歩香

いやー、穂波山の神様の記述探すのに苦労した苦労した。なにせ、郷土史が編纂される前の話だしさ

 歩香さんが、コーヒーをちびちび飲みつつ、穂波さまの話を始める。

苦労したでしょう? 穂波さま知名度ないですし

歩香

ほんとほんと、しかも古すぎる神様っぽいし、ある意味当たり前な存在になっててさ、言い伝えくらいしか残ってないのがまたね

穂波さま

ぐぬぬ、わらわを愚弄しておるのか、湯崎歩香という者

歩香

いや、逆よ? それほど昔から愛されている神様って意味で、尊敬してる。おそらく、うちのご先祖さまもお世話になってるだろうし

そうなんですか?

歩香

ここら一帯の人はだいたいご先祖さまがお世話になってるんじゃないかな。特に、飢饉の原因になりそうな気象異常が起きた時は、穂波さまが降りてきて天津力(あまつちから)を揮ったという伝承も残ってるくらいだし

おお……

穂波さま

その通りじゃ

歩香

でも、今はダメ神様になっている、と

穂波さま

うぐ

そうなんですよね

リピカ

ダメ神様ですねー

穂波さま

ふ、ふーん、これから汚名挽回してやるのじゃ

歩香

古いネタだけど、汚名返上だからね、それ

 歩香さんが苦笑しつつ、訂正した。

歩香

しかしそっかー。少年も神付きになっちゃうのか

ええ、不本意ですがー

歩香

ま、いいんじゃない。退屈のなかご本を読むより、何かある中で本を読むほうが得るものがあるし

なるほど、先達の発言、心に染みます

歩香

はっはっは。それほどでも……で、何を願うか決めたの?

穂波さま

願う? 何をじゃ?

歩香

何をって、神付きの契約をするために必要な、叶えてもらう願い事

穂波さま

何のことじゃ?

あー、それはですね……

 通常、神様を召喚し、神様のお付きになるには、以下の契約が必要となる。

 僕らが召喚器によって神様を召喚する際、僕たちは神様にたいして、叶えてほしい願い事を決める。

 すると、願い事を聞き届けた神様たちは、この人物の願い事であれば自分が叶えてやろう、そのかわり、神付きになってくれないか、と僕たちに交渉する。

 そして、僕らが良いですよ、と答えた時、神様と神付きの契約は完了する。

 つまり、神様と神付きは、ギブアンドテイクと両認証で成り立つ契約状態で結ばれているのだ。

 しかし、穂波さまと僕には、その契約状態がない。

 そもそも、召喚器も通していないし、穂波さまは元からこの世界で生きている神様本体だ。

 その上、超絶ニート、信仰0のダメ神様。僕の願い事なんて叶える力すらないだろう。

歩香

……少年、なんで神付きになろうとしたのさ?

その、ほっとけないのと、成り行きで

歩香

……はあ。蓮花といい、穂波さまといい、あんたには女難の相が付いてるよ。占いを見なくても分かるわ

哀れみの言葉、心に染みます

 いや、本当に。

穂波さま

なんか、また愚弄された気がするのじゃ

リピカ

気のせいじゃないですよー

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