どんな悪夢でも目を開ければそれは終わる。
高いところから落ちようが、殺人鬼に殺されようが目を開けて起きればそれで夢は終わる。
だが、僕の場合は――――
どんな悪夢でも目を開ければそれは終わる。
高いところから落ちようが、殺人鬼に殺されようが目を開けて起きればそれで夢は終わる。
だが、僕の場合は――――
んー……おはよう、人の子! いい朝だな!
…………いい朝だな
悪夢が始まってからもう1週間経とうとしている。
慣れというのは恐ろしいものだ。
この状況が僕の中で「当たり前」になりつつある。
さーて、人の子よ! 今日はどこに連れてくれるんじゃ?
この自称神様が来てからというもの、正月からいろんなところに行くのをせがまれた。
パン屋に行けば、
おおお! 香ばしい美味そうな匂いじゃ! 人の子! 買おう買おう!
また、映画に連れて行けば、
でっかい「てれび」じゃあああああ!
と、余程珍しいのか、一々新鮮な反応を返してくれる。
まあ、そんな反応もあって連れて行きがいがあるということもあり、起きたら出かけるという習慣が根付きつつあった。
…………マジで慣れって恐ろしいな。
だが、今日は――――
今日から大学は始まるんだよ。だから、しばらくはどこにも連れてけねーぞ
だいがく?
自称神様はきょとんとした後で顔を輝かせた。
学校のことか! 人の子よ、お主学生だったのだな!
……そうだよ
日々、悟ったことばかり言うてるから、もう働いているのかと思ったぞ。そうか、学生かー
そう言ってうんうん、と思案している。
悟ったことばっか言ってて、悪うございましたね
良いことではないかー。お主は青春を満喫できる、我を青春を間近で見られる。ほれ、あれじゃ。「ていくあんどていく」じゃ
それを言うなら「ギブアンドテイク」な
「テイクアンドテイク」って山賊かよ。
こっち得るもの何ひとつねーじゃねーか。
まあ、こっちは得るものはないって点じゃ間違ってねーけど。
つーか、学校もついてくるのかよ
さて、そろそろ来るぞー
来る? 何がじゃ?
まぁ、見てろって
一通り、教材をリュックに入れ「それ」が来るのを待つ。
しばらくするとけたたましいノックとともに、
おーい! アラター! 起きろ起きろ起きろー!
と大声でドア越しにモーニングコールされる。
いや、僕そんな寝坊キャラじゃねーから。
講義の遅刻率安定のゼロだから。
な、なんじゃなんじゃ!?
大丈夫だから……おい、茜! 起きてるから、んな大声で呼ぶな!
そういいながら、ドアチェーンを外し、ドアを開けた。
よっす! あけましておめでとう、アラタ!
あけましておめでとさん。新年早々、うっせーなお前は
それがアタシの取り柄だかんね
ドヤ顔で言うなよ。もう準備出来てるから行くぞ
……ははーん
…………んだよ?
へ? なんか言った?
え? いや、別に
あぶねっ。
そういや僕以外にこの自称神様は見えないんだった。
なんて考えていると、
心配しなくても人の子が念じれば、我とは意思の疎通は出来るぞよ
なるほどな。別に心配はしてねーけど
ふふっ。それにしても人の子よ? お主もすみの置けぬのう
そういって自称神様は親指を立ててきた。
いや、それ意味違うから。
松下 茜。ただの級友で女友達だっつの
ほう? ただの女友達がこうやって朝起こしにくるのかえ?
大学で教科書貸したり、たまにメシを奢ってるから、それでたかられているだけだ
ほほーん
……むかつく顔だな
なんて自称神様とやりとりしていると、
アラター、なんかぼーっとしてるけど、大丈夫か? 昨日、励みすぎたのか?
いや、なにをだよ! なんも励んでねーよ!
ははは、隠すなよ。男の子なら別に普通のことだろ?
朝からお前は僕に何をカミングアウトさせようとしてんだよ! つうか、普通の男の子なら大抵は隠すんだよ!
はははははは! やっぱり、アラタおもしれーな!
僕は朝から疲れるよ…………
人の子よ、励むとは何のことじゃ?
お前も気にしなくていいんだよ!
なんてやりとりをしてながら、大学の前まで来た。
すると、ちょうど見知った人物であり、僕が一番会いたかった人物と鉢合わせになった。
あら?
あ! ミドリ先生ー! あけましておはようー!
ふふっいろいろ混ざってるわよ、松下さん。明けましておめでとう、松下さん。それにアラタ君
はい! あけましておめでとうございます! ミドリ先生、新年早々綺麗っすね!
ふふっ、おばさん相手に何いってるかしら、アラタ君は。んじゃ、また後でね
そういって、クラス担任である青木ミドリ先生は大学の中に入っていった。
今日も先生が美人で辛いっすわー。
あの笑顔でご飯3杯は楽勝だね!
なんて考えていると、
……
……
な、なんだよ?
べっつにー。あ、アタシ先いってるから
そう言って、茜はさっさと中に入っていった。
どしたんだ、急に。月1のあの日か?
まぁ、僕も入るか。なんて考えていると自称神様が声をかけてきた。
ちなみに人の子よ。もしかして今、お主が挨拶した女が……
もしかしなくてもそうだよ。
青木ミドリさん。
僕や茜のクラス担任であり――――
そして、僕の――――
誰よりも守りたい大切な女性。