ええ、問題はございません。

あの魔王は、あの魔力を何かに使う気は、さらさらないようでして

それが唯一の救いではあるな

私どももそのように考えております。

平和のために、今後も魔力を使って争いなどは企てない、という契約をと思っているのですが

それがなかなかうまくいかぬ、というのだな。

魔力をあれだけ保持していながら、契約もなく野放しであるのは……大変であろう

平和のために、必ず魔王をうんと言わせてみせます

無理はするな

はっ

 では、とキサラギは深々と頭を下げた。

突然の来訪、失礼した

とんでもございません。

いつでもいらしてください

感謝する。いくぞ、ケン、ケンジ

はっ

はっ

 キサラギの後ろで控えていた男性二人が、同時に小さく返事をした。

やっぱり

 キサラギの後ろに控えて黙っていた二人は、ケンとケンジだったのだ。

ああ、それと

 キサラギが振り返り、小さく笑った。

そこで聞き耳を立てている者共。

処罰は受ける覚悟があるのだな

えっ

 キサラギが去るのと同時に、奥の扉がゆっくりと開いた。

誰だ! 出て参れ!

ひっ

あっ

 俺は目を見開いた。
 出てきたのは、トウコだったからだ。

どういうことだ?

タカシ君? あの子は?

あの子は

 言う、前に。

申し訳ございません、王様! 

ここを通ろうとしただけなのでございます、客人かと思い、待機しておりました。

決して、聞き耳を立てていたわけでは!

 トウコが叫び、その声に負けない大きさで、ロジャーが叫び返した。

者共とおっしゃっていた、もう一人はそこにいるのか!

 ひっ、と、トウコの後ろで声がした。





 聞き覚えのある、声だった。

出て参れ!

 おずおずと姿を表した彼女に向かって、俺は叫んでいた。

サンザシ……!

 気がつくと、駆けていた。

 後ろから、ミドリの声が聞こえる。俺の名前を呼んでいるようだ。



 それでも、俺は、振り向かない。見向きもしない。


 だって、すぐそこに、消えたはずの、彼女が。

はあい! ストップ!

7 記憶の奥底 君への最愛(7)

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