全部、終わったはずだった。

生き残る為に人を殺したのに。
消えたものが戻ってきたとしても、行い全てが無かったことにできるとは思ってない。
大切なものを護るために壊した代価は、この身に刻まれて、生きる限りその罪を背負って苦しんでいく。

自己満足だったとしても。
唯一の自分たちの出来る贖罪だと思っていた。
それでも、足りないのか。
まだ、罪を繰り返せと言うのか。
折角両手を血に染めて護りきったたった一つのたからものが、また自分のところから離れていってしまう。

人の悪意に限りに底なんてない。
何度でも迫り来る事を、日常の温かさで忘れてしまっていた。

彼女は、闇の中で蠢いてた時に知った。
綺麗事で何かを成し遂げることが出来れば、この世に悪いことと定義されることなんて数はもっと少ない。
成し遂げることが出来ないから手段を選べないのだ。
誰だって出来れば苦労しないし、喜んでその道を選択しない。

彼女も、大事なモノを失いたくないと思ったから、奪うことを決意した。
それは決してやりたくてやったことでない。
理不尽な状況で強いられてやったこと。
でも結局は悪事であることには変わりなく。
なんの言い訳にも、救いにもならない。

じゃあどうすればよかったんだ?
何を選んで、何を諦めればよかった?
そんな問いを投げること自体がナンセンス。
同時に彼女達を糾弾することも、馬鹿らしい話。
その時その時に常に現実は選択肢を突きつける。
それが連綿と続いていくのが現在であり、その一瞬でどれを選んで進んでいくか。
それを決めるのはその時の自分であり、後から文句を言うことは誰だって出来る。
だがその場にいなかったほかの人間に、その人物の選んだ結果をどういう言ったところで意味なんてない。

結論。
世の中は大半、理不尽である。
今までの行為を全部無駄にすることなんて珍しくないと、二人は割り切った。
既に彼女達のメンタルは同世代の女子を軽く凌駕している。

この日、人質を使ってまで強引にご招待をしてくれたクソ野郎共の面を拝みに、二人はこの場所を再び訪れることになった……。

真澄

ここで待ってろってさ

わかったわ

彼女達は招待状を持って、指定された場所に向かった。
そこにはワンボックスが停車しており、二人の訪れを待っていた。
運転手の黒服達は、お待ちしておりました、と丁寧に挨拶した。
二人は早く連れて行けと命じて、夜通し移動してついたのが懐かしい場所だった。
最初に殺し合いをした、あの燃え尽きたはずの洋館だった。
そして今。
談話室、と呼んでいたあの洋室に二人はいる。
既に中には、何人も若者が落ち着かない様子でウロウロしている。

前に訪れたことがある、二人が初めて顔を合わせたあの場所。
敵として出逢い、敵と知らずに手を組んで、裏切り、裏切られた場所。
そして、終末を起こした場所。
何も変わらないまま、ここは存在していた。
忌々しい記憶と同時に、大切なものと出会ったここが、新しいゲームの舞台。
事前に持たされた武器と何かの端末だけが頼りの、恐らくはまた殺し合い。

あのゲームがなければ二人は出会うことはなかったし、今こうして腹をくくって訪れることもない。

二人は理不尽なゲームを勝ち残り、沢山のお金と、かけがえのない友と、大切な家族を手に入れたのだ。

真澄

懐かしいなぁ……
あの時のこと、全部思い出しちゃった

随分と余裕ね、真澄
私は今にも発狂しそうなんだけど

真澄

まだ発狂するの早いよ、凛
ってか、この顔が余裕に見える?

よく見たら、引き攣ってる……
目が笑ってないし……

二人がこうして、ここに立つのは一年ぶり。
完全に別人となり、今は古い名前を使う少女、真澄。
彼女と共にゲーム勝ち抜いたことのある優勝者、凛。
今度は完全に目的を同じとして、ここにいる。

一度は裏切られ裏切って、二度めは手を組み最後まで生き残った。
人を殺した経験がある彼女達にとって、既に殺人は覚悟を決めるほどのことでもない。
ただ、必要ならば経費として行うだけのこと。
二人は、それだけの強さを既に秘めている。

ゲームマスター

はいはーーーい!
大変お待たせいたしましたーーーー!
みなさーん、本日はお集まり頂き誠に有り難うございますうううう!

ゲームマスター

へい、突然の事にビビってるんじゃねえぜ!?
今回のゲームを取り仕切ります、ゲームマスターの僕! デスッ!
以後よろしくぅッ!
あ、あとお久しぶりの方々もいらっしゃる?
そんな怖いフェイスしないで、スマイルスマイル!!

突然テレビ画面に電源が入り、SDキャラの全身黒タイツの何かが仰々しく飛び出してきた。
背景はこの洋室。
アニメ風景になっているが、恐らくそうだろう。
ぎりり、と奥歯を噛み締める二人にスマイルと言ったのだろうか。

ゲームマスター

此の度は!
『断罪ゲーム』へのご参加誠に有り難うございます!
新しいゲームってことで今回は記念すべき第一回目!
ハイテンションでいきますよー!

ゲームマスター

そんじゃあ、気張ってルール説明とかししゃいますよ!!

くるくるピエロのように回りながら、ゲームマスターと名乗る黒タイツは画面に注目! と言う。

ゲームマスター

まず!
『断罪ゲーム』の概要を説明するよん!
シンプルに言おう!
これは君たち『プレイヤー』が『罪人』と呼ばれる人間たちを片っ端から断罪してポイントを稼ぎ、一週間以内に設定された上限を満たすことでクリアになる、そんなゲームなのですっ!!

つまりはシンプルなデスゲームと見せかけた、バトルロワイヤルか。
真澄は内部事情を知っている。
大体これだけで言いたいことは分かった。
凛もこちらを一瞥して、意図を察した。

ゲームマスター

期限は一週間!
それまでに1000Pまでポイントをためた人はこのゲームから脱出できるよ!!
例のごとく、賞金もたんまり出るからご安心ください!
『プレイヤー』の基礎持ちポイントは100P!
つまりは900Pを貯めればおけ、ってことね!
更に武器などはこの館の中に沢山隠してあるから、見つけてパワーアップしてどんどんポイントを稼ごう!
あ、さっき配った端末で確認できるんで

罪人とは名の通り罪人。つまり犯罪者。
それをぶっ殺してポイントを稼ぐというのが基本ルールだということ。
人を殺せ、と言われたのだ。
しかも期限内に終わらない場合は、プレイヤーが殺されると脅される。
顔色を変えるプレイヤーたちのなかで、二人は冷静に話を聞いていた。
こっそりと、ある準備を始めながら。

ゲームマスター

因みにプレイヤー同士の殺し合いもオッケーだからね?
その場合は相手の持ってる全てが自分のものになるから
ただまぁ、罪人よりも遥かに難易度高いし、罪悪感とかもパネェことになるから、オススメはしないけど

今重要なことを言った。
やはりこのゲームはただの殺し合い。
誰を殺しても問題はないと今、ゲームマスターは告げたのだ。
殺すと脅した後に言うことで、印象づけさせないつもりだろうが、二人はしっかりと聞いていた。
同時に安心した。これでルール違反ではないと。

ゲームマスター

まぁ比較的、ルールは緩いから安心してちょ
ああ、でもこれだけは言っとくね
女の子に変なことするとか、ちょっと人には言えない性的なことしようとする野郎は、その場でダイナミック去勢するんでよろしく
下のタマと上のタマが両方吹っ飛ばす

ゲームマスター

そういうのはエロゲーだけで十分です
ここはデストロイ! するところですからね?
モザイク処理される象さんとかやめてよ?

要するにケダモノは排除するとってことらしい。
常識と倫理を守って楽しい殺し合いを! とゲームマスターは言う。

真澄

そんなもんあったらそもそもこんなことしないだろうに

以下同文

二人のツッコミは置いておくとして。
ゲームマスターは続ける。

ゲームマスター

プレイヤーにはそれぞれ武器と特殊能力が与えられているのだ!
あと、基礎ポイントも人それぞれ違うから、そこんとこ注意
強ければ強いだけ補正が入ってるんで、これミスると呆気なく死ぬんでな?
種類が二つあって、『処刑人』と『断罪者』っていうのがあるんだお!

……プレイヤーへの特殊能力と武器。
一度経験しているとはいえ、何の違いがあるのか。
よく聞いておかないといけない。

ゲームマスター

まず『処刑人』ってのは、能力は基本一つで基礎ポイントの補正は低い、けど数が多い!
つまりはまあ雑魚の集まりといいますか、一般人的なモンですわ

ゲームマスター

対して『断罪者』は能力が二つ、しかも強い奴
しかも補正が馬鹿みたいに高い怪物さんですね?
何度もこの手の事を経験している手練ですんで、迂闊に手を出すと自分がカモにネギでお鍋になるんで、そこはよく見ておくように
個人情報は、自分の端末で確認しておくと吉かも!

二人は片手間で、端末を既に操作していた。
多くのプレイヤーはテレビ画面に向かっている中、数少ない隙を使っていた。
そのほかにも生活はどうするかとかは、非戦闘エリアの移住区という所に退避していればオッケーらしい。
そこは戦闘禁止なので、違反した場合は死ぬ。
それだけだ。確かにシンプルなゲームだ。
兎に角ポイントを稼いで、達成すればいい。
何時ぞやのゲームなどに比べれば、わかりやすいことこの上ない。
これで、大体の説明は終わったようだ。
いよいよ、説明が佳境に入る。
……と、並行して二人も動く。

ゲームマスター

まあ、基本的な概要はこんなものですよん
因みにゲームはもう始まってるから――

ゲームマスターがゲームが始まっている、という単語を聞いた瞬間、動く。
二人は隣同士で説明を聞いていた。
真澄は右を、凛は左にいた人物を見る。
双方、テレビに釘付けで隙だらけ。
これは、好機だった。

という乾いた炸裂音が三回、突然発生した。

ゲームマスター

おろ?

他のプレイヤーが、驚いたようにその方向を見る。
画面の中のゲームマスターがちょっとだけ吃驚していた。
そこにあったのは。

真澄

ごめん凛、前の奴一緒のタイミングだったみたい
補正とか能力の報酬が半分になっちゃってる
どっちいる? 『アンロック』と『オートヒール』
私、余った方でいいよ

そうね……なら、『アンロック』を頂戴
『オートヒール』は真澄が使って

真澄

サンキュー
これで私、ポイント420みたい
ごめんね、半分持ってちゃって

気にしないで
私も400まで上がったし、初手としては悪くないわね

倒れる、三人のプレイヤー。
頭から血を流している。
その間に立つ、二人のプレイヤー。
片手に端末、片手に硝煙の上がる拳銃を持って話していた。
前に倒れている男性の後頭部には、二発の銃痕が残っている。

ゲームマスター

ちょぉー!? 
初っ端から『断罪者』三人も殺してくれてるぅ!?
何してくれてんのキミたちぃ!?

テレビ画面の中でゲームマスターが仰天の動作で二人を指差す。
二人は、しれっと言い返す。

真澄

ハァ?
さっき、ゲームはもう始まってるって言ったでしょ?
何がいけないのさ
ゲームマスターさんよ

別にルール違反をしているわけじゃないわ
何か、悪いことをしたのかしら?
少なくても、提示されたルールは守っているけれど?

真澄

すぐにクリアしてあげる、こんなゲーム
元部下を舐めんじゃないよゲームマスター
代理をやっていたのは伊達じゃないんだ

そう、伊達じゃないわ
二度もこの手のゲームでクリアしていないもの

……誰もが絶句していた。
説明中に突如起きる殺人。
騒ぎたくても、それを行なった二人が周囲に銃口を向けている。

真澄

騒いだら、騒いだ奴から殺すよ
こっちよりも早く殺せるモンなら殺してみな

チャンスは最大限に生かすのが常套句だものね
その提案に乗るわ、真澄
前衛をお願いできる?

真澄

任して!
背中は預けるよ、相棒
ここで速攻終わらせてやろうか

異常に好戦的な態度。
この二人は本気で全滅させる気だと知ったゲームマスター。
更にもう片方の少女は、手元で調べると嘗てこちら側だった人間ではないか。
何が起きているのか分からないが、兎に角やめさせる。

ゲームマスター

レテッテー!
そこの二人含めて全員にルール追加!
今日はこの部屋出るまでは闘争禁止!
説明中におっぱじめるとか非常識極まりないよ!?
おっけー!? 
これ以上の稼ぎはNG、NG!

真澄

チッ……

……ふんっ

二人は詫びることもなく、銃を仕舞い込む。
二人して端末をいじり始めて、互いに背中合わせにそっぽを向いた。
唖然とする他のプレイヤー。
足元に転がる三つの死体。
説明中に事を起こした二人は、イライラしたようにゲームマスターに言う。

真澄

早く説明終えろっての……
長いんだよ、さっきからチマチマと
こっから出た瞬間、みんな殺してやるから早くしてよね

下らない戯言なんてどうでもいいのよ
こっちは早く終えたいの
早く帰りたいの
ゲームマスター、私達が大人しくしているうちに終わらせないと……
今度は、三人どころじゃ済まないわよ?

追加が全く枷になってない。
それどころか、逆鱗に触れたかのごとく、怒り狂っている。
死体を踏み付ける、蹴り飛ばすなどの行為まで始めた。
出鼻をくじかれるゲームマスター。完全に主導権を奪われた。

ゲームマスター

やばいやばいやばい……!
このままじゃ始まった途端にゲームが破綻する!
分かったよ! もう説明終わり!
詳細は端末に後で送るから!
で、他のプレイヤー諸君に告ぐ!
今すぐ逃げてー! 
超逃げてーーーー!

ブツッ! とテレビの電源が落ちる。
静まり返る、室内。みな、二人を見る。

真澄

…………

…………

不気味な満面の笑みと、照れたような場違いの顔。
銃は既にこっちにむいている。
はっきり言おう。背中に寒気を感じる程の恐怖。
この時、プレイヤー大半の心境は見事にシンクロした。

に、げ、ろ!

彼らは小さな出口に殺到した。
脱兎の速さで、我先に逃げていく。
バタバタと、凄まじい速度だった。
最後の一人まで見送ると、真澄と凛はゆっくりとその後を追いかける。

新しいゲーム『断罪ゲーム』は、二人の先手から始まることになった……。

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