親切な職員さんに道を教えてもらい、僕たちは先に進む。
神様登録ですね、すぐそこの角を曲がった先にある『概念固定体対策科』へ進んでください
はい、ありがとうございます
親切な職員さんに道を教えてもらい、僕たちは先に進む。
お、おい、なんじゃさっきの者は! マスクを被っておったのじゃ!?
え、まあそうですね
おかしいとは思わんのか?!
政治家もマスク被って選挙に出てますし、普通ですよ
おかしい、おかしいのじゃ……
そうこう言っている間に、僕たちは『概念固定体対策科』の扉前にたどり着いた。
失礼します
といって、僕は扉を開けた。
中は、袖机があるオフィスデスクにオフィスチェアが十セットほど並んでいる、普通のオフィスだった。
奥には重役用の机・椅子に、面会用のソファとソファテーブルが置かれており、更に奥には会議室、と書かれた敷居扉があった。
こんにちは、神様登録に来ました
ああ、受付から聞いてるよ。どぞ、こちらに
すると、奥からメガネを掛けた男が出てきた。
ワイシャツにネクタイをつけているが、ネクタイは閉めておらず、ボタンも第二まで止めていないというどこかチャラけた風貌の人だ。
あー、固くならなくていいぞ。こっちも国の事務的な仕事としてはやらないつもりだし
はあ
こういうのはね、気楽にするもんさ。固くなっても良いイメージは浮かばないしな
イメージ?
ま、その話もこっちでするから、さ
いまいち言ってることがわからんのじゃ
そうですね
僕たちは職員の言われるがまま、会議室へと移動した。
俺は明方 遊茶(あけがた ゆさ)。概念固定補佐官をやってる
概念固定補佐官ってなんですか?
概念固定補佐官ってのは、神様の形を留めるために神付きの補佐をしている役職のことだ
意味がわからんのじゃ
よし、簡単に説明すっか。ここに立方体があるとしよう。もし、君がこの立方体を片目でみたら、どう見える?
いつも持っているのだろうか、明方さんは何も書かれていないサイコロのような立方体をポケットから取り出した。
うーん、立体視できないから、ただの六角形の絵に見えますね
その通りだ。では、俺が君が見ている側面から、こちらも六角形に見える、と言ったら?
なるほど、それは少なくとも立体だと分かりますね
つまり、俺は神付きの一視点からでは固定できない概念を、別視点から認識し、固定することで神様を留める手助けをする役ってことさ
ほー、なるほど、すごいのじゃな
もちろん、危険な神様や、能力の幅が大きすぎる神様の顕現する範囲を狭めたり、能力を決めつけたりすることもある
あ、もしかして、首領さんも?
秘密結社の概念神か。ありゃあ大きな案件だったな。ここの職員総出で補佐してやっとだったよ
首領さん、よくこっちに来れましたね……
概念神はまだ不明なことが多くてなー。悩み種の一つさ……っと、では、君たちから教えてもらおうか
なんじゃ?
君たちの出会い話を
どうしよう、
全然信仰が湧かねぇ!
明方さんは僕と穂波さまから話を聞いて頭を抱えた。
どうしようと言われましても
喧嘩を売っておるのかお主!
僕と穂波さまは困惑の表情と怒りの表情を明方さんに向ける。
確かに昔はすっげー神様だったんだろうが、何?
江戸時代位から他の神様のヒモになって?
超絶ニート暮らしてる間に棚田が作られなくなって?
死にそうになってるから少年に神付きになれと?
信仰心のかけらもでねぇよ!
ガン! と机に頭をぶつける明方さん、大丈夫だろうか。
ぐっはあぁぁ!
そして事実を言われて心に矢を受ける穂波さま。しばらく床を転がっていてほしい。
わー、すっごくわかりやすくまとめていただき、ありがとうございます
どういたしまして、じゃなくってだな!
ええ
しかも、分霊体でもなく、御霊でもなく、生き神だから俺の必要性ないし!
確かにそうですね
久しぶりの、現世にいる神様だから楽しみにしてたんだがなぁ
なんか、すみません
いや、こっちの勝手な期待だ。謝らんでいい
と明方さんはいうが、ショックは大きいらしく、はあ、と溜息を吐いた。
俺は君らに渡す物取ってくるから、この書類の青いところに必要事項を書いてくれ
わかりました
……渡すものじゃと?
ああ、神様と神付きに支給される、特別製の八咫烏だ
マスク職員
(笑)
(^O^)