空を覆う雲
なんで電気つけてないの?
はっ!
感情が交錯する中、
あたしはいつの間にかダイニングへ戻って
椅子に座っていた。
おねえちゃんは
何事もなかったかのような
顔をしている。
あ……ちょっと考え事してたら…
電気つけるの忘れてたよ…。
よっぽど集中してたんだねぇ。
リツが全然呼びに来ないから
自分で来ちゃったよ。
へ?
チラッ
時計の針はもう10時過ぎを指してた。
うぇ!?
もうこんな時間?
実は寝てたんじゃない?
寝てないと思うんだけどなぁ……。
今日は体力的にだいぶ無理したからねぇ。
それ、おねえちゃんのせいじゃんか!
はいはい、そうでしたねぇ。
ごめんね、リツ。
いつもの調子のおねえちゃん。
さっきまですすり泣いていたとは思えない。
あたしは本当に夢を見てたのかな?
それにしてはリアルだったし……。
さて、早く食べないとね…。
そうだね……。
餃子、温めるよ。
餃子を電子レンジで温めている間、
冷蔵庫から冷えすぎたコブサラダを出す。
4時間以上も冷蔵庫で過ごしたサラダは
ラップをしていたとしても乾燥気味だ。
いただきます。
いただきまーす。
もぐもぐ
時間が経ち過ぎちゃったね。
やっぱ焼きたてじゃないと……。
んー……。
でも、おいしいよ。
……ありがと、おねえちゃん。
あははは……。
………。
今日も食後はリビングでテレビを見る。
けど、頭に入ってこない。
笑いながらテレビを見るおねえちゃんが
本当の姿なのか、
書斎で泣いていたおねえちゃんが
本当の姿なのか、
はたまた、あたしの見た夢だったのか。
ふぁぁぁ……
大あくびするおねえちゃん。
今日はたくさん運動して疲れたねぇ。
たく……さん……!?
もう寝ようか。
そ、そうだね。
今日は久しぶりに自分の部屋で寝る。
階段登る体力あるの?
大丈夫だよ、手すりがあるから。
そこ!?
まぁ、埃っぽくないかは心配だねぇ……。
あたしがたまに掃除してるから大丈夫だよ!
おや、そうかい。
ありがとねぇ。
はぁ、はぁ、はぁ……。
もう、ぎりぎりの体力じゃんか!
んじゃ、おやすみぃ〜
うん、オヤスミ。
おやすみのあいさつをして
お互いの部屋に入る。
ベッドへと潜り込み、
書斎での事を整理してみる。
……けど、肉体労働でヘトヘトの体は
睡魔には勝てず、
考えがまとまらないうちに
夢の世界へと堕ちていく。
ハッ!
ここは……。
心の世界……?
それにしては……。
……暗い。
今まで見てきた心の世界は
柔らかく優しい明るさを
持つ世界だった。
けど、これはまるで
暗雲が立ち込めているみたい。
ア…… キタ!
レム!
あたしの姿に気づいたレムが声をかけてきた。
これはどういう事?
何でこんなに暗いの?
……キョウ…
キミ ハ
カレ ノ アルジ カラ
ハナレナカッタ。
………。
オカゲ デ
カレ ヲ ネラウ
『クロヴィス』ハ
カレ ニ テダシ
デキナカッタ
………ケド……。
……けど?
スッ……
レムはゆっくりと空を仰いだ。
あたしも釣られるように
上を見上げる。
!!!
そこには
おびただしい数のクロヴィスが
心の世界の空を埋め尽くしていた。
ヤツラ ハ……
ナニガ ナンデモ
カレ ヲ
ケス ツモリ ダ!
何がなんでも……!?
………。
もう一人の門番さんは
変わらず沈黙を続けたまま……。
事態は好転しなかった。
けど、ただひとつ。
レムの言葉ではっきりした事がある。
もう一人の門番さんは
まぎれもなく
おねえちゃんの門番さんだ。
つづく