つばさ

でも、ちょっと獣くさいかも

 すうすう、とつばさが穂波さまの尻尾を嗅ぐ。

穂波さま

な、なにを言うておるのじゃ! というか嗅ぐでない!

穂波さま……まさか

穂波さま

まさかとはなんじゃ

お風呂、いつ入りました?

穂波さま

別にいつ入っても良いじゃろ

つばさ

……穂波さま、いつ入ったの?

穂波さま

……神に風呂など必要ないのじゃ。水浴びもしておるしの

 ああ、山の神さまがあまやかしてお風呂に入れない光景が目に浮かぶ。

山の神さま

穂波ちゃーん、お風呂はお風呂は?

穂波さま

はいらーん

山の神さま

わかったわわかったわ~

つばさ

お兄ちゃん、穂波さまをお風呂に入れていい?

奇遇だな、僕もつばさにお願いしようかと考えてたところ

 察しのよい妹で助かる。

つばさ

うん、じゃあ穂波さま捕まえておくから、風呂沸かしてきてー

了解

穂波さま

ちょっと待てお主ら、何を勝手に話を進めておるのじゃ!

つばさ

はいはい、穂波さまーしばらくじっとしててね?

穂波さま

いーやーじゃあああ!

 穂波さまの叫び声を聞きながら、僕は風呂場に行く。
 入浴剤とかどうしようか。バスロマンでも入れておこうか。そんなことを考えながら。

 そしてアラームによってお風呂が沸いたと知らせが入った時、つばさが僕に尋ねた。

つばさ

お兄ちゃん、穂波さまの尻尾って何で洗ったらいいかな。犬用シャンプー?

人用シャンプーで良いんじゃないかな。犬用ってたろうのが残っててても使用期限すぎてるだろうし

つばさ

そっかぁ

穂波さま

尻尾って待てお主ら、まさか全身洗うわけではなかろうな?

つばさ

うん

そのつもりですけどー

穂波さま

やっぱりうちに帰る、神域に帰るのじゃあああ!

つばさ

だーめ、お風呂いこー

 ずるずると、つばさに引きずられていく穂波さまだった。
 というかすでにつばさが穂波さまキラーになっているような気がするのは気のせいだろうか。。

 そして小一時間後、髪をバスタオルでターバンのように包まれた穂波さまが風呂場より帰還、すぐにカーペットへ倒れこんだ。
 服はつばさのお下がりの、黄色いパジャマだ。

穂波さま

うう、洗われたのじゃ、隅々まで……耳の先から尻尾の先まで

 しっかりつばさに洗われたのか、尻尾は前より輝いて見え、丁寧にブラッシングされたのか、その毛並みは砂漠の風跡のようだった。
 そのあと、つばさが風呂場より帰還。流れるように穂波さまをカーペットから抱きかかえ、ソファーに座る。

つばさ

お兄ちゃんお兄ちゃん、穂波さま洗うの大変だよう! ただでさえ長い髪と四本の大きな尻尾!
乾かすのも大変だったよう、湯冷めしそうになったよう

妹よ、先に着替えてから乾かしたらいいんじゃないかな

つばさ

あ、それもそうだね。くしゅん。でも楽しかったよう

ふむ……。つばさ、今後とも穂波さまのお風呂をお願いしていいか?

つばさ

うん、いいよう!

穂波さま

また洗われるのか!?

つばさ

さすがに尻尾は毎日洗わないけど、体と髪は洗ってあげるよう

穂波さま

いやじゃあ!

つばさ

でも、穂波さま。湯船に使った時、すごく幸せそうだったけど

穂波さま

うぐ

つばさ

どうなの、穂波さま?

穂波さま

し、しかたないじゃろ。
あんなに広い湯船なんて初めじゃし?
お湯の温度も良い加減じゃし?
ま、まあ、また浸かれるのであれば、体を洗うのもやぶさかではないのじゃ

つばさ

やった!

 穂波さまの素直でない言葉に、つばさは大いに喜んで、また穂波さまをぎゅっと抱いた。

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