辟易した様子で、未来は周囲を一瞥した。
二日目の話し合いを始めることになった。

未来

……で?
あたしがいない間に、一体何が起きているのよ

周囲は緊迫した空気が漂っていた。
戻ってきた未来が、よく分からない空気に戸惑っていた。
というか、殆ど大半が困っていた。

だからさぁ~……
あたしがカウンターカミングアウト? したの
本物の『蛇』はあたしだよーって

月子

…………

そう。
月子が『蛇』だとカミングアウトしたのに対して、エビもまた対抗で『蛇』だと主張し始めたのだ。
つまり本来一人しかいないはずの『蛇』が現時点で二人いる。
片方は間違いなく偽物、黒だ。
それが『狼』なのか『狂人』なのかは、ほかの面々には分からない。
だが、黒である『狂人』を知る天都と本人の神無は知っている。
このどちらかは、間違いなく『狼』である。

このタイミングで出るなんて最悪だよ……
大体うちらは第三陣営じゃん
勝敗にあんまり関係ないのに何で殺しに行くわけ? 意味わかんないよ
夜伽妹さんが人狼なんじゃないの?

月子

言ってくれますね、エビ
エビの方こそ二連失敗を悟られるのが嫌で出てきたのでしょう? 
貴方は人狼が殺したと言いたいわけですよね?
失敗を知られると舐められますからね
あなたの方こそ『狼』ではないのですか?

いあ、あたし誰も殺してないし
勝手に人殺しにするのやめてよ
あんたじゃん、殺したの

月子

それについては否定しません
私は『蛇』の役職で殺したに過ぎませんけどね

わっかんないやつだなぁ!
あたしが寝てたのはさぁ、関係なさそうだからおとなしくしておこうと思ってのことだっての!
巻き込んだら嫌な気分になるしさ!
大体、『狼』がこのタイミングで出る理由がそれ?
説得力なさすぎだから

月子

あなた、わかってます?
『蛇』は『狼』の最高の隠れ蓑なんですよ?
それを防ぐためにわざわざ出たっていうのに

だからあんたが『狼』なんでしょ!

月子

いいえ
私ではなく、エビが『狼』です

二人は激しく威嚇し合っている。
確かにどちらにせよ、片方は確実にヒットだ。
だが、このままでは埒が明かない。

天都

月子、黙れ
エビ、黙れ

月子

むっ……
兄さんがそういうのであれば黙ります

やだやだ、全く……

二人はそっぽをむいて黙った。
これで漸く必要なことができる。
膨れている二人を置いておいて、天都は占い師と霊能者に目配せした。

未来

昨晩の占い結果よ
占っていいと言ったから一条を占ったわ
結果は『白』
彼女は『狼』ではないわ

占い師の占いで、黒である神無は白と出る。
『狂人』は、『占い師』の占いを回避することができる。
故に『白』扱いということになる。

春菜

こっちは……凄く、不味いことになってるよ
追放された御子柴さんは『狼』で……
ええと、田代さんは『村人』だったの……

春菜がそう伝えると、一同の顔色が変わった。

天都

げっ……

黒花

透けたかもしれませんね、村人

立夏

えーっ、もう詰みですかぁ?

……最悪なことになった。
つまりは多くの他の役職視点から行くと、もしも神無が『村人』だった場合、今日の夜に殺されると、人狼の勝ちとなる。
二人しかいない『村人』の片割れは毒牙にかかって死んでいるのだ。
同時に、『狼』も死んでいるので、また勝ち目があるといえばある。
そして、恐らくは黒であろうどちらかが今、目の前にいるわけだ。

未来

どうするのよ……!
昨日一条が追い出したのが『狼』だからよかったと思ったけど、夜伽妹かエビが余計なことをしてくれたせいで結局不利じゃない!

天都

いや、俺達には都合の良いようにしかなってねえよ

焦る未来に、天都は告げる。
このゲームは最後まで生き残っている時点で、陣営に関係なく勝ちは勝ちなのだ。
それが勝敗条件。どっちかが消えればいい。
『村人』を殺そうが、『狼』を殺そうが、確定白には関係ない。ただ、殺せばいい。

未来

あ、そっか……

天都

確定している俺達には関係ねえよ
殺しのが狼か村人になるかの違いだ
陣営が負けると連帯で死ぬ、ってタイプじゃなくてよかったな

春菜

それは……そうだけど……

『狂人』はあくまで村人と同じ無能力。
居ても居なくても、嘘をつかない、天都の味方である彼女には大きな差はない。
ただ、この場合は『村人』の数にはカウントされない。
今宵、『狼』が『狂人』を噛み殺しても、『狼』の勝ちにはならない。
死んだ御子柴は『狼』。
本物の『狩人』は存命している。
神無の詳細がほかのメンツに分かったわけじゃない。
神無は白いだけだ。

未来

一条が『狩人』なのか「村人』なのか、はたまた『狂人』なのかは知らないわ
でも、あたしは彼女が『狂人』ではない気がするの
あの子が御子柴殺しの言い出しっぺだし

未来が能天気なことを言っている。
彼女は重要なことを見落としている。
『狂人』も『狼』も、互いを知覚できない。
事故死、という事は十分あり得るのだ。
まあ、『村人』からしてもニート『狂人』を脅威ととるかと言われたら、疑問を感じるところだが。

…………残りのグレーって誰だっけ?

月子

グレーよりも先に、エビを殺すべきかと思いますが

あ、ん、た、はっ!
もっと広い視点で考えなよ!
なんでそう、ガツガツしてるかな!
ますます獣臭いよこいつっ!

エビがグレーの問いを投げる直ぐ様噛み付く月子。
二人の牽制を見ながら、天都が答える。

天都

時雨、立夏、如月の三人だ

残ったグレーは二日目で既に三人まで減っていた。
これはこれで色々考えることになる。
グレーとはいえ、黒花は恐らく『狩人』。
つまり、実質的には立夏か親友の時雨の二択になる。

昨晩の動きをおさらいしておこう。
『蛇』は『村人』を噛み殺した。
『狼』は口封じに『霊能者』を狙い、『狩人』の弓で威嚇されて逃げ出した。
『狐』はお月見をしていた。
『狂人』は祈りを捧げていた。
『占い師』は『狂人』を占って、白だと決めた。
『共有者』は『狂人』の無事を願っていた。
『村人』は一人は毒殺され、一人は眠っていた。

現在。

『蛇』は偽物の『蛇』と睨み合いをしていた。
こいつは絶対に偽物だ。
こいつを殺せば有利になれるとシャーと威嚇する。

『狼』は襲撃失敗のおかげで目論見がズレていた。
『霊能者』が死ねば、『狩人』だと言い残したあの遺言を使って、『村人』達にプレッシャーを与えられると思っていたが、それが失敗。
ならば『蛇』と偽り、『占い師』から逃げようと画策して、本物の『蛇』と睨み合いをしている。

『狩人』はニヤリと笑う。
やはり、優先順位は『霊能者』が上だった。
本物である自分を差し置いて、偽物のくせに殺されたそいつを使い絶対に口封じすると思っていた。
『占い師』は二の次だと思っていたから、予想通り。

『狐』も笑っていた。
『狐』は何となくだが、本物の『狩人』が誰か、分かっていた。
それだからこそ、余裕でいられる。
『蛇』同士の睨み合い、上等だ。
もっと無様に威嚇し合っていればいい。

『村人』は、何となくだが。
『狂人』の正体に、気づき始めた。
白と占われた一条は、きっと狂人ではないかと。
然し、その割には天都の味方などと言うあたり、腑に落ちないが。

未来

ねぇ、夜伽兄
グレーを潰すよりも、確実に殺せるどっちかを追放したほうがいいんじゃない?
兄のあんたに言いたくないけど……
あんたの妹、結構危ないと思うわよ
あの子が『狼』じゃないかとあたしは思う

腕を組んで悩む天都に、未来はそう助言する。
妹を追い出せ、と彼女は言う。
確かにあの月子の言動は、普通に見ればクレイジーの一言に限る。
赤の他人からみても危険な人物は、排除するべき。
そう言いたいのだろう。
だが、天都はそれを良しとしない。
天都が反論しようとしたとき。
直ぐ様、隣から否定の声が飛ぶ。

春菜

いやだよ
それはわたし、したくない

未来

なんでよ?

春菜

わたしは、月ちゃんを疑いたくないから

ハッキリとした、拒絶だった。
青筋が浮かぶ未来。
未来に、春菜はたった今、喧嘩を売った。

天都

おい、久遠寺、落ち着……!

ぷっつんっ、と未来のこめかみから聞こえた気がした。
天都が止めても、遅かった。

未来

巫山戯たこと言ってんじゃないわよッ!

昨日に続いて再び、大声を上げる未来。
睨み合いをしているダブルスネークも、グレー達も突然の大声に彼女を見る。
その対象は、疑わなくてもいいハズの春菜。
だが、春菜も天都の知る限り、怒ったことのない春菜も負けじと、大声を出した。

春菜

わたしはふざけてなんていないッ!

春菜のような大人しそうな少女からは想像できない思わぬ反撃。
未来の勢いが削がれて一歩下がる。
春菜は追撃した。

春菜

わたしは、わたしのやり方でやるって決めてるの
いくら月ちゃんの性根が腐っていようが、ひん曲がっていようが、歪んでいようが……天ちゃんの妹だもの
家族同然の付き合いのある月ちゃんを殺すくらいなら、わたしは久遠寺さんとは一緒にはいたくない

春菜

最後まで勝っていればいいんだよね?
だったら、わたしはそれでもいいよ
陣営なんて、知らない
家族を優先するのは、当然のことだもの

春菜

悪いけど、月ちゃんを殺すことを提言するような人は、信用できない
ううん、したくない
白だろうが黒だろうがもう関係ないよ
あなたはわたしの敵
もう、あなたの言うことなんて知らない
死ぬんだったら、勝手に死んじゃえば?

……それは、事実上の離反だった。
春菜は、未来を敵と断定して、追放するならエビにすると言い張った。
そこに根拠もへったくれもない。
ただの感情論だ。
然し、春菜が家族と称する月子を護るためとはいえ、他人を攻撃する春菜なんて付き合いの長い天都ですら、初めて見た。

未来

こんのっ……!

未来

上等じゃないッ!!
使えない霊能者なんてこっちも真平ゴメンよ!!
そこまで家族ごっこがいいんだったら、勝手に殺されればッ!?
あたしはあの異常者を追放するだけだから!

案の定、激昂した未来は月子に一票入れてしまう。
まさかの進行二人が対立して、決裂する羽目になってしまった。
天都は頭を抱えた。
やっぱりこうなったか。
女ってのは、本当にろくなもんじゃない。
残りは9名。
過半数の5名を越えないと追放は不可能。

月子

護りたいのか貶したいのかよくわかりませんが……
春菜さんが私を擁護してくださるなら、話は別です

月子

そこの桜海老をえびせんべいにしてやりましょう

桜海老言うなしッ!

そっちこそ、上等じゃんっ!
いいよ、だったらあたしもあんたを殺してやるしッ!

これで、イーブンになった。
月子を殺したい、エビと未来。
エビを殺したい、春菜と月子。

天都

いや……『蛇』を追放したら、誰か余計に死人が出るからやめたほうが……

天都がやめろ、と言う前に。
面白がって、茶化す馬鹿二名も参戦。

黒花

個人的にエビが嫌いなので妹さんに味方しましょう

立夏

あははーっ!
立夏は義妹趣味ないんで、死んでくださーい!

互いに味方について。
滅茶苦茶になってしまった。
残った三人は途方に暮れた。

時雨

女だけで盛り上がっているところ、非常に悪いんだが……
俺は巻き添えで死にたくないからな
俺個人が怪しいと思うところにいれさせてもらう

冷静な判断で諦めたように、立夏にいれた。

神無

……天君、どうする?

天都

馬鹿はほっといて、怪しいと思うところに入れておけ
まともな判断すら出来ねえらしい……

神無が入れたのも立夏。天都も立夏に入れた。

立夏

あれ、何か立夏にも集まってる?

立夏が残された三人に指をさされて、驚く。

天都

俺お前嫌いだし、死ぬならお前がいい

神無

主に……リスクなしで……出来る範囲で……
一番うるさいし……

時雨

自分の言動を振り返ってみるんだな
ストーカーは犯罪だぜ

こうして票は割れてしまった。
投票の時間と流れ出す音声が、割れてしまった場合は追放者無し、ということになると伝えた。
限度があるが、必要だと判断した場合はいいらしい。
今回は大丈夫、ということで。

春菜

天ちゃん……
無理は言わないけど、次は協力してね?

春菜

巻き添えとか心配しなくても大丈夫だよ
エビさんが間違いなく偽物だから!

投票時間が終える。
今日の追放者はいなかった。
皆互いに睨み合いながら部屋を出ていく。
そんな中、春菜は天都に言った。自信満々で。

月子

私は兄さん相手に悪質な嘘をつきません
双子に誓って、兄さんには嘘は言いませんよ

天都

隠し事はするけどな

月子

え、えっと……
そういうときはその、強引に聞き出しても、いいんですよ?

天都

大体展開読めた
既成事実はいらん、地雷も踏まない

月子

チッ……
無抵抗なら出来ると思ったんですが……

妹は相変わらずだし。
月子は舌打ちしながら去っていく。

未来

……フンッ!

未来は天都を見て、鼻を鳴らして帰っていった。
その後を、黒花が寄ってくる。

黒花

面白い展開ですねえ……
正直、かなり愉しいですよ!

天都

あんたは……
今のこれ、何処が楽しいか説明してくれ

立夏

先輩のツンデレ反応がたまらなく楽しいです!

天都

黙れ変態がッ!!

立夏も割り込み、彼女達を纏めて相手する親友を見て、時雨と神無は一言呟くのだった。

神無

気の毒に……

時雨

頑張れ、相棒……

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