会場・裏口
会場・裏口
イヤォ!!
おい道開けろって!勝手に荷物触んじゃねえって!やんのかって!
愛してま~す
試合を終えたプロレスラーたちが
続々やってきて、
ファンたちに手を振ったり、
ポーズを決めながら自社バスの
中へと消えていく。
わーわー、滾るぜオイ!
小暮の父はバカみたいに写真を
撮りまくっては選手や関係者に
怒られていた。
小暮少年はそんな父を見兼ねて
父さん、ごめん。僕トイレ行ってくる
ええ今!?空気読めよ!いま離れたら真山選手に一緒にサンキューな!のチェキしてもらえないぞ?
(お父さんに空気読めって怒られた)…僕は要らないからいいや。すぐ戻るから
トイレに行くと、
そこには体中包帯だらけ、
肘や膝には氷嚢でガチガチに
アイシングしている真山が
大便器で血反吐をはいて
突っ伏していた。
え、あの…大丈夫ですか?
戸惑う小暮少年に真山は気づき、
鬼の形相でにらみつけた。
誰だオラ!
お前見るなオラ!
近くで見ると、
全身傷だらけで皮膚はただれ、
小皺も目立ち、
全体的にガタガタで
リング上で見るよりも
いささか老けてみえた。
オイ、お前俺のファンか?
いえ…今日初めて父とプロレスを観に来ただけで…全然選手の名前とかはわかりません
そうか。じゃあ、ギリギリセーフだな。他の奴らにはこの俺様の無様な恰好絶対言うなよ
わかりました…あの、どうして技を避けないんですか?そんなに痛そうなのに?
真山は再び睨み、
俺の頭を掴んだ。
俺はしまったと思い目を閉じた。
すると
…逃げたくねえからだよ。特にお前らガキたちの前で絶対逃げたくねえんだ
そう言いながら笑みを浮かべて
真山は小暮少年の頭を
クシャクシャに撫で回した。
ありがとう!!
俺の口から自然とその言葉が出た。
おう。で、まだギリギリ俺様のファンじゃねえおめえを見込んで頼みがあるんだけどよお
何ですか?
バスからこっそりスタッフ呼んできてくれねえか
わかりました
サンキューな
中指立てる余力もなく、
そう言って真山は気絶した。
俺は言われたとおりの立ち回りをし、
真山の介抱に貢献した。
因みに
このエピソードは父に話していない。
小暮は懐かしそうに
燻らせた煙草の火を消した。
経華が目をウルウルさせながら
すっごい感動的なヒーローエピソードじゃないですか!ちょいちょいお父様がちらつきましたけど!
あれから20年経った今でも真山選手は戦っているんだぜ?
小暮は新しい煙草に火をつけた。
続く