美味しい?

もちろん

良かったぁ

沙希が花咲くように笑う。用意されたセリフなんかでも、喜んでくれる。

今日も昼休みは、沙希と一緒に沙希の作った弁当を食べていた。

昨日はありがとうな

ん?何か感謝されるようなことかずくんにしたっけ私?

たくさんあるけど、今感謝してるのは昨日母さんの夕飯食べに来てくれたこと。昨日も言ったけど

そんな、私も楽しかったし美味しかったし。
というかむしろ呼んでくれてありがとうね、かずくん。
昨日も言ったけど

そういっていたずらっぽく笑った。

沙希がそういってくれると母さんもきっと喜ぶよ、伝えとくな

もちろん本心だからね?佐智子さんによろしく

了解

そして俺たちの間に束の間の静寂が訪れる。

それは居心地の悪いものではなくて、むしろ心やすまるような。

ふと彼女の方を見ると、逃げるように逸らされた。

耳が赤い。きっと俺は見つめられてたんだ。そして沙希はそれを恥ずかしがって。俺は気づかなかったふりをしながら、笑いを噛み殺す。

沙希といっしょにいると時々ある。こんな優しい静かな時間。

天使が通ったなんて表現があるらしいけど、こんな空気のことだろうなと思った。

思おうとした。

そうだ

どうしたの?

しかしそんな空間を打ち破ったのは俺だった。他意はない、はず。

明日休日だよな?

土曜日だもんね

それがどうかした、と言いたそうに沙希はなおも傾けた首を元に戻さない。

昨日のお礼も兼ねてどっか遊びに行かないか?

え、かずくんと?

俺が誘ってんだからそうに決まってるだろ

俺は苦笑しながら頷いた。

二人っきり?

あ、他の人も誘った方がいいかな

確かに一日中俺とだけ顔を付き合わせるというのも気詰まりかもしれない。

ううんううん、全然いいよ

しかし沙希はすぐに首をぶんぶん振った。

そうか?

沙希がそう言うなら良いのだろうと思って、俺は誰を誘ったものかと思案していたのをやめる。

これってもしかしなくてもデートだよね……

ん、なんか言ったか?

ううん、なんでもないよ、難聴主人公さん

小馬鹿にするように、微笑む。

この前お礼はデートで良いって言ってたしな

聞こえてんじゃん!!

え、何が?

なっ!!あぁ、もう!!!

どうしてか沙希は更に顔を赤らめていた。

まぁ聞こえてたんだけど。

ところでどこ行くの?

沙希はごまかすように尋ねてきた。特に行き先は考えていなかったので今度は俺が焦ってしまう。

えっと、映画とか?

うん、いいね。今だと何やってるかな

あぁちょっと待って、調べるから

俺たちはケータイを囲んであれでもないこれでもないと、明日の予定を話し合った。

とても楽しかった。

楽しい、つもりだった。

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