いつもの教室、

いつもの黒板、

いつもの机に、

いつもの椅子。

四月が始まって早くも二週間が過ぎ、日差しの暖かさを感じながら、窓際の自分の席に腰を下ろした。

窓際万歳。

登校時間ギリギリに到着した教室は、騒がしさのピークに達していて、ほとんどの人が俺の登校に気づかない。

その中で、ただ一人だけ俺の登校に気づく感の鋭い奴がいた。

伊村延彦

おっす、信一!

大野信一

おう、おはよ~。延彦

伊村延彦

今日もギリギリだな~。もっと余裕もって登校しろよな

大野信一

朝は苦手なんだよ

伊村延彦

つってもよ~、お前の家ってここから歩いて10分かからないだろ?

そうなんだよ。

俺の家はここから歩いて約8分。

ダッシュで来れば約4分。

それゆえに、どうも心のどこかに余裕が生まれて、時間ギリギリに登校してしまう。

まあ、遅刻になりかけた事も何度かあるのだが…。

…ち、遅刻はまだゼロだぞ!

伊村延彦

ま、別にいいけどな

延彦(のぶひこ)は呆れた様子を見せつつも、顔には笑みを浮かべていた。

延彦とは中学生からの仲で、中一の時に同じクラスになってから、ずっと同じクラスが続いている。

コイツとはロケットよりも太く、鉄筋コンクリートよりも硬い鎖で繋がれているのかもしれない。

大野信一

お前は何時に家を出たんだよ?

伊村延彦

俺か?俺は7時15分に出て、8時15分に着いたぞ

大野信一

ん~、やっぱり1時間は遠いいな~

伊村延彦

まあな。昔の家なら20分で着いたんだけどな~

延彦は中三に上がってすぐの頃に引っ越している。

引っ越した理由は、またボチボチ話すとして…。

8時半、登校時間を告げるチャイムが学校中に響いた。

俺が登校して2分後の事なので、もっと余裕をもって登校をした方がいいのだろう。

…そんな事を考えるのは今だけで、明日の朝になったら眠気に負けて、いつもの時間に起きるだろう…絶対。

美濃麻実

よーし、みんな席に着け!

少し幼げな声が教室に響き渡った。

我がクラスのスイートエンジェルこと、担任の美濃麻美先生が教室に足を踏み入れたのがすぐにわかる。席を立っていた生徒は一斉に自分の席に座った。本当に可愛いな~。

髪型はショートカットで、薄い茶髪に犬耳を着けている。可愛い。

パッと見、幼女にしか見えない体つきだが、これでも立派に生物を教えている正真正銘の先生なんです! 可愛い。

年齢は27歳で独身。

あと2年したら、俺が先生をもらいに行きますね!

美濃麻実

よーし、みんな前を向け!

一斉に前を向いた。

・・・だが、教卓の後ろに立った先生の姿がほとんど見えない。

見えなくねーか?

見えないね

あー麻美たん見たい!

伊村延彦

麻美たーん。全然見えないよ~

延彦は周りなどお構い無しに、堂々と言い放ちやがった。コイツは後で集団リンチだ。

てか、1人問題発言した奴がいたがそれは置いておこう。

美濃麻実

こ、コラ伊村延彦(いむらのぶひこ)! 先生をニャメてるのか!

・・・え? 今噛みましたよね?

しかも、犬みたいなファッションしてるのに猫のようにニャって…。

可愛いです。先生。

先生の顔が一瞬で赤面へと変わった。

先生今噛んだよな?

噛んだね

もう1回噛んで~

伊村延彦

噛みましたね!

またお前かよ!

どれだけカマチョなんだよ!

このチャラチャラクソメガネ! 後でメガネのレンズを抜いて違う度の奴に変えてやるからな。覚悟しとけ!

てか、また1人問題発言するやついたろ!

美濃麻実

伊村延彦!さっきら先生をナメてるんだろ! そうなんだろ!

伊村延彦

いえ!全然これっぽっちもナメてません!ですから、僕に先生をください!

いやいや、意味がわからん!

なに急にプロポーズしてるんだよ!

美濃麻実

い、いみゅら延彦!何を言ってるんにゃ!

あ、また可愛い噛み頂きました!

委員長寿

おい! 伊村いい加減にしろ

お、ここで我がクラス委員の委員長寿(いいんちょうじ)くんが止めにかかったぞ!

委員長寿

麻美たんはお前だけのものじゃない!
・・・・みんなの麻美たんだ!

おい! お前なに言ってんだよ! 確かにそうだが、それはそれこれはこれだ! 乗っかってる場合ではないだろ。

いいぞ!委員!

その通りだ!

キモ~イ

なんであんたがクラス委員やってるのよ

委員くんは男子全員から歓声を浴び、女子全員から軽蔑の視線を浴びていた。

うん、やっぱりそうなるよね。

あと、あくまで予想だよ?さっきから問題発言連呼してたのお前だろ?委員くん。

声がそれとなく似てるんだが…。

うちのクラス委員がロリコンとかマジで勘弁してくれよ。

人の事言える立場じゃないけど。

美濃麻実

う~、いい加減にして~

先生も泣く始末。このクラスどうなってるんだよ。

委員長寿

先生!大丈夫ですか?

先生が泣いた原因の1人、委員くんが先生を励ましに動いた。

お前が余計な事を言わなければこんな事にはならなかったのにな。

伊村延彦

麻美たんを泣かしたのはお前かー! 
委員くん!

おい、それは違うぞ延彦。
ほとんどはお前が悪いんだよ!

委員長寿

違う! 俺は無罪だ!

伊村延彦

ふふふ、それはどうかな! お前が麻美たんをみんなの物にして、負担を大きくしたのが悪いんだ!

委員長寿

だって…一人の物にするのは…

伊村延彦

そこが違うんだよ!

委員長寿

っな!

伊村延彦

麻美たんは全員を愛せるほど器用じゃない。つまり、麻美たんは一人を愛すのに手一杯なんだ!

委員長寿

そんな…

伊村延彦

わかってやれよ。委員くん

委員長寿

…そーだよな。俺が間違ってたよ。人生はそんなに甘くない。奪いとってこそ本物だよな

伊村延彦

そうだ! 委員くん

委員長寿

ふ、負けないぞ、伊村

伊村延彦

望むところだ

おい、何そこだけで完結してるんだよ。

まず、先生を物扱いするなよ。お陰で先生下向いてるぞ。

あと、お前らの会話を女子だけじゃなくて、男子すら引いていることにそろそろ気づこうか。

あと、これでハッキリしたよ。

さっきの犯人やっぱり委員くんだね。

美濃麻実

お前ら1回黙れ~!!

先生の大きな怒鳴り声でクラスは沈黙に包まれた。

まあ、怒るのも無理はない。

コイツら完全に別の次元に行ってたしね。

やっと、ホームルーム終了のチャイムが鳴った。

・・・

って、連絡何もしてないじゃーん!

美濃麻実

と、とりあえず、痴漢に注意! 
以上解散!

なんて、雑なんだ…。

どこであったんですか?

どの様な人だったんですか?

そんな事を聞いても、返してくれる気配が全く無く、先生はクラスを後にした。

先生…いつもお疲れ様です。

こうして、我が2年1組、朝のホームルームは終わったのだった。

あ、いつもの事なのでお気遣いなく。

第1話 先生、可愛いから僕と結婚して

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