畑の問題は、とりあえずの決着をみた。

 痴女の残がいをどかし、バリケードを修復し、畑のエリアを確保した。

 もちろん、モールから自由に行き来できるようになっている。

 さいわいなことに、死傷者はひとりもいなかった。


CIAの工作員

畑の土は明日洗浄しましょう

 私たちはモールに戻った。

 私は、痴女とキスをしてしまったので、モールに入る前に一通りの検査をうけた。といっても、医療機械はないし、そもそも痴女の検査方法が確立していなかった。

 だから、私の検査はひどく直感的で感覚的なものだった。

 全身をざっと見て、質問をいくつかされて、お尻を叩かれてそれで終わりだったのだ。


CIAの工作員

痴女には即変身するからね。今、痴女じゃなかったら大丈夫でしょ

 お姉さんは、そんなテキトーなことを笑顔で言った。

 まあそれは、たとえ私がモール内で痴女化したとしても容易に対処できるという自信があるからだ。きっと。

 で。

 私たちは夕食をすませ、お風呂に入り——念のため、私はひとりでシャワーを使った——、そして就寝の時間となった。



 私は寝具店のベッドに、ふわあーっと声をもらして転がりこんだ。

 そしてそのままベッドに深く沈みこんでしまった。

 今日はいろいろあったから疲れてしまったのだ。


って、うわっ!?

智子ォ

こんばんはー

 いつきと小夜がベッドに潜りこんできた。

どうしたの!?

いつきがね、一緒に寝たいって

うん

 いつきはこくんとうなずいて、あわてて顔を背けた。

 いかにも乙女が恥じらっているような、おびえているようなポーズにみえてしまった。いつきは相変わらず女の子っぽさ全開って感じなんだけど、それでも今晩のいつきはいつもと雰囲気が違っていた。

 女の子らしいというより、牝(メス)って感じだった。

 いや、ほんと下品な言いかたで申し訳ないのだけれども。



今日の智子、カッコ良かったよお

うっ、うん

智子が痴女をやっつけなかったら、私たち全滅してたかもしれない

さすがにそこまでは

ううん、智子はやっぱりすごいよ

私たちのヒーローなんだよお

 いつきと小夜はそう言って、キラキラとした瞳で私を見上げた。

 ちなみに、今ふたりは両わきから私をはさみこんで、私の腕に頭をちょこんと乗せている。


っていうか顔近くない?

だってベッドせまいもん

そうかもしれないけど、でも、くっつき過ぎじゃない?

そうかなあ

 いつきはそう言って、ぐいっと身を寄せてきた。

 私のみぞおちのあたりにそっと手をのせて、脚をからませてきた。

 股間のあたたかさが太ももに伝わってきた。

 しかしそれ以上に、茫(ぼお)っとしたいつきの視線が気になった。



智子ォ

………………

いつきね、智子のことを好きすぎてしかたがないんだって

えっ、うん

だから、私も一緒に寝てほしいって

いやっ

 その理屈はよく分からないんだけど。

私ね、自分の気持ちを抑えきれないの。智子とふたりきりだと、きっと、あやまちをおかしちゃう。だから小夜にも来てもらったの

あやまちって

ねえ、智子。今日、痴女とキスしたよね? 私たちがしたのとは違って、濃厚なヤツ

……うん

ズルイ

 いつきが急に可愛らしく言うもんだから、どきっとしてしまった。

 あの、恋に恋しているようなところのあったいつきが、女の子の私を好きになることで急に女の子らしさが増す——というより、牝(メス)化する——というのは、どうにも不思議な感じがするけれど、とにかく今日のいつきはモジモジしていて、ちょっぴり臆病で、だけど大胆で、いじらしくて愛らしかった。

 そして私は、そんなしっとりと変わったいつきを、すこしだけ複雑な気持ちで視ていた。


 クラスの男子に知られたら私は殺されるな——そう思ってしまうほど、いつきは男子に人気だったし、また、そんないつきが女子の私にこのような媚態を見せるのは異様なことだった。もったいない。いつきならどんな男子でもよりどりみどりだろうに、マジもったいない。



まあ、男子はいなくなったし

 私は天井を見ながら、つぶやいた。

 すると、いつきがぐいぃっとしがみついてきた。

 というか、おっぱいを押しつけてきた。

 それが私のわき腹を圧迫した。

 かるく挟みこんでると言ってもいい。

うーん

 私は困り顔で小夜を見た。

 すると、いつきは私のほっぺたをさするようにさわり、くいっと私の顔の向きを変えた。

 いつきと見つめあうかたちになった。

智子ぉ

 いつきのぷるんぷるんしたくちびるが、ねだるように近づいてきた。

 私は思わずアゴを引き、ツバをのみこんだ。

 小夜が言った。

ねえねえ私も混ぜてよお

ちょっと小夜!?

智子だけキスしてズルイぞ

 小夜はイタズラな笑みでそう言った。

そうだよお

 いつきはべっちゃりとした女の視線で言った。

って、小夜は助けてくれるんじゃなかったの!?

あはは、そのつもりだったけど

うん?

私だって女子だもん

 小夜はカラッとした笑顔でそう言うと、私の腕まくらで可愛らしく丸まった。

 くやしいことに、小夜の胸はふるんとして意外と存在感があった。

 サバサバしているクセに乳があるとか卑怯である。

 そういえば小夜も、いつきほどではないけれど男子に人気があったっけ。

うーん

 私は複雑な笑みでため息をついた。

 こんな女ばかりの状況になってモテ期が到来するなんて、私はなんて不幸なんだろう。たぶん私は今、貴重なモテ期を浪費している。……。


ねえ智子

智子ぉ

 ふたりがぐっとにじみよる。

 私は身の危険を感じた。

 本能が察知した。

 私の全身からドッと汗が噴き出した。

 私を両側からはさみ、甘えるようにくちびるを寄せる小夜といつきは、中学生とはとても思えぬ色香だった。で、私はその色香に反発した。

 嫉妬、羨望、焦燥、怒り、なにがなんだか分からない感情がうずまいた。

 たたきつけるように私は叫んだ。


私だって女の子だ!

えっ?

うん?

 ふたりは、すっと身を引いた。

 私はさらに言った。

私って、いつも男子の役ばかりじゃん。私だって女の子がいい!

分かった

しょうがないなあ

 ふたりは突然スケベな笑みをした。

えっ?

なあ、智子ォ。こんな感じに扱ってほしかったのか?

 小夜は低い声でそう言って、笑いながら私の腰を乱暴に抱き寄せた。

ねえ、智子ぉ。どこが気持ちいいのお?

 と言って、いつきは私の身体をなでまわした。

やん

 思わず身をよじると、いつきは私の肩を、ぐいっと押した。

 いつきは上体を起こし、私におおいかぶさるようにして顔をのぞきこんだのだ。

 それから笑顔でこう言った。

かわいがってあげる

ひぃ

 悲鳴に似た変な声が出てしまった。

 すると小夜が私のほっぺたをぺちぺちしながら言った。

智子のおびえる顔を見てたら、なんか興奮してきた

やめてよっ

ねえ、智子ぉ。ディープキスってどんな感じ?

……うん

ねえねえ?

ちょっと胸さわらないでよっ

じゃあキスして

あはは私も

なんでっ

お昼みたいな、べっちゃりしたキスをしよう?

私もしたいな

 小夜はそう言って、くいっと私の顔をねじむけた。

………………

 たしかに私は女の子の役がしたいと言ったのだけど。

 ふたりは、ただ強引になっただけで、依然、女の子のままだった。

 これではまるで痴女ふたりに責められているみたいなものである。

 男子だったら泣いて喜びそうなシチュエーションであった。


もう!

 私はガバッと上体を起こした。

 だけどすぐに、ぐいっとふたりにベッドに押さえつけられた。

 右足に、いつきの脚がからみつく。

 左足には、小夜の脚がからみついている。

 いつきがうらめしそうに言う。

ねえ、智子。私と小夜はオモラシしたんだけど

えっ

智子だけしてないよね?

そんなっ

 そんな昔のことを今更ネチネチと。

今、してくれる?

はあっ?

それに、ひとりだけ濃厚なキスを経験してるよね?

うぅ

オモラシか濃厚なキス、どっちかしよう?

それは、ズルイ言いかただよう

ううん?

 いつきは笑顔で私を威圧した。

 このとき、私の全身にどよめくような快感がはしった。

 すこしだけ、マゾヒストの気持ちが分かったような——気がした。


ねえ

 いつきは笑顔のまま、私の股間にそっと手を乗せた。

 まるでパソコンのマウスをさわるように、いつきは指を置いた。

 私は全身がしびれたように動けない。

もちろん私もだぞ

 小夜がそう言って、私の胸を乱暴につかんだ。

 荒々しいようで優しげでもある、妙な気づかいのある触りかただった。

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