と、ミドリ先生の言葉で締めくくられ、今年最初のホームルームが終わった。
はー、まだテスト残ってんだよなぁ。
それはどうでもいいけど、ミドリ先生マジ可愛いわ。
天使だね、天使。こんな自称神様を名乗る悪霊じゃなくて、ミドリ先生が部屋にきてほしかったわー。
いやー、キスとかエッ(自主規制)とかしたいわー。
なんて悦に浸ってると、
―――というわけで3月に期末考査があります。みんなしっかり勉強して留年しないようにね? じゃ、これでガイダンスを終わりにします
と、ミドリ先生の言葉で締めくくられ、今年最初のホームルームが終わった。
はー、まだテスト残ってんだよなぁ。
それはどうでもいいけど、ミドリ先生マジ可愛いわ。
天使だね、天使。こんな自称神様を名乗る悪霊じゃなくて、ミドリ先生が部屋にきてほしかったわー。
いやー、キスとかエッ(自主規制)とかしたいわー。
なんて悦に浸ってると、
おい、アラタ。さっきからニヤニヤしてるけど大丈夫か、お前?
人の子よ……普段は捻くれておるのに、色恋沙汰はめちゃくちゃ素直じゃのう……
なんて左右から心配される声や呆れる声が聞こえる。
ほっとけ!
何を言ってるんだい、正人くん? 僕は誰にでも笑顔の博愛主義者だよ? 笑顔が平和を作るんだぜ?
胡散くさっ!
我もドン引いたぞよ、人の子よ
うっせ! 僕も自分で言って自分に引いたわ!…………おら、ガイダンスも終わったし、どっかぶらつこうぜ
そうだな。とりあえずサイセリアでも行って、メシ食おうか
何何? 今すんごい魅力的なワードが聞えたんだけど!
……
……
……
反応はえーよ、茜……
そういうことで僕と正人と茜の三人と自称神様の一人でファミレスに行くことになった。
うまいっ! パリ風ドリアはやっぱ最高だわー!
相変わらずよく食うなー、松下さんは……ドリア大盛りをぺろりと完食したよ
あめーよ、正人。こいつ、学食で僕にたかるときはこんなもんじゃないぞ。セーブしてんだよ
あ、ばれた? いやーいつもおごってもらってるからたまには遠慮して量を控えめにしないとって思ってねー
遠慮すんなよ、茜。今日は正人のおごりだ。じゃんじゃん食え
え!?
マジで! ありがとー藤原ー! じゃあ、このピザとー、このパフェとー
……オーマイガッー!
ふふっ。神はここにいるけどの。なかなか賑やかで楽しいのぅ
僕はお前が悪霊から貧乏神に見えてるよ
そうして一通り食べ終わり、正人はトイレに、茜はデザートを取りに行った。
僕と自称神様とで残されたとき、不意に自称神様はぽつりと語りかけてきた。
なぁ、人の子よ
ん?
我を見てくれ……どう思う?
どう思うって……いつもどおりの悪霊だろ
神だというのに……この分からず屋が。ふふっ
言葉は裏腹に自称神様は嬉しそうでもあり、そして寂しそうに笑う。
これでもか?
そう言って神様は手をかざした。
! お前……手が透けて……!
自称神様の白い手は文字通り、透き通るように後ろのソファが透けて見えた。
1週間前よりも薄くなっている?
驚かせてしまったな。すまない
……
お主が神を信じないのは知っておる。知った上で問おう。もし、神が存在すると仮定し、存在を定着するために必要なものはなんだと思う?
定着するのに必要なもの?
そんなの……考えたことねえ。
そもそも、そんな仮定をしても神様がいるってにはピンと来てない。
僕が困惑していると自称神様はにっこり、笑いながら言った。
それはの。「信奉」。もっと砕けて言えば「信じる心」じゃ
「信じる心」?
いかにも……神とはのぅ。「いるもの」でも「いたもの」でも「存在」を信じられてこその神なのじゃ。存在を信じられていない神は――――
そうして、自称神様は微笑みながら告げる。
存在していないも同然なのじゃ
……! お前……
たっだいまー! いやー美味そうなデザートばっかで悩んだわー。ん? どうしたアラタ?
自称神様に一声かけようとしたときに馬鹿明るい奴が戻ってきた。
無理だけど、マジ空気読めよ茜。
なんでもねーよ。なぁ、茜……
んー?
話しかけた僕も僕だけど、アイスをほおばりながら喋るなよ。
お前ってさ、神様とかって信じる?
んー? んん―-――
アイスを一通り食べてから、茜はきっぱりと言った。
アラタから神様って言葉を聞くとは思ってなかったけど……うん、信じるよ
意外だな。茜もそういうの信じてねーかと思った。目には見えないし、ほんとにいるかわかんねーんだぞ?
そうだな――――でも、いたら楽しいだろ!
…………
…………
んで? なんで急に神様?
ちょっと思いついただけだ----貴重な意見、ありがとよ
んー? よくわかんないけど、どういたしましてー!
そうして正人がトイレ帰ってきた。
会計をすませて、解散する。
じゃ、また学校で……とほほ、急な出費だぜ……
まったなー!
おう、また学校で
楽しかったぞ、正人とやらと茜とやら
慣れ親しんだ仲である僕はそっけなく別れに挨拶をしたのに対し、自称神様は小さく手を振り、別れを告げる。
なぁ……
む?
消えるのか? お前……
帰りに再度自称神様と二人になり、先ほど聞けなかった質問をぶつける。
自称神様は動じもせず、答えた。
うむ。消える。このままお主に信じてももらえねばの、いずれ
……なんというか。付け替えっていうか別の人ととっかえることは出来ないのか? 僕以外の……茜とか。僕よりもよっぽど神様を信じてたろ?
僕の質問に自称神様はゆるゆると首を横に振る。
出来ぬ。出来たとしてもやらぬわ
なんでだよ。僕以外に憑けば消えずにすむんだぞ?
そうじゃな――――じゃが……
じゃが?
どうせ、消えずにすむのなら我は――-―我はお主の力で残りたいんじゃ
我が気に入ったお主の力で。のう、人の子よ
…………
なんでだ。
1週間振り回されてた悪霊が消えていなくなるというのに。
僕の心はまったく晴れない。
なんでだ。
なんでこの自称神様がいなくなることに動揺している?
なんで寂しさを覚えているんだ?
僕の考えがまとまらず、困惑していると自称神様はと僕の顔を覗き込んで言った。
仮にも神様を名乗っているのに、その顔は。
のぅ、人の子よ
我が消えると……人の子は嬉しいか?
それとも、わずかでも悲しんでくれるのかえ?
人の子は……お主はどう感じるんじゃ?
…………僕は
夕日に照らされたその顔は。
神を名乗るにはあまりに弱弱しく、頼りなくて。
捨てられた猫みたいだった。
僕は……どうすればいい?