では、そろそろ神様登録にいってきますね

歩香

おー、そうだね。あ、少年少年、はいこれ

 と、歩香さんが僕に紙袋を渡してきた。
 ずしっとした、A4サイズの紙の束だ。

歩香さん、これは……?

歩香

翻訳した4冊分のゲラ

 にこっ、と穂波さんは笑った。

いいんですか、色んな意味で。秘密保持とか

歩香

いいのいいのー。編集には許可もらってるし、わかりにくいところとかを赤ペンでぴぴっと引いてくれたらアルバイト代も出すよ

はあ、バイト代が出るのはうれしいですけど、内容は……?

歩香

この前、リピカから少年に紹介があった海外小説の続編、私が翻訳担当になりました

読みます

 僕は即答した。

歩香

うむ、良い返事。少年ならネタバレとか言いふらさないってお姉さん信じてるから

 歩香さんが微笑みながら念を押す。

リピカ

バラしたら、君の過去を見るのです

 にっこりとリピカさんが微笑みながら脅してくる。

ぜったいしません

 僕は思い切り首を縦に振った。

穂波さま

おーい、早く行くのじゃ

 手の中に紙の束の重さを感じながら、図書館の出入り口まで移動していた穂波さまを追って、僕は図書館から退出した。

もうすぐ市役所ですよー

穂波さま

ふむ、登録はそこで行うんじゃな

そうらしいですね

 図書館から市役所まではそれほど遠くはないので、歩いて移動する。
 穂波さまは街の景色を見るのが楽しいようで、僕にいろいろ質問をしてきた。

穂波さま

あの塔はなんじゃ?

あれはビルですね

穂波さま

ほう、なるほど、ビルディングと言う奴か、えろう高いのじゃ。では、空を飛ぶあれは何じゃ?

ああ、無音ヘリですね

穂波さま

ヘリなのに無音とは、進んだもんじゃのう。……あれは何じゃ?

 穂波さまが指を向けた先を僕は見た。
 かぼちゃだ。
 紳士服を来た男性の体に、かぼちゃが乗っていた。

ああ、あれも神様ですよ

穂波さま

あれがか?!

ええ。こんにちは、首領(ドン)さん

首領

おや、お久しぶりですね、少年君

 カボチャ頭の紳士はこちらに気づいたのか、ピンと伸びた背筋のまま、スタスタと歩いてきた。
 手には一つ、何かが入ったビニール袋を持って。

今日は悪巧みですか?

首領

はっはっは、そんな、いつも悪巧みしているわけではありませんよ。君も秘密結社という存在に偏見があるようですね

 あと、悪巧みとはたまにするからこそ、効果的なんですよ。と、かぼちゃの頭が紳士めいたウィンクを僕に向ける。

参考になります

 ははは、と僕は笑った。さすが、紳士的ウィットに富んでいる界隈で人気の高い神様だ。

穂波さま

かかかか、かぼちゃが喋っておるのじゃ! もしや、ジャック・オー・ランタンか!

首領

おやおや、お初にお目にかかります。わたくし、秘密結社の神をやっております、首領(ドン)と申します。以後よろしく

穂波さま

わ、わらわは豊穣と円満の神にして、穂波山の天狐じゃ

首領

おお、まさか千年以上の時を経た生き神様でしたか。すばらしい!

首領

では、そんな先輩神様へのお近づきの印として、怪人・怪獣を一体如何ですかな?

 と、秘密結社の概念が神となった、新世代の神様が、ジャケットの胸元から何かを取り出した。

穂波さま

かいじゅう? ひよこではないか

 穂波さまは、きょとんとした顔でひよこを覗き込んだ。

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