じゃあ、かずくんは私と遊んでた時以外はほとんど

彼女はくるりと振り返りながら、不満気に頬を膨らませてみせた。

ゲームばっかりして夏休みを過ごしたってこと?

そうなるな。言われてみると

はぁ……

沙希は呆れたようにため息を吐いた。

というかたぶん本当に呆れてる。これはそういう顔だ。

こんなことならもっと外に連れ出してたら良かったかなぁ。遠慮したのが間違いだったよ

そんな以心伝心の幼なじみは後悔するように言った。

遠慮?遠慮なんかしてたのか

したよぉ。だってかずくんが他の子と遊ぶこともあるだろうし、私が毎日押しかけたり連れ出したりしたらさすがに迷惑かなって

しかし俺は彼女の言葉が理解できず、混乱する。

そんなの俺に訊いてみないとわかんないじゃん

俺は音が遠のく意識で、少し苛立ち混じりに吐き捨てた。

苛立ち混じり?

どうして俺は意味もなく苛立ってるんだ?

そうだけど、もし仮に私がかずくんに訊いたとして。かずくんが私に気を使って何も言わずに予定空けたりしたらやっぱり悪いよ

そんなことするか?しないと思うぞ普通

そうか、そうだよね

少し残念そうに沙希は笑った。

どうしてそんな顔をするんだよ。

あの時、

オレを――――シタクセニ。

ふいに諦めが降ってくる。

何かに期待することをやめて無理に自分を納得させる。

もしかしたら沙希のいうそれは、幼なじみ同士なら当然の配慮であるべきなのかもしれない。

俺にはわからないけど、そんな気を使い過ぎて生きにくいような関係が。

普通の幼なじみなのかもしれない。

だから沙希はそんな顔をするのかもしれない。

だから俺は苛ついてしまったのかもしれない。

違う違う違う違うチガウチガワナイ

そしてもう、何もかもわからなくなる。

わからないけど、わからないから。

わからないなりに急に暗くなった雰囲気を笑い飛ばそうとした。

沙希は変なとこで遠慮するからなぁ……
もっと図々しくなってみよう!!

うん、ごめんね

沙希はうつむいてしまった。きっと俺の気持ちが伝わってしまったから。

以心伝心。

俺の作った笑顔は誰の目にも映らない。

俺が思ったことも誰の心にも届かない。

俺は居心地の悪さをごまかすように、その頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

うわわ、かずくん?!!

うるさい

思った通りの反応に本物の笑みをこぼしながら俺はぶっきらぼうに返した。

あぁ、もう髪がぐしゃぐしゃだよう

手を離してやると、沙希は涙声で髪を撫で付けながら言った。

沙希は可愛いな

え、なんて言った?今。もう五回くらい言ってもバチは当たらないと思うよ

聞こえてたくせにわざと訊き返してくる。

なんでもない

う、うん。そっか

なんでもないって言ってるのになにやら機嫌を直したようで、えへへなんて笑ってる。

かずくんだし、しょうがないよね

うるさいよ

そんな沙希を俺は横目で見て安心する。

大丈夫、いつも通り。

そういえば、今日。母さんが沙希を夕食に呼んでいいって言ってたんだけど。どうする?

このタイミングでやっと切り出せた。切り出す何かを思い出した。母に声なく感謝する。

佐智子さんが?え、いいのかな?

だーかーらー

あ、そっか。うんわかった。じゃあ遠慮せずにおじゃまするね

了解

俺は沙希が来る旨を母にメールした。

そんなこちらのようすを沙希は心配そうにうかがってたけど、目が合うと取り繕うように微笑んだ。

早く帰らないとね

そうだな

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