部活が終わり、一人帰路を歩いていたときのことだった。

大場氏

おーい、きみきみ。
そこのきみ

 聞きなれない声だった。


 最初は僕が声をかけられているということに気付かなかった。

大場氏

なぜに無視をする。
聞こえておらんのか、そこのきみ

稲田氏

いやいや、聞こえんのではなくてだな。
呼ばれていることに気づいておらんのだ、大場氏

 ここで初めて僕のことかと思い、声のする方へ振り返った。


 そこにいたのは見知らぬ二人の男子生徒だった。

大場氏

やや、ようやく気づきましたな、稲田氏

稲田氏

左様で

 そう言って二人の男子生徒が僕のところへ駆け寄ってきた。

渡利昌也

あの、何か?

 顔も知らない二人組に声をかけられる覚えなどない。


 僕は一抹の不安を抱えた。



 そんな僕の顔をニヤニヤと覗き込みながら、彼らのうちの一人が言った

大場氏

単刀直入に聞こう。
きみは琴葉たんの彼氏であるか?

渡利昌也

は?

 この男は一体何を言っているのだろう。



 琴葉たんとは誰のこと……。



 まてよ、琴葉たんとは山根さんのことか。


 そういえば山根さんの名前は琴葉だった。




 同時に彼ら二人の顔もはっきり思い出した。



 彼らは漫画研究部にいた男子二人組だ。

渡利昌也

琴葉って、山根さんですか?
べ、別に彼氏とかじゃないですけど

 僕は当然否定した。

稲田氏

ほほう。
だ、そうですがどう思われますかな大場氏

大場氏

ふむ……ウソはついていないが、まんざらでもない……といったところでしょうか、稲田氏

 いきなり不躾な質問をしておいて勝手なことばかり言っている。



 僕は少し腹が立った。

渡利昌也

なんなんですか、君たちは!

大場氏

おっと失敬。
紹介が遅れましたな。
決して怪しいものではありません。
私どもは漫画研究部の者です

 知ってるよ!


 怪しいよ!

稲田氏

以前、琴葉たんと二人で漫画研究部に入ってきたではございませんか。
これはいささか普通のことではありますまい。
もはや非日常と言っても過言ではない

 稲田氏と呼ばれている男子が言った。


 喋り方がいちいちカンに障る。

渡利昌也

そうですか?
そういうこともまあ、あるんじゃないですかね。
ていうか何が言いたいんですか……

大場氏

そもそも!

 僕がイライラを態度で示しているにも関わらず、大場氏と呼ばれている方が大きな声で無理やり僕の言葉を遮った。

大場氏

琴葉たんが誰かと会話しているところなど、同じ部員の私どもでさえほとんど目にすることがない

渡利昌也

へぇ、そうなんだ

 僕は投げやりに返答した。

稲田氏

同じ部員として琴葉たんのことが心配だったのだ

大場氏

というわけで琴葉たんをよろしく頼むぞ。
彼女を幸せにできるのは君しかいない

 またまた勝手なことを言う彼ら。

渡利昌也

いや、だから僕は別に山根さんとは……

 僕の弁明を無視して、彼らは笑いながら去っていった。


 気味の悪いやつらだ。

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