慌ただしく部屋のドアが叩かれた。
慌ただしく部屋のドアが叩かれた。
VO2-03! 呼び出しだ!
僕今日は非番ですよ
緊急だ、早く行け
質素ではあるがちゃんとしたこの一人部屋の主が答えた。
コード:VO2-03 ベクトル操作魔法士の光(みつる)である。
面倒くさいなぁ
そう呟いて光は簡単に身支度を整えて招集に応じた。
講義室のようなミーティングルームには様々な二次魔法士が集まっていた。中には一緒に任務をこなした者もいる。
しかし、妙に数が多い。席が足りないほどに集められるなんて初めてのことだった。
光さん! ここの席どうぞ
光の姿を認めた魔法士が光に席を譲る。彼は明らかに見た目年上だが、光より若い魔法士だった。
二次魔法士は年を取らない。それは、培養液から出されたとたん成長が止まるからだ。無理な成長をさせられた反動なのかもしれない。そのために二次魔法士は寿命が短く、もう五年従軍している光はかなりの古参だ。
ありがとう
光が礼を言って座ると、声をかけてきた魔法士は部屋の後ろへ去っていった。
部屋の前の方から奇抜な白の軍服を着た男が入ってきた。四宮軍師の二男、賢二中将だ。彼は二次魔法士隊の全権を握っている。
集まってるな。今回の任務だが
さっと部屋を見渡して賢二は声をかける。
テイマーの娘、百合音・エミーリア・グレーナーとSP2-01の捕獲だ。くれぐれも殺すことの無いように
百合音!? なぜ彼女を!
光は知っている名前に驚いて声を上げる。光にとって百合音と言えば、いつだったか外出した際に理不尽な暴力から助けてくれた恩人だ。
光が知っているなら都合がいい。百合音は物質操作魔法を使えるとの情報が入った
彼女は魔法士でないはずです!
だから調査したいんだろうが。傷を付けずにつれて来い
「いいな」と念を押して、賢二は部屋を立ち去った。途端に魔法士たちがガヤガヤと話を始める。
この人数集められたのは、SP2-01を殺さないように捕獲しなければならないからだろう。圧倒的な能力を持つ彼に対抗するには数しかない。
光は複雑な表情で俯いた。恩人に手をかけなければいけないとは……。
不意に光の頭の上からちょっとした怒鳴り声が降る。
光がやりたくないなら俺たちがやるぜ? お前ひとりいなくたってやれるからな!
喧嘩腰に突っかかってきた魔法士は、光の後輩だった。彼も優秀なベクトル操作魔法士には違いないが、残念ながら光には遠く及ばない。
本人もそれが分かっているから光に突っかかるのだろう。
僕がやる。他の皆は手を出さないでくれ。僕が負けたら後は君たちに任せる
思いもよらぬ「手を出すな」発言にあたりがどよめく。
光が今まで数多くの功績を上げてこられたのは、魔法だけではない。冷静な戦況分析や周到な作戦立案にあった。
その光がほとんど勝ち目がないと思われる「SP2-01との一対一」をしようというのだ。
ほ、ほんとにやるのかよ
もちろん。じゃあね
訝しげな後輩をしり目に、光は軽く手を振って部屋を出て行った。