廃墟島の2日目《 後編 》

 俺たちは学校に着くと、
校舎を感慨深く見つめていた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

わあー、懐かしい!
5年前と全然変わってないね

佐伯 玲也(さえき れいや)

5年くらいじゃ外観は
そんなに変わらないよ

美崎 耀(みさき あかる)

でも、中はホコリやクモの巣が
一杯だろうな。
マンションは掃除されてたから
問題なかったけど

美崎 先生(みさき さきお)

とりあえず中に入って荷物を置こうぜ。
重くてしょうがねえ

美崎 耀(みさき あかる)

そうだな

 玄関に入ると、靴箱の前で千雪が止まった。

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

大変です……

美崎 耀(みさき あかる)

どうした?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボク、
学校の上靴を持って来ていません……

美崎 耀(みさき あかる)

ははは。
上靴に履き替えなくったっていいんだよ。
もうこの学校は使われてないんだからさ

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

そうなんですか……?

 千雪が恐る恐る、
校内へぴょこんと足を下ろす。
俺たちもそれに続いて廊下を歩き始めた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

確かに土足で校内に入るのって、
ちょっと変な感じだね。
ねえ、わかちゃん?

日良 若葉(ひら わかば)

あ、うん……

美崎 耀(みさき あかる)

若葉、疲れたのか?
少し休むか?

日良 若葉(ひら わかば)

ううん、そういうのじゃないの。
この学校に姫乃ちゃんと通ってたこと、
思い出しちゃって

美崎 耀(みさき あかる)

そうか……

美崎 耀(みさき あかる)

じゃあさ、泊まるのは
俺たちの教室にしようぜ。
姫乃の思い出も詰まってるし

美崎 先生(みさき さきお)

悪くねえ案だけどよ、
床が硬くねえか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

じゃあ保健室は?
ベッドが有るよ

美崎 先生(みさき さきお)

保健室のベッドは2つしか無えからなあ

佐伯 玲也(さえき れいや)

宿直室はどうですか?
畳の部屋だから、
寝ても痛くないと思いますよ

美崎 先生(みさき さきお)

なるほど。
それで行くか

 みんなで寝袋やバッグを抱えて、
宿直室へ向かう。
その途中で亜百合が、俺に耳打ちをした。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ねえねえ、お兄ちゃん。
夜になったらこっそり抜け出して、
二人で保健室に行かない?

美崎 耀(みさき あかる)

い、いや。
そりゃまずいだろ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

どうして?
私ってそんなに魅力ないかなあ?

美崎 耀(みさき あかる)

逆だろ。
魅力があるから歯止めが利かなさそうで、
困るっていうか……その……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

嬉しい!
大好きお兄ちゃん!

 亜百合が、俺の耳たぶにキスをした。

美崎 耀(みさき あかる)

な、何やってんだお前はっっ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

あれ?
喜ぶかと思ったのに

美崎 耀(みさき あかる)

みんなの前でやるこっちゃ無いだろ!

美崎 先生(みさき さきお)

コラーッ。
そこ、不純異性交遊は禁止だぞー

 玲也が俺の耳に息を吹きかけた。

美崎 耀(みさき あかる)

うぉわあああーっ!!
何しやがる玲也!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

大慌てしてたから、
美崎は耳が弱いのかと思って
試してみたんだ

美崎 耀(みさき あかる)

試さなくたっていいだろ!
全身に鳥肌が立ったぞ!

美崎 先生(みさき さきお)

おい、お前ら。
念のために言っておくが、
不純“同性”交友も禁止だぞ

美崎 耀(みさき あかる)

なんで共犯扱いなんだ……。
セクハラされたのは俺なのに

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ねえねえ!
そんなことより温泉に行こうよ!
早くお風呂に入りたーいっ

 宿直室に荷物を置いた俺たちは、
温泉に来ていた。

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

温泉、出てません……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

男湯も女湯も全滅だね

美崎 耀(みさき あかる)

姫乃は温泉に入れるって
言ってたのになあ

佐伯 玲也(さえき れいや)

ひょっとすると、
露天風呂は使えるのかもしれないよ

美崎 耀(みさき あかる)

そっか、露天風呂が有ったな。
行ってみようぜ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

やった☆
温泉湧いてるね♪

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

これでお風呂に入れます……

美崎 耀(みさき あかる)

(温泉に入れば、
若葉も少しは元気になるかな)

佐伯 玲也(さえき れいや)

露天風呂は一つしかないね。
女子と男子、どっちが先に入る?

美崎 耀(みさき あかる)

女子を先にしてやろうぜ

佐伯 玲也(さえき れいや)

なるほど、レディファーストか。
女性陣が入っている間、
僕らはどうしようか?

美崎 耀(みさき あかる)

近くに待機して、
例の犯人が来ないか見張るぞ

美崎 先生(みさき さきお)

女子の入浴シーンを
覗く気じゃねえだろうな、耀?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そうなの?
それだったら私が一人で
入ってる時にしてくれればいいのに

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎……。
そんな下心があったなんて
ガッカリだよ

美崎 耀(みさき あかる)

お前らアホか!
状況を考えろ状況を!

美崎 先生(みさき さきお)

ははっ、悪い悪い。
お前の言う通り、
丸腰で襲われたら大変だ。
ボディガードは必要だな

美崎 耀(みさき あかる)

わ、わかればいいんだよ。
わかれば

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

早くお風呂に入りましょう……

日良 若葉(ひら わかば)

そうだね。
亜百合ちゃん、お風呂道具
持って来ようよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

はーい

 若葉たちが入浴している間、
俺と兄貴と玲也は
塀を隔てて露天風呂の裏側で待機していた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

わあ、わかちゃんの身体って綺麗!

日良 若葉(ひら わかば)

そ、そんなことないよぉ。
私なんて亜百合ちゃんに
比べたら……

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクも二人みたいに
なりたいです……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

大丈夫。
ちゆちゃんは将来性あるから

美崎 耀(みさき あかる)

か、会話が丸聞こえじゃねえか

佐伯 玲也(さえき れいや)

この塀、薄すぎるよね。
あ、この隙間から
向こうが見えそうじゃない?

美崎 耀(みさき あかる)

おい!
覗くなよ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

はは、まさか。
僕は美崎だけを見ている
って言っただろ?

美崎 耀(みさき あかる)

毎度のことだが
冗談なんだよな?

佐伯 玲也(さえき れいや)

うん、冗談だよ

美崎 耀(みさき あかる)

(目がマジなんだが……)

美崎 先生(みさき さきお)

ふうーっ

 兄貴がこっちに向かって、
タバコの煙を吹きかけた。

美崎 耀(みさき あかる)

ゲホッ! ゲホッ!
何すんだ兄貴!

美崎 先生(みさき さきお)

すまんすまん。
いやあ、それにしても
女の風呂って長いよなあ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

上がる前に、
もう一回温泉に入ろうか?

日良 若葉(ひら わかば)

うん。
身体を温めてから出ないと、
湯冷めしちゃうもんね

美崎 耀(みさき あかる)

そろそろ出てくるみたいだ

美崎 耀(みさき あかる)

(若葉、少し元気になったみたいだな)

美崎 先生(みさき さきお)

おっと、タバコが切れちまった。
ちょっと学校まで取りに
行ってくるわ

佐伯 玲也(さえき れいや)

えっ?
もう少ししたら、
日良さんたちと交替ですよ

美崎 先生(みさき さきお)

おう。
先に入っててくれ


 兄貴は俺たちに背を向けると、
ヒラリと手をあげて学校へ歩いて行った。

美崎 耀(みさき あかる)

ったく、兄貴は自由すぎるよな

雲母 亜百合(きらら あゆり)

お兄ちゃーん!
今あがるから、
待っててねー!

美崎 耀(みさき あかる)

はいはい

 若葉たちと入れ替わりで、
俺と玲也は温泉に入っていた。

佐伯 玲也(さえき れいや)

こうして美崎と二人きりで、
温泉に入れるなんて夢みたいだよ

美崎 耀(みさき あかる)

早く戻って来てくれ兄貴!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

安心してよ、
美崎が嫌がることはしないから。
お互いに気持ち良くならないと
僕もつまらないし

美崎 耀(みさき あかる)

そのセリフがすでに安心できない

佐伯 玲也(さえき れいや)

そういえば先生(さきお)先生、
戻って来るの遅いね

美崎 耀(みさき あかる)

道草食ってんのかな

 俺は若葉たちが待機しているはずの、
塀の裏側に向かって叫んだ。

美崎 耀(みさき あかる)

おーい、若葉ーっ!
兄貴は来たか?

日良 若葉(ひら わかば)

さっき戻って来たんだけど、
亜百合ちゃんと
どこかへ行っちゃった……

美崎 耀(みさき あかる)

亜百合と? なんで?

日良 若葉(ひら わかば)

わからないけど、
何か話があったみたい

佐伯 玲也(さえき れいや)

話ってなんだろう?

美崎 耀(みさき あかる)

うーん、わからん。
芸能界の悩みでも
相談したんだろうか

佐伯 玲也(さえき れいや)

日良さんは本当に何も
聞いていないのかい?

日良 若葉(ひら わかば)

うん……

佐伯 玲也(さえき れいや)

そう……。
元宮さんは何か知ってる?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクは何も知りませんが、
大事な話があると言ってました……

美崎 耀(みさき あかる)

(なんだろう。
ものすごく嫌な予感がする)

美崎 耀(みさき あかる)

先に上がってるからな!

佐伯 玲也(さえき れいや)

慌ててどうしたんだい?

美崎 耀(みさき あかる)

なんかすげー嫌な
予感がするんだよ!
兄貴と亜百合を探してくる!

 俺が脱衣所へ向かおうとしたとき……。

美崎 先生(みさき さきお)

おいおい、
血相変えてどうしたんだよ

美崎 耀(みさき あかる)

兄……貴……?

美崎 先生(みさき さきお)

せっかくこれから風呂に入ろうと
思ってたのに、
もうあがっちまうのか?

美崎 耀(みさき あかる)

あ、えっと……。
亜百合は?

美崎 先生(みさき さきお)

若葉たちの所にいるぞ。
どうかしたのか?

美崎 耀(みさき あかる)

いや……。
兄貴と二人で居なくなった
って聞いたから
何の話をしてたのかと思って……

美崎 先生(みさき さきお)

あん?
ああ、なるほどな……

美崎 耀(みさき あかる)

なんだよニヤニヤして

美崎 先生(みさき さきお)

安心しろ。
恋の相談に乗ってやってたんだよ。
もちろん恋のお相手は
俺じゃねえぜ?

美崎 耀(みさき あかる)

は?

美崎 先生(みさき さきお)

つまり、ヤキモチなんか
妬くこたぁねえってこった

美崎 耀(みさき あかる)

ち、ちげえよ!
そんなんじゃねえって!!

美崎 先生(みさき さきお)

ハッハッハッ!
青春してるなあ耀!

 そう言って兄貴は温泉に入った。

美崎 耀(みさき あかる)

(チクショー。
心配して損した)

 そして俺も兄貴に続き、
再び温泉に入ったのだった。

 そしてその晩、俺は知ることになる。



 今までに味わった事が無いほどの、絶望を。



雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生……?
どうして……?

日良 若葉(ひら わかば)

…………!

 深夜に目が覚めた時には、
兄貴がいなくなっていた。


 どうせトイレにでも行ったのだろう
と思ったが、
いつまで経っても兄貴は戻ってこなかった。


 だから俺はみんなを起こして、
必死に島中を探し回った。


 兄貴が怪我でもして動けないんじゃないかと、
心配して。



 しかし俺たちが発見したのは、


 あまりにも残酷で


 悲惨で


 受け入れ難い事実だった。


佐伯 玲也(さえき れいや)

そんな、まさか……。
みさき先生が転落死した岩場で、
先生先生まで……

 兄貴はたった一人で、
みさきさんの思い出に
浸りにでも来たのだろうか。


 みさきさんの死に場所となった
崖の下の岩場で、
頭から大量の血を流して倒れていたのだ。

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴! 兄貴!
おい、大丈夫か兄貴!!

美崎 先生(みさき さきお)

…………


 俺は必死に兄貴に声をかけた。
ただ気を失っているだけかもしれないのだから。


 叫ぶ俺の横に、玲也がひざまずいた。
そして、玲也は兄貴の手を取る。

佐伯 玲也(さえき れいや)

駄目だ……。
もう脈が無い

美崎 耀(みさき あかる)

嘘だろ?
何……言ってんだよ……?

佐伯 玲也(さえき れいや)

…………

 玲也は黙ってうつむき、
兄貴の手をそっと下ろした。

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴……。
なあ、起きろよ!
起きろってば!!

 俺は兄貴を抱え起こし、
激しく前後に揺さぶった。

美崎 先生(みさき さきお)

──しかし兄貴は
ガクンガクンと頭を揺らすだけで、
一向に目を開く様子は無い。

美崎 耀(みさき あかる)

うっ……


 俺は頭が真っ白になり、
叫び声をあげようとした。


──その時。
背後から、爆音の様な泣き声が弾け飛んだ。



雲母 亜百合(きらら あゆり)

ちゆちゃん!
落ち着いて!
大丈夫だから!


 亜百合が千雪を強く抱きしめているのを見て、
泣き声の主が千雪であることがわかった。

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ふぎゃああああ!!
サキオセンセエエエエ!!



 耳をつんざくような金切り声だった。


 いつもの俺なら、亜百合と一緒に
千雪をなだめていたと思う。


 だがこの時の俺にとって、
千雪の泣き声はパニックを
助長させるものでしかなかった。


美崎 耀(みさき あかる)

ウオオオオオォッ!
ふざけんなあ!!
誰が兄貴を殺したんだよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

冷静になるんだ美崎!
これは殺人と
決まったわけじゃない。
事故かもしれないだろう?

美崎 耀(みさき あかる)

みさきさんが死んでから、
崖に柵が作られただろ!
事故で柵を乗り越えるわけねえだろ!!



 その時、亜百合がポツリと呟いた。


雲母 亜百合(きらら あゆり)

じゃあ、自殺?

美崎 耀(みさき あかる)

………………は?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

もしかすると先生先生は
前から決めてたのかもしれない。
再びこの島に来ることがあれば、
みさき先生を追って同じ場所で死ぬって


 俺は衝動的に、亜百合の胸倉を掴み上げていた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

きゃっ!

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴が……。
俺や、妹みたいに思ってた若葉を
見捨てて
死んじまったっていうのか!?

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴はそんな無責任なやつじゃねえよ!
みさきさんのことだって
もう立ち直ってたんだよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎、やめろ!
雲母さんから手を離すんだ!

 玲也が俺の腕をひん掴み、
強引に亜百合から離した。

美崎 耀(みさき あかる)

ハア、ハア……

 俺が息を整えながらも、
亜百合をにらみつけていると……。




 亜百合が奇妙な薄ら笑いを浮かべた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

それはどうかな?
どうして先生先生が
立ち直ったって、
お兄ちゃんにわかるの?

美崎 耀(みさき あかる)

どういう意味だよ?
俺は生まれた時から
兄貴と一緒だったんだ。
それくらいわかって当然だろ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

前も聞いたよね。
お兄ちゃんは、
人を好きになったことないの?
……って

雲母 亜百合(きらら あゆり)

好きっていう感情は、
お兄ちゃんが考えてるほど
幼稚で浅はかな
ものじゃないんだよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

割り切れなくて、
すがりつきたくて、
ドロドロとしたものなんだから

雲母 亜百合(きらら あゆり)

それなのにどうして先生先生が
アッサリ立ち直れたと思うの?
先生先生とちゃんと
向き合ったことある?

佐伯 玲也(さえき れいや)

雲母さん、
今はそんなことを
話している場合じゃ……

美崎 耀(みさき あかる)

じゃあ何かよ!?
お前は
兄貴と向き合ったって言うのかよ!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

うん。
今日の昼、いっぱい話したからね

雲母 亜百合(きらら あゆり)

お兄ちゃんが知らない先生先生を、
私は知ってるの

美崎 耀(みさき あかる)

ふざけんな!!
兄貴はなあ、兄貴は……!






 その時、ふと冷静な考えが頭をよぎった。

美崎 耀(みさき あかる)

(どうして今まで
俺の味方だった亜百合が
こんな攻撃的な態度をとるんだ?)

美崎 耀(みさき あかる)

(まさか、亜百合が……?)

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

もう、お家に帰りましょう……。
ボク、こんなの嫌です……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

大丈夫だよ。
明日になったら
お迎えの船がくるって
ひめちゃんが言ってたから

美崎 耀(みさき あかる)

亜百合……。
お前、兄貴に自殺を
うながしただろ?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

え……?

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎……。
憶測による論理展開は、
互いの猜疑心(さいぎしん)を
生むだけだ。
不毛だよ

美崎 耀(みさき あかる)

ゴチャゴチャうるせえ。
俺と玲也が風呂に入ってる間、
兄貴に言ったんだろ?
みさきさんと同じ場所で死ねって

雲母 亜百合(きらら あゆり)

私はそんなこと言ってない。
第一、私に何か言われたくらいで
死ぬような人だと思う?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

先生先生が
今でもみさき先生を
愛していたから、
自殺じゃないかと思っただけだよ

美崎 耀(みさき あかる)

じゃあ言えよ!
二人で何を話してたんだよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

そうだね、それは僕も聞きたい。
雲母さん、キミはあまりにも
先生先生の自殺を断定しすぎている

佐伯 玲也(さえき れいや)

先生先生と何を話したのか
教えてくれないと、
雲母さんが疑われても
仕方ないよね?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

何を話してたかは……
言いたくない

美崎 耀(みさき あかる)

ふざけたことぬかすな。
俺の言ってることが当たってるから
言えないんだろ?
兄貴を自殺に追いやったのは……

美崎 耀(みさき あかる)

いや、
兄貴を殺したのは
お前なんだよ!!

雲母 亜百合(きらら あゆり)

…………!

 亜百合に言い放った瞬間、
頬に強い衝撃が走った。

美崎 耀(みさき あかる)

えっ……?

日良 若葉(ひら わかば)

いい加減にしなよ、耀くん


 今まで一言も発しなかった若葉が、
俺の頬を平手打ちしたのだ。

美崎 耀(みさき あかる)

お前、兄貴がこんな言い方されて
悔しくないのかよ?

日良 若葉(ひら わかば)

悔しくなんかない。
私は……情けないと思ってる

美崎 耀(みさき あかる)

情けない?
何がだよ

日良 若葉(ひら わかば)

亜百合ちゃんの顔、見て

雲母 亜百合(きらら あゆり)

おにい、ちゃん……

 月明かりに照らされた亜百合は、
瞳に涙を浮かべて
とても悲しげな表情をしていた。


 小さな動物のように、しきりに肩を震わせて。

美崎 耀(みさき あかる)

亜百合……

日良 若葉(ひら わかば)

私は亜百合ちゃんと先生先生が、
何を話してたか知ってる。
私が相談するように勧めたの

佐伯 玲也(さえき れいや)

それなら、
日良さんから説明してくれるかい?
二人の話の内容を

日良 若葉(ひら わかば)

説明なんかしないよ!
耀くんとれいくんは無神経すぎる!
男の子に知られたくないことだって
あるんだよ!!

美崎 耀(みさき あかる)

でも、兄貴には話したんだろ?

日良 若葉(ひら わかば)

先生先生は私たちにとって
教師だし、
お兄さんみたいなものだし、
大人だから解決の方法を知ってると
思ったからだよ

日良 若葉(ひら わかば)

最初に亜百合ちゃんから
相談を受けたのは私だけど、
私じゃ解決の方法が
わからなかったから。
だから、先生に相談しなよって言ったの

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ううっ……


 亜百合は自分の口元を押さえ、
声を殺して泣き続けている。

日良 若葉(ひら わかば)

先生先生の前で、
こんな言い争いするのはおかしいよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

まあ、雲母さんが美崎の神経を
逆なでするようなことを
言い続けたから、
こうなったわけだけど

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くん……

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

玲也おにぃは
ちょっと黙っててください……

佐伯 玲也(さえき れいや)

はいはい

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ううっ……!
ごめんね、みんな!!

 亜百合は涙を流したまま、
全速力で走り出した。

美崎 耀(みさき あかる)

亜百合!?

日良 若葉(ひら わかば)

亜百合ちゃん!


 走り去ろうとする亜百合を、
俺と若葉は必死に追いかけた。

 だが……。


 亜百合はあっという間に夜の闇に溶け込み、
その姿を追い切ることはできなかった……。


美崎 耀(みさき あかる)

(くそっ、どこに行ったんだ?)

日良 若葉(ひら わかば)

ハアッ、ハアッ……!
亜百合ちゃんは?

美崎 耀(みさき あかる)

駄目だ、見失っちまった。
どっかに隠れてるのかもしれねえ

日良 若葉(ひら わかば)

どうしよう……。
亜百合ちゃんが一人になったら、
犯人に襲われちゃう……

美崎 耀(みさき あかる)

そうか……。
島に潜んでる犯人の存在なんて、
すっかり忘れてたよ

日良 若葉(ひら わかば)

耀くん?

美崎 耀(みさき あかる)

そいつが兄貴を
突き落としたのかもしれないのに、
俺ってやつは亜百合を
疑うなんて……

美崎 耀(みさき あかる)

自分の馬鹿さ加減が嫌になる

日良 若葉(ひら わかば)

耀くん……


 うなだれていると、
若葉にふわりと抱きしめられた。

美崎 耀(みさき あかる)

若葉……?

日良 若葉(ひら わかば)

大丈夫だよ、耀くん。
ちゃんと謝れば、
亜百合ちゃんも許してくれるよ


 若葉はまるで子供をあやすように、
俺の背中を撫でている。

美崎 耀(みさき あかる)

そ、そうかな。
そうだといいんだけど……


 こんな状況だというのに
抱きしめられたことで頭が一杯になってしまい、
胸の鼓動が早くなる。



 自分にほとほと呆れてしまった俺は、
鼓動が伝わらないように若葉を離した。

美崎 耀(みさき あかる)

とりあえず亜百合を探そうぜ!

日良 若葉(ひら わかば)

うんっ


 懐中電灯で道を照らしながら、
玲也と千雪がやって来た。

佐伯 玲也(さえき れいや)

雲母さんは……。
その様子じゃ、
見つかってないみたいだね

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

亜百合おねぇは、
どこに行っちゃいましたか……?

美崎 耀(みさき あかる)

わかんねえ。
こうなったら、
徹夜で探すしかねえな

日良 若葉(ひら わかば)

一人にしておくわけに
いかないもんね


 そうして俺たちは、
ひたすら亜百合を探し続けた。



 夜が明けるまでに、きっと亜百合は見つかる。
誰もがそう信じて闇を突き進んだ。



 闇が明ける頃には、
更なる悲劇の幕をも開くとは知らずに。







廃墟島の2日目《 後編 》

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