出せ
アレだけやっておいて、まだ言うか

得物の柄で、幸太朗に頭を小突かれても抵抗しないで渋い顔をする白雪。
曰く、幸太郎にはガチ勝負で挑み惨敗。
それ以来降参して、上下関係を思い知らされたのだそうだ。

幸太朗

躾のなっていない野良犬に文明社会の基礎を叩き込んだに過ぎん、暴力でな

白雪

お陰様で、以前のような楽しみ優先で生きていくのは不可能になりました
この男容赦なく半殺しにしたんですよ?
しかも何度も、何度も……
わたしだって恐怖ぐらいありますから……

幸太朗

貴様に常識というものを教えただけだ

白雪

あれの何処が……っ!?

完全に幸太朗を畏怖の存在として認識している白雪。
彼がちょっと動くだけで、ビクッと過剰に反応する。
虐待を受けた動物のようだ。

あの異常者を……良く出来たわねこの人……

真澄

ある意味、凄いわ……

幸太朗の身体能力は素で超人の域にいっている。
それにも関わらず挑んだ命知らずが白雪。
火を見るまでもなく、勝敗は見えていた。
恐怖による矯正をされ、現在すっかり大人しくなっている殺し屋。
情けないことこの上ない。

幸太朗

取り敢えず、罪人を20人ほど片付けた
おかげでポイントも追いついたようだな

白雪

ゲームを見ているような気分でしたよ

本業が認める殺しの手腕。
幸太朗の実力の一片を知っている二人も引きつった顔で絶句する。

白雪

わたしにポイントが全然入ってない……
半井さんに全部取られちゃってる……

自分の端末を見て、加算されていないことに更に落ち込む白雪。
あの構図、どうやら二人で共闘していたのではなく、幸太郎の独壇場だった様子。
しかも殺し屋が殺されるのを嫌がって背後に回っていた。
そのまま殺そうとしても逆襲されるだけ。
本当に、情けない。

人間じゃないわこの人……

幸太朗

いいや、一応人間だ

苦笑する幸太朗。
惨殺をしたわりに返り血を浴びていない幸太朗。
スーツにシワ一つない。正に圧勝。
リアルチートとでも言おうか。
ここに居ること自体が、この男の場合おかしい。

幸太朗

それで、どうする?
お前らも敵、ということなら遠慮なく斬るが?

白雪

敵対は本気でオススメしません
早く投降してください
マジで殺されますよ?

白雪がメンツもプライドも捨てて、忠告してくる。
何処までボコボコにされれば、あのクレイジーがこんなヘタレになるのだろうか……。
理解できない二人だった。

幸太朗

貴様は大人しくしていろ

白雪

してるじゃないですか……

まるで保護者と問題児だ。
幼い外見の白雪がビクビクしながら、幸太朗の視線を気にしている。
二人も正直、白雪の意見に同感だった。
幾らなんでも、勝ち目がなさすぎる。

敵になる気はないわよ

幸太朗

そうか、よかった
面倒を増やされるのは御免被る
寧ろ、ついてきてくれないか?
この阿呆の監視役を頼みたい

幸太朗から、願ったり叶ったりの申し出をされた。
このアホウが居る限り、粗相をしないか気になって仕方ないので、見張っていて欲しいらしい。
その見返りに、雑魚の相当やお膳立ては任せてくれと言う。

白雪

何もしませんけどね……

扱いが最早女性とすら見ておらず、動物と同じな白雪。
小声で言うが、誰も聞いていない。
凛と真澄は、有難いその申し出を両手を上げて受けた。

真澄

最強の味方も来てくれたし
少しは余裕できたね、凛

そうね、悪くないわ
……それじゃ、よろしくお願いします

幸太朗

ああ、よろしく頼む

白雪

お、終わった……

二人にリアルチートとオマケが仲間になったのだった。

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