穂波さま

ふぅー、食べたのじゃー

 晩ごはん、ハンバーグプレートを食べきった穂波さまは、ふらふらしつつ、部屋に戻る僕の後をついてくる。

階段で落ちないでくださいよ

穂波さま

ふん、落ちるわけ無かろ

だといいんですが

穂波さま

さて、お主の部屋を見させてもらおうかの

何もないですよ

穂波さま

あるかないかはわらわが決めるのじゃ

はいはい、着きましたよ

 僕は自室のドアを開けた。

穂波さま

おぉー……ぉ

何もないでしょう?

穂波さま

いや、あるにはあるが、こう、普通じゃの

 勉強机にベッドに本棚。あとは数個のクッションに、部屋の中央にあるこたつ。
 それが僕の部屋の構成要素だった。

穂波さま

どどん、とアイドルのタペストリーとかあるのかと思っておったのじゃ

何時の時代ですか、それ……

穂波さま

ほんの50年ほど前じゃが

僕の生まれる35年前ですかーそれはわからないですよー

 ハハハ、と笑いつつ、やはり時間間隔が違うのだなと納得した。

穂波さま

して、その机から布団が出ているのは何じゃ?

え?

穂波さま

それじゃ、それ

これですか? ただのこたつですが

穂波さま

はっは、バカをいうでない。こんな小さなこたつがあるか。掘っておらんこたつなど、どうやって中で焚くのじゃ

えっと

 僕はこたつをひっくり返した。

ここの発熱部があるので、中で燃やさなくても、暖かくなります

穂波さま

……嘘じゃろ?

穂波さまが引きこもっていた数百年間の間に、こたつも進化したのです

 しかも、DCEのおかげで完全コードレスになったこたつ机は、外のレジャーでも活躍できるすぐれものだ。

穂波さま

し、信じられんのじゃ……

じゃあ、実際入ってみては?

 僕は机柱にある電源ボタンを押し、こたつを起動する。

穂波さま

よ、よかろう

 穂波さまが足をこたつに入れる。
 そして、とろけた。

穂波さま

ふあああ

 きっとお風呂でも同じようなだらしない顔をしていたのだろう。
 口元がゆるみきり、目尻も垂れ下がれ切っていた。

穂波さま

なんじゃぁぁこりゃああ、囲炉裏そばでもこんなに優しく暖まらんのじゃああ

 すでに手足をこたつに入れて、体を全てこたつ机に寄りかかっている穂波さまは、立派なこたつ狐となっていた。

穂波さま

わらわ、ここでねるのじゃあ……

こたつで寝たら、風邪ひきますよー

穂波さま

神は風邪をひかんのじゃ

……そういえばそうか

 妙に納得した自分がいた。

 その夜。

穂波さま

……やっぱり暑いのじゃ

ぐえっ、穂波さま、上に乗らないでください

穂波さま

すかー

 仕方ないので、僕はベッドで寝た穂波さまを起こさないように、こたつに移動した。

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