町の郊外の森にうろつく、不信な影があった。
 

………………

 それは以前フェミリアに夢見のペンダントを与えた張本人であり、その正体は預言者だった。

 彼は、ある目的を持って森をうろついていたのだが、未だに辿りつけていなかった。

ナタリー・ローレン……

 名前をつぶやく。

 彼は、この人を探していた。
 

……お腹が、すいた……

 倒れこむ。














  

 ナタリーは庭の畑からトマトを収穫しながら能力を使うか迷っていた。

フェミリアが幸せならそれでいい。だけど、もしそうじゃなかった場合……

 フェミリアの事情を知らない以上、動くに動けなかった。

 もやもやする。

トマトを売り歩く振りをして町に下りてみようか

 そうすれば少しでも情報が手に入るのではないか。

 否、ナタリーの顔を知る人に偶然出会いでもしたら大変なことになる。

魔法使い様……!!

 過去にそんな風に呼ばれたことを思い出して、気持ち悪くなる。

 町に下りることは出来れば避けたい。

でも……

ここでジッとしているよりはいい。行くか

 ナタリーは決心した。

 家の中に入ると、町に下りるために、準備を始める。













    

 町への行き方は覚えている。

 それに、風が教えてくれる。

 どの方向に行けば何があるか。

 その先に危険がないかどうか。

 だから、ナタリーは安心して歩いていた。

 

風は味方だ。

 しかし森の道に生えている植物は少し変わったかもしれない。

気候の変化、かな

 以前なら落ちていた赤い実やリスの姿が見えないことを残念に思う。

 今はまるでないが、以前は森でリスと一緒にドングリを拾い集める遊びをした。

 リスの言葉は分からないが、それでも楽しい時間を過ごしていた。

 風が吹いて顔を上げる。

 

ん……?

 木々が立ち並ぶその向こう。

 その先に、何か大きいものが落ちていた。

 それは人の姿にも見える。

まさか、死体……!?

 森に迷い込み、力尽きてしまったのだろうか。

 ナタリーは駆け寄った。
 
 




 

もしもし、もしもし!

 倒れた人に近づいて、ナタリーは必死に声をかける。

 こんなところで死なれてはたまらない。

 自分の森が汚されたような気になってしまう。
 

ん、んー……

 うめき声。

 とりあえず、その人物は死んではいないよう。

 ナタリーはほっと息をつく。
 

お腹が、空いた……

 男か女か分からないその人物は、パッと顔を上げると、そう呟いた。

 そして再びパタリと倒れこむ。

 森に迷い込んで力尽きたのは間違いなさそうだ。
 

偶然わたしが通りかかってよかったよ。仕方ない

 ナタリーは右手をかざす。

ふ 
   わ 

 暖かい光が男か女か分からないその人物は、何か暖かいものに包まれた。

 不思議な力が働いて、倒れた人物が浮き上がる。

一度帰るか

 ナタリーは右手をかざしたまま、歩き出した。

 すると、男か女か分からないその人物も、ナタリーに導かれるように浮いたまま後を追っていく。












 

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