常温に戻した卵を手鍋に入れ、


被るくらいの水を入れる。




コブサラダなら半熟よりも黄身は固めがいい。




鍋を火にかけ、タイマーをセットし、


考え事をしながら菜箸で卵を転がす。


あたし

……おねえちゃん、泣いてたよね……。



苦しそうに話す事はあっても、


あたしの前で涙を流したのは今回が初めて。








やっぱり、何かあるんだ……。



あたし

はっ!もう?



けたたましいキッチンタイマーの音に


我に返るあたし。




コンロから鍋をおろし、


卵を冷水につけ、手早くヒビを入れる。




黄身は固めがいい、と言っても


熱が通り過ぎたらボソボソした食感だ。


程よい柔らかさを保てるよう、


冷水の中で殻をむく。

あたし

よし、コブサラダおっけ!



綺麗に盛りつけた皿に一旦ラップを掛け、


冷蔵庫へしまう。


あたし

次は、メインディッシュね。



そのまま冷蔵庫の冷凍室から、


昨日冷凍した餃子を取り出す。




油を引かないフライパンに綺麗に並べ、


3/4カップ程水を入れて火にかける。




蓋をして蒸し焼きながら、


幼い頃の記憶をたぐり寄せる。






おぼろげな記憶をつなぎ合わせようとしても、


家族みんなで餃子を作った記憶は


一向に浮かんでこない。



あたし

少しくらいは覚えていても
いいと思うんだけどなぁ……



水がなくなる頃合いに蓋を開け、


ごま油を回し入れて火を強める。

あたし

でーきた!



大皿に移した後、餃子を一つ、つまみ食い。



記憶の中のお昼の餃子と比べてみる。

あたし

むー……。
やっぱり時間かけて冷凍すると
乾燥するのは防げないね……。
急速冷凍機が欲しい…。

あたし

チラ



時計を見るともうすぐ7時だ。

あたし

お昼が遅かったから、ちょっと早いけど……。お姉ちゃん呼んでこよ。



















あたし

おねえ……




おねえちゃんがいる書斎の


ドアノブに手をかけようとした時、


部屋からすすり泣く声が聞こえてきた。


あたし

……おねえちゃん?









あたし

……また……泣いてるの?



あたしはダメと思いつつも、


ドアの脇に立ち聞き耳を立てる。

おねえちゃん

ねぇ、おかあさん、
リツはもうすっかり大人だよ……。
アタシやおかあさんよりも
ずっと料理が上手になったよ。

あたし

……。

おねえちゃん

……ねぇ、おとうさん。
おとうさんのおかげだよ。
おとうさんが餃子を食べたいって言ってくれたから、リツは家庭的ないい子に育ってるよ…。




















おねえちゃん

……餃子作るの、
みんな一緒で楽しかったよね……。






あたし

……おねえちゃん……。




おねえちゃん

うっ…うぅっ……。







おねえちゃん

おとうさん、おかあさん、どうして死んじゃったの……?









声を殺しながら泣くおねえちゃん。










あたし

















壁にもたれながら



あたしはその声を聞き



身動きできなかった。

























つづく

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