夜を迎えた。
今日は追放者無し。
人狼は迷っていた。

今日、誰か襲うか。
恐らく、占い師は二人の『蛇』のウチのどっちかを占うだろう。
確かにリスクはある。だが、半々なのもまた事実。
失敗すれば死ぬかもしれないが、半分の確率で黒がわかる。
どの道黒を見つけ出さずに追放するのも、占って発見するのも何らかのリスクはあるのだ。
だったら、あの性格からして攻めてくると狼は判断する。
そして、占う相手は間違いなくもう一人の方だ。
確信がある。あの短気な女ならそうするに違いない。
どの道、今日は昼間に誰も死ななかった。
反旗を翻す『霊能者』を殺しても意味はない。
『占い師』は放っておいても自滅する。
だったら……あの確定白の女を狙ってみるか。
一条神無。
奴が『村人』ならこちらの勝利、『狩人』ならば『占い師』を巻き込んで死んでくれる。
他のグレーの如月とかいうあいつは……『狂人』だろう。
残った地味な眼鏡がその残った役職だろうと『狼』は踏んでいる。
嘘をつかないぶん、あの言動で周りを振り回している如月は、最初から狂っていてお話にならないということはよくわかった。

『狐』は誰かもう知っている。
初日に失敗したとき、既に招待を暴いているのだ。
……今夜もまたリスキーだ。
ハッキリ言って、不利だがやるしかない。
御子柴は……運が悪かったのだ。
敵討ちをする切りはないが、まあ頑張るだけ頑張ってやる。

わおーん! と狼の遠吠えが夜空に響き渡る。

天都

なんでまた、集まってるんだよ……
集まらないって言い出したのはお前だろうが……

月子

兄さんが、私を信じてくれないから……
こうなったら、物理的に信じてもらおうと思いました

月子

それにもう、私は兄さんを疑うことはないのでここにいてもいいんですよ

春菜

そうだよ天ちゃん
月ちゃんが『狼』じゃないって証明するなら、この方法でもいいと思うんだ
わたしたちは白だしね、ここにいても問題ないよ

神無

…………私は……なぜここにいるの……?

その日の夜。
夕飯を食べて、提示を過ぎた天都の部屋に、女の子三人が押し掛けて一緒に夕飯を食べていた。

『蛇』だという月子。
『霊能者』である春菜。
『狂人』の神無。
彼女達は天都の信用を勝ち取るの為、部屋に押し掛けてきたのだ。
神無は道中、回収されて連れてこられた。以上。

天都

いやまぁ、たしかにそれはそうだけど……
これ、どうやって寝るんだよ
ベッド、一つしかねえんだぜ?

天都

……まぁ、俺は床でいいけどさ

一緒にいて、怪しい行動を妹が取らないかどうかを見張ってもらう為に来たらしい。
否応でもそうすれば真実が見える。

月子

ま、私は人殺しよりもヤることがあるのでそっちを優先しますけど

天都

月子、またよからぬ事を企んでいるな
主にピンク色の既成事実関係のことを

月子

ま、まぁ……
否定はしません

天都

やっぱりか……

神無

もしかして……妹さん、変態?

春菜

うん、今更だけどね……
思いっきりメーター振り切ってる変態さんだよ

春菜

大丈夫だよ、天ちゃん
少しでも、如何わしいことしようとしたら、オトすから
身体にダメージ入らない程度に、ね?

怖い笑顔で月子のエロ暴走を止めるという春菜。
呆れかえった神無は、珍獣を見る目で月子を見る。
既に照れてはいるものの、発情している月子は兄をじっと狙っていたが、守護者春菜に矛先を変える。

月子

おや
またも私の前に立ちはだかるというのですか、春菜さん

春菜

そーゆーことは学生のうちに始めたら、将来不味いことになるよ
天ちゃんの貞操は渡しません

月子

……いっそ、三人でもいいですけど?
わ、私としては、それも吝かではありません
春菜さんなら、ギリギリ許せる気もします

春菜

くっ……妥協してきたね、月ちゃん……
うーん……でも三人で、かぁ……
興味がないわけじゃないけど……

天都

いやいや、悩むなよそこはっ!!
懐柔されてる、絆されてるよ春菜っ!

春菜

――ハッ!?

月子

考えを変えまして、兄さんを篭絡させたのち、春菜さんもうるさいので抱き込む方向で方向転換します
こうすれば立派な大奥の出来上がり
誰もがハッピーエンドですけど兄さん?

天都

俺がハッピーじゃねえだろうがッ!!

相変わらず、妹は兄の身体を狙っているようだった。
肝心の春菜も、宛にならない。
やはり自衛だけが最後の砦。

神無

天君、可哀想……

神無は遠くでやり取りを眺めて、マイペースで夕飯を食べ続ける。
関係なさそうに、黙々と食べていたのに。

月子

ん?
何です一条?
もしかして入りたいんですか?

神無

ぶふっ!?

月子の一言で、神無には非常に稀な、もしかしたら人生で初めて、食事中にパスタを吹き出すという汚いマネをした。

天都

うわ汚ェ!?
おい、大丈夫か神無!?

天都が立ち上がろうとしているのを、手で制する神無。
それよりも、否定するべきところがある。

神無

げふっ……かふっ……!
わ、私は……そんなこと……!
思って……ないっ!!

神無が月子に珍しく強く否定する。
あくまでまだ、まだ友達であって、そんな関係は望んでいない。
そんな想像もしないと言ったら嘘になるけど!
が、月子は知らんぷりで、その言葉を聞かない。

春菜

一条さんも天ちゃんの事を……?

月子

恐らくは

月子と春菜の共通認識。
二人はライバルであり、牙をむいて常時威嚇し合っている仲だ。
二人して、天都を異性として気にしている。
何年も、何年もずっと。
そこに嫁だとか言ってるストーカー、立夏が出てきた。
あいつは恐らく構って欲しくて追い回しているだけだと二人は思う。
天都の嫌がりよう、そして春菜に言ってなかったのは予想だが、天都は半分諦めていたのだろう。
追い払ってもついてくるしつこい女だろうから。
つまりあいつはただの敵。排除すればいい。

神無

私は……そんなこと思って……ない、し……
ただの、友達、だし……
……そんな……つもりは……

ボソボソと言い訳を続ける神無は、次第に顔を赤くして俯いていく。
今はまだ、自覚はないだろう。
だが仲の良い女子には友好的な天都のことだ。
全自動で攻略してすぐにでもフラグが立ってしまう。
ってことは、神無も最終的に……。

春菜

月ちゃん、わかってるよね?

月子

当然ですよ、春菜さん

二人は互いを一瞥して、この女も危険だと判断。
最初から洗脳してこちら側に引き込んでしまえばそれで良い、と決めた。
危険な芽は、早いうちに摘み取る。
無益な争いを避けることにすれば、自分から彼が離れていく事を阻止できる。

結局、だ。
天都の女難は普通だと思っていたら普通じゃなかった幼馴染と、最初からフルスロットルで変態の妹によって決定されていたのだ。
人、これを「同じ穴の狢」という。

天都

おい待て、何で手を組んでるんだお前ら!?
神無に何をする気だ!?

天都が二人を止めようとして、するりと抜け出し神無を左右から挟み込む。
そのまま部屋の隅っこに連行された。

神無

えっ……
な、なに……?

春菜

月ちゃん
一条さんも巻き込もうか
平和なほうがいいし

月子

ですねー
一条、兄さんをシェアしてあげますので、ここは停戦協定を結びましょう
嫌とは言わせませんよ?

春菜

怖くないよ、一条さん
なんにもする気はないし
ただ、天ちゃんをシェアするだけ

神無

……シェア?

天都の女難が激しいことにならないように、手を結べるモノ同士、平和にしていこうというになっていたらしい。
春菜が月子の暴走を止めるために始めたことだ。
根本にある独占をさせないようにしつつ、欲を満たすように配慮している。

天都

勝手にシェアすんなッ!

シェアだけが聞こえて叫んだが全部無視。
彼の為にやっていることだ。
これ以上、心労を増やさないために。

天都

……なんか、具合悪くなってきた……

それ自身が、彼を苦しめているという本末転倒。
三人はまるっきり、聞いていない。

神無

分かった……
そういうことなら、私もそうする……

基本的に、提示された条件は神無には都合が良い。
この協定に参加すれば、怖い思いもしないし、天都との時間も問題なく増える。

天都

神無、なんだったんだ?

神無

ううん、天君は気にしないで……
余計な事も、手間も増やさないから……

嬉しそうにしている神無。
スッキリした様子で戻ってくる二人。

春菜

これで一条さんとも仲良くできるね

月子

余計な手間が省けてよかったです

天都は思う。
もしかして、自分の女難はそうそう終わらないのかも、と。
それはとても今更なことであり、既に後の祭りなのであった。

天都

…………

天都

超狭い

消灯することにした。
本来の目的である、月子監視は共に眠ることで解消されるとか意味不明な事を月子が宣い、起きていても寝落ちしていたら意味がないとか言って。

月子

流石にシングルに四人は、狭いですね……

春菜

わっ、わっ……
落ちちゃうよ、月ちゃん
押し出さないで

神無

……天君、顔近い……

天都

ごめんごめん、壁の方に向きをかえるよ

神無

わっ

春菜

お、落ちちゃう……

月子

兄さん、寝返りうつのやめてください!
春菜さんが落ちるでしょうが!

天都

どうしろってんだよ……

ベッドは一つだけ。
天都が床で寝ると言っているのに、月子がそれでは意味がないと言って、強引にシングルベッド一つにぎゅうぎゅう詰めで眠ることになった。
天都は幸いヘタレかつ、女子に手を出せる人間でもない。
問題は月子の方で、壁際に天都、神無、月子、春菜の順番で寝そべっている。

精一杯壁に寄っている。
小柄な女子たちとはいえ、本当に狭くて互いの顔が異常に接近している。
そんな中、神無は微笑んでいた。

神無

天君……安心できる匂いがする……

春菜

あっ、それわかるかも
天ちゃんって、安心できる匂いがするんだよね

月子

同感ですね
兄さんと一緒に寝るとよく眠れるんですよ

女子たちはそんなことを言っている。
何故か扱いがどんどん酷くなって行く気がする。

神無

ふんふんと鼻を鳴らしてニオイを楽しみだす神無。
天都は黙って眠ろうと努力する。

春菜

えと……これで

月子

くっ、やりますね

俯せになった春菜と月子はベッド前の棚にあったポータブル将棋で、小さな明かりを灯して遊び出した。
寝るんじゃないのか。

そんな夜を過ごしながら、なぜこうなったとかも思うのが面倒になって、天都は寝る。
考えたって、どうせどうにもできないのだから。

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