誰かボクに光をください
誰かボクに光をください
やばい。
誰も頼れない……。
そう思っていた時だった。
あ……。
懐中電灯が消えた……。
うそだろ……。
多分、電池切れ……。
行き先も知らなかったから、代えの電池、持ってない……。
充電器はあるんだけど……。
急だったし、ホテルで充電すればいいかと思って……。
というか、懐中電灯を良く持っていたって感じで……。
トレジャーハンターな父さんは、ホテルに泊まらなかった……。
父さんの足音が、段々遠ざかって行く。
ったく、海尊の野郎。
殿とか言っておきながら、主人を思いやろうって気持ち、ゼロなんだよな。
義経だった頃のこと、思い出してきた……。
殿とかって言い出したの、源平合戦が終わる頃だったし。それまではそんな呼び方していなかった。
でも、それが普通なんだ。年下の若造を主人だと思う大人なんていない。
今は体も鍛えてないただの高校生だし。
戦う必要なんてないんだから。
生きて帰るには、自分の力を信じるしかない。
じゃないと、
また静香に怒られるし……。
深く息を吐いた。
帰ってこなかったら、タダじゃ済まさないんだからね。
うん。言いそう。
ちょっとだけ、気持ちが落ち着いた。
ああいう存在、
居てくれるとホントに助かる。
普段はアレだけど、頑張らなきゃって気になるんだよね。
普段はアレだけど。
どういう意味よ……。
それはいいとして、ホント、なんとかしないと……。
夜目は利く方だけど、
ここまで暗いと……。
光のない、本当の闇……。
お……お兄ちゃん、お父……さん。
慶子?
戻ったのか?
お兄ちゃん!
お兄ちゃん!!
声を頼りに、ボクに抱きついてきた。
腹に響く……。
大丈夫だよ。
お兄ちゃん、真っ暗だよ。
ごめん。
電池、忘れちゃったんだ。
え……。
弁慶のどアホが。
今、憑依しないで、いつするんだ?
あいつも肝心な時に
大ボケかますヤツだし。
平泉の時も……。
お兄ちゃん?
……それどころじゃなかった。
大丈夫だよ。
ホントは全然大丈夫じゃないんだけどね。
この手は最後に取っておきたかったんだけど……。
ポケットから手さぐりでスマホを出した。
電源を入れると、周囲が明るくなる。
やっぱりアンテナ立ってないか……。
だよな……。
地底潜ってたし、何気に道も降ってるし。
地図アプリも、なんか以前使ったときの場所になってる……。
文明の利器が使えない……。
明かり……。
慶子のほっとしたような顔が見えた。
心配しなくていいよ。
絶対にここから出られるから。
たぶん……。
うん……。
慶子が素直うにうなずいた。
慶子は元々こういう子なんだよ……。
たく、あのクソ坊主。なんでボクの妹を怖がらせるようなことするんだよ。
とは思ったけど仕方がない。
弁慶は弁慶で何か思うところがあるんだろう。
ん?
すぐにスマホの明かりは暗くなった。
お兄ちゃん……。
大丈夫だよ。
道の向こう、
曲がり角が見えた気がする。
慶子、移動するけど……。
…………。
必死な感じでしがみついてきた……。
こんな真っ暗な場所に、置いて行けないか。いなくなったら探すこともできないし。
ちょっと移動するよ。
うん。
うなずいたっぽい振動が伝わってくる。
スマホに触れる。
周囲が明るくなり、曲がり角っぽく見えた場所を目指す。
慶子の速さに合わせて歩いた。
どこ行くの?
曲がり角っぽいものが見えたんだ。
曲がり角はあって、そこに来たところでスマホは暗くなった。
あ……。
何か奥の方が明るい。
行ってみよう。
でも、ここまで戻れなくなると困るから……。
持っていたカバンから、空になったお菓子の箱を出して、曲がり角のところに置いた。
後でちゃんと拾います。
迷子にならないように、目印にしようと思った。
今度来る時は、もっとサバイバルに役立つような物を持ってこよう。
こらこら、こんなところにゴミを捨てたらいかんぞ。
人の声?
聞いたことのない、若い男の。
空耳?
にしては、ずいぶんはっきりと聞こえる。
道に迷ったので、目印にしようと思って……。すみません。
そう言って、拾おうとしたけど、真っ暗な場所ではどこに置いたのかもわからなくなっていた。
置いても無意味?
お菓子の箱を持ち上げたような音がした。
ほら
肩に何か当たり、それに触れるとお菓子の箱だった。
ありがとうございます。
こんな暗闇で見えるんですか?
目じゃないよ。
音で見てる。
コウモリが超音波で周囲を見ているみたいな感じですか?
あー、まあうん。
そんな感じかな?
ところで、あんたらはここで何してんだ?
えーっと、
オリハルコンのことは言わない方がいい?
トレジャーハンターもダメかも。
そういうのから自然を守るガーディアンって感じがなんとなくする。
トレジャーハンターは、そういうのの天敵かもしれない……。
父についてきたら、
ここにいました。
お父さんって、海爾さんかな?
ちょっとびっくりした。
父のこと知っているのか?
はい、そうです。
海爾さんの息子?
はい。
海爾さんの息子って、もっと品のない感じだったと思うけど。
←
コレのことか。
多分、兄のことだと思います。
ボクはその下の息子です。
←
品のかけらもないからな。
じゃ、牛若丸の方か?!
あ、いえ……。
日本には生まれ変わりをその人と捕える文化はないし、記憶はあってもそうと言いきれるだけの確証もない。
それにボクはもう経次郎だから……。
義経の分の業(カルマ)背負わされるの嫌だし。
あそこまで派手な生き方してなかったし。
ドラマとか小説とかの義経は、人間離れしてて目茶苦茶だ。
あんなに違っていると、もう、別の生き物だよ。
背負わなきゃいけないのはわかっているけど、もっと地味に背負いたいって言うか……。
懇切丁寧、誰が見てなくても一日一善みたいな……。
カルマの解消なんて、一発逆転サヨナラホームランみたいなもんじゃないし。
毎日コツコツやんないとダメなんだよ……。
貴様、名を名乗れ。
殿を幼名で呼ぶなど、無礼も甚だしい。
牛若は源義経の幼名だ。
遮那王も幼名で、大人になってからつけたのが九郎義経。
普段は九郎と呼ばれていたことが多かった。
四国の伊予をもらった後は予州とも呼ばれたし、その他にも兄上に勝手に名前を変えられたとかって言うのもある。
慶子……。
弁慶に戻った……。
それとも憑依なのか?
どっちにしろ、
どうしてこいつは間が悪いんだ?!
大人しい妹の方が、ウケが良いに決まってるだろ!ボケなすが。
勇ましいお嬢ちゃんだな。
すみません。
妹の慶子です。
ボクは経次郎です。
こっちの情報を先に出さなきゃいけなくなったじゃないか。
だいたいのことは海爾さんから聞いているよ。
俺は翔。
よろしくな。
あ、はい。
よろしくお願いします。
海爾さんはどこだい?
先に行ってしまいました。
あれ?
通り過ぎたのか?
翔さんはしばらく黙りこんだ。
あんたらはここまでどうやって来たんだ?
歩いてきました。
明かりなしで?
懐中電灯がそこで切れちゃったんです。
見えているかどうかわからなかったけど、さっきいた方を指さした。
それでわからなくなっちゃったんだな。
え?
超音波のような音がした。
キィキィ キィキィ
という鳴き声のような音。
もしかして、コウモリ?
海爾さんを連れてこい。
「大事な息子さんと娘さんは預かった」って。
キィ
ボクたち人質?
素早い羽音でコウモリが遠ざかって行く。
コウモリって、命令できるんだ……。
あんたらはこっちへこい。
こっち?
って、どっち?
こっちこっち
かすかな光の方に引っ張られた。
殿!
妹キャラの方に戻れよ……。
手が離れそうになったので、しっかりと慶子の手を握った。