勇者の剣
じゃないだろ?

経次郎

まだ歩くんですか?

もうすぐだよ。

さっきからずっとそう言われているんだけど……。
そもそも、どこに行こうとしているんだ?

ほら、着いた。

経次郎

え?

洞窟が急に開けた。

全体的に明るいんだけど、日の光ではなさそうだ。
電灯があるわけでもなく、光源が何かはわからない。

慶子

…………。

慶子がボクの手をギュッと握る。

経次郎

……。

目を合わせ、「大丈夫だよ」という意味を込めて、握り返す。

慶子のためだけじゃないかもしれない。
ボク自身、気持ちが落ち着いた。

経次郎

ここは?

海爾さんとの待ち合わせ場所だよ。

経次郎

オリハルコンがあるっていう?

父が冗談のように言っていた。
「オリハルコンで勇者の剣を作りましょう」と。

いっぱい取れたから、引き取ってもらおうと思ったんだ。

経次郎

オリハルコンって、
いっぱい取れる物なんですか?

ますますゲームっぽくね?

ここは産地だから。

経次郎

幻の金属ですよね?

キミたちにとってはね。
見たことがある者には、幻じゃないから。

それはそうだろう……。
見つけた人がいるのなら幻ではない。

経次郎

オリハルコンなんて、ゲームでしか使われてない言葉ですよ。元素記号とかもないし。

合金みたいなものだからね。

現実の物質と、霊界の物質のね。

経次郎

は?

だから硬くて柔らかいんだよ。
二つの異なる世界の物質が合わさっているから。

経次郎

はぁ……。

物質世界の硬さにも、精神世界の柔らかさにも対応できる物質なんだ。

経次郎

はぁ……。

キミに無関係の
物質じゃないんだよ。

経次郎

父が賢者の石を使って、
ボクを蘇らせたってヤツですか?

「勇者の剣はいらない」と言うと、
「それなら賢者の石はいるか?」と父は言った。
「それで何ができるんだ?」

と聞くと、賢者の石を使って、ボクをこの世界に蘇らせたと答えた……。

それもあるけどね。

経次郎

……。

ああ、誤解しないで。
キミは蘇ったんじゃないよ。

「生き返った」んじゃなくて、
「新しい命を得た」んだ。

よかったね。
ゾンビじゃないんだよ。

慶子

慶子がその言葉に強く反応した。

慶子のキレるポイントは、ボクが侮辱されたか否かである。
ボクが平気だと言っても、聞きゃしない。

経次郎

今のでどうして
キレんだよ……。

経次郎

やめなさい。

慶子に小声で言った。

慶子

ですが、こいつ、
ちとシメてやらないと。

慶子

先ほどから殿に無礼な物言いの数々。
赦しがたきものがあります。

弁慶になってるし……。

経次郎

正体も分からないヤツに、不用意に喧嘩を売っちゃダメだよ。

経次郎

顔見て弱そうならシメなさい。

慶子

はっ!

ほんっとに喧嘩っ早いっていうか……。
弁慶のガタイがあるならまだしも、今はか弱い慶子なんだから……。

経次郎

ボクだって体育は苦手じゃないけど、剣術の修行をやってるわけじゃないし。

それに、翔さんはきっと体育会系だ。
口調軽いし、体も地味に筋肉質だ。

色が白いのは、日光に当たってないからだ。
地底で肉体労働をしているんだろう。

経次郎

それに、天狗さんのお面を付けられると、勝てる気がしない……。

なんかもう、魂に苦手意識が刷り込まれているっていうか……。

苦手じゃないか。

天狗の面を付けている人は、ハンパなく強いって、体で覚えている。

…………。

そうじゃなくて……。

ヒヒイロカネって、
聞いたことある?

経次郎

なんでしたっけ?

ゲーム用語だったような?
何かの材料だった気がするけど……。

オリハルコンの和名だよ。
天叢雲剣の原料って言った方がいいかな?

経次郎

天叢雲剣……。

さすがにそれはわかるみたいだね。

経次郎

見たことはありません……。

心臓の音が、聞こえた。
ボクよりも、体の方が反応している……。

経次郎

天叢雲剣は……、壇ノ浦で見つけることができなかった三種の神器。

父は……、海尊は、
何をしようとしているんだ?

「勇者の剣」って、ナニふざけたこと言っちゃってるわけ?

勇者の剣じゃないだろ?

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