俺は今夜も早めに寝床についた。

カーテンから漏れる窓明りは今日も天井に緩やかな模様を描く。

明日は沙希と外出だ。

ふたりっきりのお出かけ。それ自体は昔から何度かあったけども。

明日みたいに買い物とかの目的のない外出。言ってしまえば外出自体が目的の外出は初めてかもしれない。
デートと呼んでいいのかもしれない。

デート。沙希と。

それはこそばゆいような、しっくりくるような、そんななんとも言えない感覚を俺にくれた。

沙希は、俺のなんなんだろう。

ふいに疑問が浮かぶ。

幼なじみ。それだけなのか。

普通の幼なじみとの関係ってこんなに近いものなのか。

それとも、沙希は俺にとってもっと近しいものになろうとしているのか。

アノ日をなかったコトにできるのか。

わからないけど、悪い気分じゃない。

明日が純粋に楽しみだ。

俺はそのまま明日への期待を胸に眠りに落ちる、はずだった。

なぜだろう。怖いことなんて何もないはずなのに。いつも通りだから大丈夫なはずなのに。

俺の身体は唐突に震え始め、肩を抱いても押さえ付けてもまるで極寒のなかにいるかのように収まらない。

全身に鳥肌が立ちがたがたと歯が音を立てる。

俺は焦る。違うのに。大丈夫なのに。どうして俺はこんなにも怯えているのだろう。

止まってくれ。止まってくれ。定まらない思考で一念にただそれだけを声なく叫ぶ。
指を齧る。大丈夫なのだから。震えてはいけない。大丈夫なのだから。

ガリッと肉のちぎれる音がして指から血が流れる。鉄の香りが口いっぱいに広がる。

平気平気ヘイキ平気平気平気。

涙が止まらない。血も止まらない。

俺は首を強引に回して天井に視線を逃した。

そこに描かれる窓明りの模様はただ俺を見下ろし微笑むだけだった。

夜が明ける。

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