では、首領さん。また今度。オーナーにもよろしく言っておいてください

首領

ええ、また。おっと、そういえば。これをあげましょう

 首領さんが、手に持っていたビニール袋をガサゴソとあさり、中からは丁寧にビニール包装された桜餅が二つ。
 粗めに挽いた桜色の餅と、よく塩味が染みていそうな桜の葉っぱに包まれた桜餅だ。

いいんですか?

首領

ちょうど、鶴亀和菓子店の近くに寄る用がありましたので、いっぱい買ったのですよ

 結社のみんなの分以上は買ったので、心配ご無用ですよ、とニッコリ微笑む首領さん。
 ちなみに、鶴亀和菓子店は江戸時代から続く老舗だ。
 特徴は、滑らかに舌と交わるこし餡と、歯ざわりの良い餅の絶妙なバランスだ。

穂波さま

おー、桜餅ではないか

 穂波さまは首領さんの手のひらに乗っていた桜餅をひょいと取り上げ、ビニール包装を剥ぎ取り、口の中に入れる。

穂波さま

う、うまっ、なんじゃこりゃ!

首領

でしょう? 鶴亀和菓子店は私のイチオシです。ぜひ今度行ってみては

穂波さま

鶴亀和菓子店か、覚えておくのじゃ

首領

ええ、そろそろ店に並ぶ柏餅など、絶品ですよ。笹餅も捨てがたいですが

穂波さま

おおう、それは……よだれが止まらんのじゃ

首領

ふふふ、それでは

 首領さんはもう一個の桜餅を穂波さまに、さらにもう一個を僕に渡して、すたすたと立ち去っていった。

穂波さま

あやつ、良い奴じゃのう

ええ、秘密結社の神とは思えないくらいに、いい神様ですね

 僕と穂波さまは、ビニールの包装を破り、桜餅を口に放り込んだ。
 存在感のあるもち米の粒と桜の葉の塩漬けのしょっぱさが、こし餡の甘さをより風味よく、鮮烈にする。
 緑茶がほしくなる味だった。

首領

しかし、君はどうしましょうかね……。うちにいるだけでは何にも価値を見出せないでしょうし

ひよこの王様

朕は別に構わんのだ

首領

この世に居る価値を見出すことは怪人・怪獣にとって生命線なのですよ? せめて愛玩されるだけの価値さえあれば、君は存在できるのですが

ひよこの王様

そういわれても、朕を生み出したのは首領、お前なのだが

首領

そうなんですよね、困りましたね

その子、行くあてがないの?

首領

え、あ、はい。そうですが

行くあてがないなら、引きとるけど

首領

……どうしましょうかね

ひよこの王様

朕は、別に良いぞ

首領

そうですか……では、この子をよろしくお願いしますね

ええ。じゃあ、これからよろしく、ひよこの王様……は長いから、ピヨキン

ひよこの王様

ピヨキン?!

首領

では、あなたにもこれを

鶴亀の桜餅、かあ。懐かしい……

首領

おや、知ってるんですか?

昔、食べたことがあるから

首領

そうでしたか

でも……もち米は、前と違っているだろうし、いらない

首領

ちがう?

なんでもない。じゃあね

ひよこの王様

首領、達者でなぁー!

首領

ピヨキンこそお達者で! 誰だかわからない誰かさん、よろしく頼みましたよー!

首領

……どうしてひよこの王様という名前を知ってたんでしょうか?

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