ミドリは目を細めて、桃太郎の世界で鬼だった人ね、とキサラギを見つめた。

キサラギの側にいる二人も、ケンとケンジかもしれない

桃太郎のキジと犬、だっけ……名前の古今東西感がものすごいね……いろんな国とか種族が混ざってる世界なのかな。

キツネさんとシグレさんは、和服だし

確かに……それがヒントになるかな。

どうも、懐かしの名前が出てきすぎて、この物語の全貌が見えてこないよ

それもそうよね

 俺たちが話している間に、シグレはすぐに呼んで参りますと言って奥に引っ込んでしまった。

 三人はその場から微動だにしない。

 無言で待つ三人を、俺たちもしばらくは無言で見つめた。
 



 やがて現れたロジャーは、三人を見るなり深々と頭を下げた。

 三人も、ロジャーにむかって深々と頭を下げる。

お待たせいたしまして申し訳ございません。この国の人間の王でございます

時の神につかえる時の守り人である。少し時間を拝借したい

 俺ははっと息をのんだ。

 ミドリがとなりで、素早く察する。

時間の神様って、確か

ああ、エンのことだろう。
桃太郎の世界で、人間として過ごしていた。


さっき、セイさんが、療養が済んだって言っていた。
もしかしたら、この世界に戻ってきたのかもしれない。

まあ、この世界の住人かどうかもわからないけれど

考えすぎると煮詰まるね、とりあえず様子を見よう

 俺たちがひそひそと話してる間に、ロジャーは

喜んで。
よろしければ、奥でお食事でも?

 と三人を食事に誘っていた。

 キサラギはすっと手を胸の高さまであげ、柔らかく拒む。

ありがたきお言葉、感謝する。

しかし、ほんの二言三言の言伝てゆえ、ここで失礼する

かしこまりました。

外に漏れる心配はございません。

この城は、青の宝石殿の魔法に守られております

なるほど、そうであったな。

噂には聞いている。
この国で一、二を争う魔法使い殿だと。

心強いことだ

ええ、しかし

 ロジャーは表情を曇らせる。

もう一人、この国で一、二を争う魔法使いがおります

 キサラギも、眉をひそめた。

その噂も、聞いている

お恥ずかしい限りでございます……人間の王として、できる限りのことはしておりますが、魔族の王である魔王とだけは、なかなかうまく行かないのが現状でございます

 俺とミドリは目を見合わせた。

魔王って言ったね

言った。

やっぱり、この物語が魔王の物語なのかな……

 そうかな、どうかな、とぶつぶつと呟いたあと、いやいやとミドリは首を横に降る。

いっぱいあるの、魔王が出てくる物語も! っていうか魔女かもしれないし! 

まだ情報が不足している、そうだよね

……ああ、そうだ、そうだよね

 まだ確定はしていない。

 いじわるなセイさんの笑顔が浮かぶ。
 ミスリードに引っ掛かって、けらけらと笑うのはあの人だ。

 今までの世界もそうだった。
 情報集めが何より肝心だ。

今回の言伝ても、魔王のことだ。一度、神々が赴こうか、と

いえ、そのようなご足労をおかけするわけには

 ロジャーは慌てて首を横に振り、静かに頭を下げる。

もったいなきお心遣い、感謝申し上げますとお伝えください

うむ、承知した。

神々は好意的である、そこのとは忘れぬよう

ありがたき幸せにございます

 キサラギは、ふう、とひとつ息をつく。

あとは、現状を訊くように仰せつかっている。魔王の暴走はなさそうか

7 記憶の奥底 君への最愛(6)

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