働く女たちに圧倒される
小暮であったが、
どうしても確かめたい事があった。
働く女たちに圧倒される
小暮であったが、
どうしても確かめたい事があった。
もう一つ変な事を聞いてもいいですか?すごく失礼で個人的な事になってしまうのですが
いいですよ。何でしょう?
どうしてここまで彼の全てを直視できるんですか?
俺はそんなふうに安田粧子を理解できなくて逃げ出しました。
良い時もあった気はします。
でも、
俺は彼女の元から去りました。
美代子は一瞬意外な顔をしてから
徐に口を開いた。
彼女も独りになりたかったんだと思いますよ。これ以上、あなたに見て欲しくなかったんじゃないかしら。
何をですか?
仕事に疲れて老いていく
自分。
優しくなくなっていく
自分。
あなたに時間を注げなくなっていく自分…
いろんな余裕の無くなっていく自分を大好きなあなたにはもう見られて欲しくなかった。
だから出ていく小暮さんを止めなかったんだと思います。
…どうして自分にそんな気持ちを言ってくれなかったんですかね、彼女は?
もし冗談でもいいからそんな事言ってくれたら俺はきっと…
きっと、何だよ?
嘘つけよ。
何もしやしなかった
じゃないか。
自分の事しか考えないで
孤独な顔をして
生きてきたんだろうが。
あんなに近くに自分を
見てくれる人間がいたのに。
あいつが俺と一緒に
自分の夢と戦ってほしいって
願っていた事を
わかっていたくせに
わかっていて
逃げたんだ俺は
数か月前、カイロのお話が聞きたくて粧子先生と一回お茶した事があるんです。どうしてカイロプラクティックを始めたのですか?って聞いたら恥ずかしそうに笑って答えてくれました。
半分は女の意地です。
何もない私が何者かになるための。
もう半分はいつか治したい背中があるんです。
彼の猫背をバキバキに矯正してやりたいと思ってます。
それが今の夢かもしれません
小暮は施術する加奈子を横目に
真山に駆け寄った。
ちょっと!まだ施術終わってないんだけど?邪魔しないでくれ…
真山さんの夢ってもう一度リングに上がる事ですよね?
…さっき言ったよな?人生に歪んだロマンを追い求めるなって。俺はただ今よりちょっとマシに動けるようになって美代子にクソの世話させない程度になれば俺は充分…
嘘をつくな!!
小暮は叫んだ。
確信があった。
真山の目は粧子がやさしく
嘘を付くときの目だったからだ。
俺には夢なんてない。
でも筋は通して生きてきたんだっ!!
自分の惚れた女がやりたかった事を追って何が悪い!?
過去と戦って何が悪い!?
俺は本当に間違ってるのか!?
もう俺は今のままじゃいられねえんだよ!
オラ何とか言えよ!!
カッコ悪い俺に勇気をくれよ!
ヒーロー!!
病院じゅうに響くような
大声で小暮は叫んだ。
もし真山さんが…真山仁選手が本気で望むなら、粧子がそうしたように俺も全力であなたをもう一度リングに立たせてみせる!!
俺は…
続く