誰かボクに光をください

経次郎

やばい。
誰も頼れない……。

そう思っていた時だった。

経次郎

あ……。

懐中電灯が消えた……。

経次郎

うそだろ……。

多分、電池切れ……。
行き先も知らなかったから、代えの電池、持ってない……。

経次郎

充電器はあるんだけど……。

急だったし、ホテルで充電すればいいかと思って……。

というか、懐中電灯を良く持っていたって感じで……。

経次郎

トレジャーハンターな父さんは、ホテルに泊まらなかった……。

経次郎

父さんの足音が、段々遠ざかって行く。

経次郎

ったく、海尊の野郎。
殿とか言っておきながら、主人を思いやろうって気持ち、ゼロなんだよな。

義経だった頃のこと、思い出してきた……。

経次郎

殿とかって言い出したの、源平合戦が終わる頃だったし。それまではそんな呼び方していなかった。

経次郎

でも、それが普通なんだ。年下の若造を主人だと思う大人なんていない。
今は体も鍛えてないただの高校生だし。

戦う必要なんてないんだから。

経次郎

生きて帰るには、自分の力を信じるしかない。

経次郎

じゃないと、
また静香に怒られるし……。

深く息を吐いた。

静香

帰ってこなかったら、タダじゃ済まさないんだからね。

経次郎

うん。言いそう。

ちょっとだけ、気持ちが落ち着いた。

経次郎

ああいう存在、
居てくれるとホントに助かる。

普段はアレだけど、頑張らなきゃって気になるんだよね。

経次郎

普段はアレだけど。

静香

どういう意味よ……。

経次郎

それはいいとして、ホント、なんとかしないと……。

経次郎

夜目は利く方だけど、
ここまで暗いと……。

光のない、本当の闇……。

慶子

お……お兄ちゃん、お父……さん。

経次郎

慶子?

戻ったのか?

慶子

お兄ちゃん!
お兄ちゃん!!

声を頼りに、ボクに抱きついてきた。

経次郎

腹に響く……。

経次郎

大丈夫だよ。

慶子

お兄ちゃん、真っ暗だよ。

経次郎

ごめん。
電池、忘れちゃったんだ。

慶子

え……。

弁慶のどアホが。
今、憑依しないで、いつするんだ?

経次郎

あいつも肝心な時に
大ボケかますヤツだし。

経次郎

平泉の時も……。

慶子

お兄ちゃん?

……それどころじゃなかった。

経次郎

大丈夫だよ。

ホントは全然大丈夫じゃないんだけどね。

経次郎

この手は最後に取っておきたかったんだけど……。

ポケットから手さぐりでスマホを出した。

電源を入れると、周囲が明るくなる。

経次郎

やっぱりアンテナ立ってないか……。

だよな……。
地底潜ってたし、何気に道も降ってるし。

経次郎

地図アプリも、なんか以前使ったときの場所になってる……。

文明の利器が使えない……。

慶子

明かり……。

慶子のほっとしたような顔が見えた。

経次郎

心配しなくていいよ。
絶対にここから出られるから。

たぶん……。

慶子

うん……。

慶子が素直うにうなずいた。

経次郎

慶子は元々こういう子なんだよ……。
たく、あのクソ坊主。なんでボクの妹を怖がらせるようなことするんだよ。

とは思ったけど仕方がない。
弁慶は弁慶で何か思うところがあるんだろう。

経次郎

ん?

すぐにスマホの明かりは暗くなった。

慶子

お兄ちゃん……。

経次郎

大丈夫だよ。

経次郎

道の向こう、
曲がり角が見えた気がする。

経次郎

慶子、移動するけど……。

慶子

…………。

必死な感じでしがみついてきた……。

経次郎

こんな真っ暗な場所に、置いて行けないか。いなくなったら探すこともできないし。

経次郎

ちょっと移動するよ。

慶子

うん。

うなずいたっぽい振動が伝わってくる。

スマホに触れる。

周囲が明るくなり、曲がり角っぽく見えた場所を目指す。

慶子の速さに合わせて歩いた。

慶子

どこ行くの?

経次郎

曲がり角っぽいものが見えたんだ。

曲がり角はあって、そこに来たところでスマホは暗くなった。

経次郎

あ……。

経次郎

何か奥の方が明るい。
行ってみよう。

経次郎

でも、ここまで戻れなくなると困るから……。

持っていたカバンから、空になったお菓子の箱を出して、曲がり角のところに置いた。

経次郎

後でちゃんと拾います。

迷子にならないように、目印にしようと思った。

経次郎

今度来る時は、もっとサバイバルに役立つような物を持ってこよう。

こらこら、こんなところにゴミを捨てたらいかんぞ。

人の声?
聞いたことのない、若い男の。

経次郎

空耳?
にしては、ずいぶんはっきりと聞こえる。

経次郎

道に迷ったので、目印にしようと思って……。すみません。

そう言って、拾おうとしたけど、真っ暗な場所ではどこに置いたのかもわからなくなっていた。

経次郎

置いても無意味?

お菓子の箱を持ち上げたような音がした。

ほら

肩に何か当たり、それに触れるとお菓子の箱だった。

経次郎

ありがとうございます。

経次郎

こんな暗闇で見えるんですか?

目じゃないよ。
音で見てる。

経次郎

コウモリが超音波で周囲を見ているみたいな感じですか?

あー、まあうん。
そんな感じかな?

ところで、あんたらはここで何してんだ?

経次郎

えーっと、

オリハルコンのことは言わない方がいい?
トレジャーハンターもダメかも。

そういうのから自然を守るガーディアンって感じがなんとなくする。

トレジャーハンターは、そういうのの天敵かもしれない……。

経次郎

父についてきたら、
ここにいました。

お父さんって、海爾さんかな?

ちょっとびっくりした。
父のこと知っているのか?

経次郎

はい、そうです。

海爾さんの息子?

経次郎

はい。

海爾さんの息子って、もっと品のない感じだったと思うけど。

佐助


コレのことか。

経次郎

多分、兄のことだと思います。
ボクはその下の息子です。

佐助


品のかけらもないからな。

じゃ、牛若丸の方か?!

経次郎

あ、いえ……。

日本には生まれ変わりをその人と捕える文化はないし、記憶はあってもそうと言いきれるだけの確証もない。

経次郎

それにボクはもう経次郎だから……。

義経の分の業(カルマ)背負わされるの嫌だし。

経次郎

あそこまで派手な生き方してなかったし。

ドラマとか小説とかの義経は、人間離れしてて目茶苦茶だ。

経次郎

あんなに違っていると、もう、別の生き物だよ。

経次郎

背負わなきゃいけないのはわかっているけど、もっと地味に背負いたいって言うか……。

経次郎

懇切丁寧、誰が見てなくても一日一善みたいな……。

経次郎

カルマの解消なんて、一発逆転サヨナラホームランみたいなもんじゃないし。

毎日コツコツやんないとダメなんだよ……。

慶子

貴様、名を名乗れ。
殿を幼名で呼ぶなど、無礼も甚だしい。

牛若は源義経の幼名だ。
遮那王も幼名で、大人になってからつけたのが九郎義経。
普段は九郎と呼ばれていたことが多かった。

四国の伊予をもらった後は予州とも呼ばれたし、その他にも兄上に勝手に名前を変えられたとかって言うのもある。

経次郎

慶子……。

弁慶に戻った……。

経次郎

それとも憑依なのか?

どっちにしろ、

経次郎

どうしてこいつは間が悪いんだ?!

経次郎

大人しい妹の方が、ウケが良いに決まってるだろ!ボケなすが。

勇ましいお嬢ちゃんだな。

経次郎

すみません。
妹の慶子です。

経次郎

ボクは経次郎です。

こっちの情報を先に出さなきゃいけなくなったじゃないか。

だいたいのことは海爾さんから聞いているよ。

俺は翔。
よろしくな。

経次郎

あ、はい。
よろしくお願いします。

海爾さんはどこだい?

経次郎

先に行ってしまいました。

あれ?
通り過ぎたのか?

翔さんはしばらく黙りこんだ。

あんたらはここまでどうやって来たんだ?

経次郎

歩いてきました。

明かりなしで?

経次郎

懐中電灯がそこで切れちゃったんです。

見えているかどうかわからなかったけど、さっきいた方を指さした。

それでわからなくなっちゃったんだな。

経次郎

え?

超音波のような音がした。

キィキィ キィキィ
という鳴き声のような音。

経次郎

もしかして、コウモリ?

海爾さんを連れてこい。
「大事な息子さんと娘さんは預かった」って。

キィ

経次郎

ボクたち人質?

素早い羽音でコウモリが遠ざかって行く。

経次郎

コウモリって、命令できるんだ……。

あんたらはこっちへこい。

経次郎

こっち?

って、どっち?

こっちこっち

かすかな光の方に引っ張られた。

慶子

殿!

経次郎

妹キャラの方に戻れよ……。

手が離れそうになったので、しっかりと慶子の手を握った。

誰かボクに光をください……。

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