じゃあ今日は沙希ちゃんとデートだったわけだ

まぁ、そうだよ

お楽しみだった?

どうしてわざといやらしい意味を響かせる

俺は母に夕飯の席で沙希とのデートをネタにいじられていた。

どこまでやった?

あんたそれでも母親か?!

訂正。セクハラを受けていた。

いやいや母親だからこそ知っておきたいというか

俺はむしろ母親だからこそ知られたくないよ!?

本当に、どこまでもやってないけどさ。

強いて言えば手を握ったくらい。

いやぁ孫の顔が楽しみだわ

俺の話聞いてた?!

本当になんなんだろう。やけに絡んでくる。

ふいに公園での出来事を思い出す。

俺は『何か』に出会った。それは決定的だった。

だけど改めて思い返してみれば、非現実的すぎて夢のよう。

いや、むしろ夢だったのではないだろうか。

きっと、沙希から逃げたがった俺の願望。

幼なじみでもなく恋人でもなく。ただ俺を、俺だけを見てくれるような。

真面目な話だけどさ

そう思っていたら、母は急に真剣な声音を出した。

上の空だったから。彼女が何を考えてそんな声を出したのか読み取れない。

俺はいつものように笑い飛ばすこともできず、黙って聞いた。

あんた、今の青海学園卒業して、大学卒業したら社会人じゃない?
就職先とか年金とか色々考えることもあるだろうけど、私が一番心配してるのはまた一歩、私の目の届かない場所にあんたが行っちゃうことなんだよね

うん

もちろんしばらくはこの家に住むだろうけど、いつかは一人暮らしになるだろうし、そもそもすでにいい大人なんだから帰ってくるのが遅くなることも増えると思う。
そうやってあんたは私が守ってあげられないところに行くことになる

そうだね

神妙に聞く。

だけどそれは母の言葉に感化されたわけでもなく。

きっと頭からあの少女のことを消し去るため。

だからせめてあんたの隣に沙希ちゃんのように私が安心できる子がいてくれたらって思うんだ。
とってもいい子だよね、あの子

あぁ

本当にその通りだと思った。母がそういうくらい。俺にはもったいないくらい。

子供の付き合いに大人が口出しするのも筋が違うってのはわかってるんだけど、それでも母親としてのわがままだと思って聞き流してちょうだい。
沙希ちゃんといつまでも仲良くね

わかってるさ

俺は頷いた。母はそれを見ると真剣な表情を崩して破顔した。

さて、堅苦しい話はここまでにして夏月と沙希とのくんずほぐれつを

最低の話題転換だな?!

少しでもこの母を見なおしてしまったことがすごく悔やまれた。

そんな呆れた表情を見せた後、

俺はちゃんと笑えていただろうか。

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