季節は夏だが、肌寒い感じは春を思わせる。
急速な地球寒冷化によって、気象的に言うのであれば日本に「夏」はなくなった。
いまや半袖の服を持っている者はいないだろう。
季節は夏だが、肌寒い感じは春を思わせる。
急速な地球寒冷化によって、気象的に言うのであれば日本に「夏」はなくなった。
いまや半袖の服を持っている者はいないだろう。
魔法士さん、これからは「優」さんって呼んでいいですか?
ユウ? 別に構わないが、なぜ
自分の身を顧みず、私を助けてくれるくらい「優しい人」だから
優しい……か
テイマーを殺した時のことを思い出す。
自分は優しいなんて言われていい人間じゃない、と優は思う。優しく心ある人間なら軍命に逆らってでもテイマーを逃がしていただろう。
そうだ、お咎めは? 無断で魔法を使ったとなれば重罪のはず……
それに対する罰かはわからないが、初期化されることになった
初期化?
百合音と話していると口をついて出るように、言葉が出てくる。
求められなければ話さない、不必要なことはしない。今までの優はほとんどしゃべらなかった。聞かれれば短く答えるが、自分から聞き返したり自分から補足したりするようなことは一度もなかった。
今までの記憶を消して人格を破壊することだ
記憶を消す? 人格を破壊?
二次魔法士に対する罰にしては軽いと言えるな。通常、命令違反をしたら遺伝子情報などを破壊して破棄される
なんてことを!
百合音はまるで自分のことのように怒りをあらわにする。自分で怒ることのできない優の代わりに怒ってくれているような。
酷いです! 自分たちが造り出して要らなくなったら捨てるなんて! 人の命を何だと!
この世界で俺たちは「人間」じゃないからな
そんなのおかしいです! 優さんは人間ですよ、こうして話すこともできるし、様々なことを感じて考えることができる。心だってあります
優さんが人間じゃないなら、私も人間じゃないもの……
最後の声はだんだんと小さくなっていく。
前にも「私なんか」と悲観ともとれる発言をしていたり、「お前も化け物」と街の男に言われていたりしていた。
もしかして、と優は単刀直入に聞く。
百合音は……魔法士、なのか?
魔法士じゃ、ありません
百合音は言いにくそうに言葉を切った。優は促すことも止めることもせず、黙って次の言葉を待つ。
でも、私は……魔法が使えます
魔法士でないのに魔法が使える? そんな馬鹿な
母は一次魔法士でした。父は普通の人ですが……なぜか私も魔法が使えるんです。遺伝するはずがないのに
二次魔法士はそもそも結婚することや恋愛することなどを禁止されているが、一次魔法士は認められている。それは権利の問題もあるが、一番大きいのは遺伝の問題があるからだ。
後天的な一次魔法士は子を成しても、遺伝子的な操作が加わっていないため、子供に魔法が遺伝することはない。
逆に遺伝子操作によって生み出された二次魔法士が子を成せば、その可能性があるということだ。軍の目の届かないところで魔法士が生まれれば、情報漏えいや反乱などもありうる。軍が禁止するのは当然だろう。
百合音は不意に立ち上がり、手を掲げた。
花よ、我が命に従え
高らかに宣言する。
するといくつかの花が可愛らしい人形を象り、百合音に歩み寄った。
物質操作魔法か!
声に出してイメージしないとできないんですけどね
ヒトの適応能力が高いとはいえ、遺伝子まで変異するわけがない。なぜ、こんなことが……
私にもわかりませんが、科学的に「有り得ない」おかげで私は軍に捕まらないで済んでるんです。一度魔法を使ってる所を街の人に見られたことがあって、化け物扱いされてますけど
少年は驚きで頭がいっぱいになっていたが、我に返り青ざめた。
自分にはたくさんの盗聴器がついている。幸いここには監視カメラはないが、音は軍に筒抜けのはずだ。
くそっ
それは、初めて聞く感情むき出しの優の声だった。