いつきのぼってりとした赤いくちびる。

　何かのはずみで見えたやわらかい舌。

　発育がいいくせに、抱くと腕がくびれこみそうな腰。


　智子のぬめぬめとしたロウソク色の肌。

　そのくせいかにも多毛を思わせる黒髪。

　十本の指がべつべつの爬虫（はちゅう）を思わせる細い長い指……。

　と。

　それとなく、それっぽく、一応、主人公の義務として私は突っ込んでおいた。

　今、小夜の手は私の胸を乱暴につかんでいる。

　いつきの手は、まるでパソコンのマウスをさわるように、私の股間に乗っている。

　いつきは不満を漏らした。

　それから指を、マウスのホイールをなでるようにすべらせた。

　いつきは、ほほを寄せてきた。

　私は困り顔でため息をついた。

　そのとき、小夜が私の胸をつかんだままで、強引に体をひねった。

　ごそごそと、枕もとを物色しはじめた。

　私は跳びはねるようなツッコミをキメた。

　いつきがクスリと笑った。

　私が苦笑いをすると、いつきは私の股間に乗せていた手を、そっと今度はみぞおちのあたりに置いた。

　そういえば『仲直りのしるし』とかでもらったのだった。

　ちなみに小夜は、ＭＩ６のお姉さんに格闘技は習っているけれど、実はヤマイダレさん大好きッ子である。憧れているといってもいい。

　小夜は笑顔で、私の口にチョコ棒を持ってきた。

　小夜は、ものすごく嬉しそうな顔でそう言った。

　チョコ棒で私のほっぺたをぺちぺちした。

　それから、私のくちびるをチョコ棒の先でなぞりはじめた。

　いつきが、ぎゅっと身体を寄せてきた。

　私の腕まくらでころころと笑った。

　それから、くちびるをねだるように顔をあげた。

　いつきのやわらかな唇から、せつなげな吐息とともにつむぎ出される言葉の甘美さが、私の脳ずいをもしびれさせた。

　小夜は私の頭をなでながらそう言った。

　チョコ棒がゆっくりと、私のくちびるを斜めにすべっていった。

　それからまた、ゆっくりとすべりおりてきた。

　私は茫（ぼお）っとした状態で、それに舌を這（は）わせた。

　この瞬間はそんなつもりはちっともなかったけれど、やがて私は無我夢中でむしゃぶりつくようになった。

　小夜のなすがままだった。

　私は小夜になされるままだった。

　いつきの熱い視線と荒い鼻息が、私の頭をいっそう真っ白にさせた。

　そして、それからの私たちは、夢幻の中にただよっているようなものであった。——

※

　いつきと私は、じっとりとした目で小夜を見た。

　小夜は困ったような泣いてるような複雑な顔をした。

　頭をかきながら言った。

　小夜はそう言って、私のほっぺたにチョコ棒をあてた。

　まるで物差しのようにあてられたチョコ棒の先端は、私の鎖骨よりも下まで達していた。

　私は、しみじみと言った。

　すると小夜は布団にいきおいよく潜りこんだ。

　私の横に寝転がり、頬づえをついた。

　そして言った。

　たぶん。

　私といつきは情けない声をあげた。

　小夜はイジワルな笑みで言った。

　チョコ棒は私の唾液で濡れていた。

　小夜は胸を張って言った。

　いつきがスケベな笑みでうなずいた。

　そして言った。

　いつきはフォローのつもりで言ったみたいだけれども。

　しかし、まったくフォローになっていなかった。

　むしろ追い打ちと言っていい。

　トドメをさしたと言い換えるのもひとつだろう。

　私は天井をぼんやり見た。

　すると、いつきが表情を動かしもせず、静かに言った。

　いつきの鋭い指摘と執拗な問いかけに、私と小夜は失笑した。

　すると、いつきはぷっくらと可愛らしくほっぺたをふくらませた。

　それから、ごろんと寝返りをうち天井を眺めた。

　やがて、いつきはため息をつくようにこう言った。

　小夜はキメ顔でそう言った。――