後日
真山の病室へと加奈子と共に小暮は向かった。
小暮くん。これからは仕事。あなたは私の下僕だから。少しでもトロい動き、余計な言動、まして敬語サボったら覚悟しなさい、パチプロメガネ?
(こんな女だったっけ?)…はい、わかりました。
後日
真山の病室へと加奈子と共に小暮は向かった。
今現在、
織原経華にやらせている
健康マット入りの
青いショルダーバッグを
小暮が持ちながら
加奈子の後ろに付いて行く。
うぅ、重い
何かごじゃごじゃ言った?そこの下僕メガネ?
特にありません
ひーん!重いよぅ!これじゃあ施術してもすぐ背骨歪むじゃないですか!まるで餓鬼界のようだ!
病室に着くとまず美代子が
丁寧にあいさつをしてくれた。
こんばんは。本日もよろしくお願いいたします
あれ、粧子先生は?
病室のベッドの真山は
プロレスラーの面影がなかった。
金髪のパーマこそそのままだが
やせ細り小皺が濃く、
どこにでもいる加齢臭漂う
疲れた中年男性になっていた。
真山仁選手ですよね?
何だ、俺のファンか?
20年くらい前に…浅草のリバーサイドスポーツセンター大会のトイレの事覚えてます?
あんときの!?そうかあ、大きくなったなあ。時の流れは早えなあオイ。そりゃあ歳とったよな、俺も。
公表通りなら
50歳になるであろう真山は
寂しそうに呟いた。
で、なんでお前がここにいるのよ?
小暮は正直にここに至るまでの
経緯を話した。
安田粧子が自殺未遂を図り、
精神病院に入ってリハビリしている事。
安田粧子の元恋人であり、
その意思を受け継いでいま
カイロプラクターに
なろうとしている事。
真山は黙ってうんうんと
頷いて聞いていた。
お前の言い分はわかった。だから言わせてもらう。絶対やめとけ。
言いたい事はわかります。でも俺は…
男に生まれたからはなあ、女の夢にすがるなよ。他人の生き様に乗っかろうとするな
それにお前自身本当はわかってんだろ。その勝負をするにはとっくの昔に時を逸しちまってるって事をよ?お前はまだ若い。考え直しな。
それでも俺は…
痛!ケツの皮がねじれてる!?
いま、お前の話じゃねえだろうが?
いい加減にしろよ、おしゃ×りク×メガネ。
仕事の邪魔するなら家帰って×スかいて寝てろよパチン×ス
ご、ご紹介が遅れてすいません。
こちらが本日から代理で施術してくださる森加奈子先生です。
ごめんなさいね、思い出話に水をさしてしまって。
本日は私が粧子先生のカルテ通りに施術させて頂きますので、よろしくお願いします。
それから小暮がやったことは
病室ベッドの上に施術マットを重ねるだけで、
あとは加奈子の手際良い施術を
美代子と並んでじっと黙って
眺めるのみであった。
よし!やっちゃるか!
加奈子は長い黒髪をピンで
高くまとめ、
背筋を伸ばして支度に入った。
ベッドで仰向けからの足首回し、
首裏の後屈、
半身起こしての肩部筋矯正…
今の小暮でこそ
当たり前の基礎技術だが、
それまでまともに粧子の
カイロプラクティックをしている姿を
観た事の無い彼にとっては
不思議に映った。
先生。女の手でこの体動かすの大変だろ?安田先生も汗だらだら垂らしながら毎回やってくれるもんな。プロレスの試合みてえによ
加奈子の前髪が汗で
頬に何本か張り付いている。
それを拭いながら笑顔で
たしかにそうかもしれませんね。でもこれぐらい大きな患者さんも普段見ているので大丈夫ですよ。私たちも毎日試合してます
加奈子は気丈に笑って見せた。
仕事に自信と誇りを持っているから
自然に出る笑みだった。
小暮は思わず美代子に質問した。
美代子さん。変な事を聞くようですが、安田先生もこんな大変な事をしていたんでしょうか?
もちろんです。全身全霊でプロの仕事をして下さいました。特にこの人はそういう事には人一倍うるさいので
美代子の温かい満面の笑みと
冷ややかに軽蔑する眼差しが
小暮の背筋を凍らせた。
続く