小暮忍の少年時代

小暮少年

父さん、これからどこに行くの?

小暮の父

今は≪戦いのワンダーランド≫とだけ言っておこう







当時まだ小学生だった俺は


父親に無理やりプロレスに


連れて行かされた。

超満員の場内。


割れんばかりの声援が飛び交う。

覆面悪役レスラー

うりゃああああ!!

真山仁

ぐはぁ!!


リング上の真山は劣勢。



コーナーポストに追いやられ、

相手選手のチョップを

バチバチ胸板で受けてミミズ腫れ。

覆面悪役レスラー

死ね!真山コラ!タココラ!

真山仁

何コラ!タココラ!



リングサイド席で観戦している

俺は父に聞いた。

小暮少年

お父さん、この人たち何でこんな大勢の前でわざとらしく喧嘩してるの?

小暮の父

わざとらしい喧嘩ではないって。真剣なんだって!。
プロレスの前では嘘も本当も無い。

あるのは本気の闘い、そして罵り合いだオラ!

お前もやれるのかって!いつやんのかって!

結局、


その時の親父は興奮しすぎて

何を言っているのか全く理解できなかった。



チョップのたびに飛ぶ汗が

スポットライトで輝きながら飛び散る。

覆面悪役レスラー

真山~、お前くたばれオラ!

真山仁

なんだオラ!こんなんじゃ死なねえよコラ!



真山はコーナーポストで

そのまま気絶したかのように

一瞬ふらついたが踏み止まり、


さらには顔面を

相手に突き出して















もっと来い








と自身の頬をぺしぺし叩く

ジェスチャーをした。

覆面悪役レスラー

いい度胸じゃねえか。上等だこの野郎バカ野郎

真山仁

効かねえっつってんだろうがオラ!

再びサンドバッグのように

チョップとグーパンチの乱れ打ちを

体中に受け止める。




リング上で何が起きているのか、


真山が一体何をしたいのか

さっぱりわからず混乱していると































という今まで聞いた事の無い

すさまじい音が会場に響き渡った。



骨が砕けるような音だった。



それは額からマグマのように

血が流れ出ている真山が放った

ヘッドバットであった。



覆面悪役レスラー

痛えよ!離せオラ!!

真山仁

おら立てよ、オラ!お前ら見とけよオラ!




よろける対戦相手の髪を掴み、


会場に中指を立ててぐるぐると回し、

観客を煽る真山。


すると

父を含めた観客全員が



口をすぼめて息の抜ける音を出し始めた。

小暮少年

父さん、みんな何してんの?

小暮の父

いいからお前もシューってやれオラ。そういう流れだから

小暮少年

やだ。恥ずかしい

小暮の父

やらねえ方が恥ずかしいんだよ。いいからやれよタコオラ!

俺は訳が分からず

恥ずかしがりながら

シューっと口から音を出した。


するとさっきよりも大きな


























という真山のヘッドバッド音がなった。


観客のシューというのが

ロケット花火の上昇する音を演出し、


頭突きの音が打ち上げ花火の

爆発音のように響き渡る。

真山仁

よっしゃ、お前らいくぞオラ!!



そういう流れなのだと理解した時、


俺はそれまでに感じた事の無い

一体感に興奮した。


真山はダウンした対戦相手に

首を掻っ切るポーズをしてから

トップロープに登り、



相手のどてっ腹めがけて

ダイビングヘッドバッド。







ワンッ!

ツー!!

スリーッ!!!

真山仁

おい、野郎ども!!
…サンキューな

両中指を立てて舌を出し、


強さを誇示する真山。



自身のテーマ曲と会場の拍手と

大歓声に包まれながら

真山は赤コーナーサイドの花道へと

退場していった。

小暮少年

すごかったね!!父さん!?

小暮の父

マ・ヤ・マ!!マ・ヤ・マ!!





そこにいたのはいつもの父ではなく、



ただの面倒くさいプロレス中年であった。

続く

ドリームファイター その3

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