つばさ

むううう

 四人がけソファーの上で、つばさが穂波さまを後ろから抱きかかえつつ唸っていた。

つばさ

まだ納得できない

まだ納得できないかー

つばさ

だって、お父さんお母さんは書き置きで知ってて、私が知らないなんて納得いかないよう!

その文句は父さんと母さんに言ってくれ―

 僕はテーブルの上に置かれたポッキーを一本取り、口に含む。

つばさ

それに、話もトントン拍子に終わって、しかも来週のお出かけ先も穂波さまの山に花見になったし、心配して大損した気分だよう

理解が早い両親って、いいと思うなー僕は

つばさ

それは否定しないけど

まあ、つばさに何も言わず行ったことについては謝る。ごめんな

 僕はもう一本ポッキーを取り、つばさの口の近くに寄せる。

つばさ

うん、許した

 つばさはそのポッキーを口に含んだ。

穂波さま

わらわはこの状況に納得できんのじゃが

 そして穂波さまのターンである。

つばさに抱かれてもふもふされてる

穂波さま

そんなのはわかっておるのじゃ!

つばさ

私が穂波さまを抱いて幸せに浸ってる

穂波さま

幸せを感じておったのか?!

つばさ

うん。あーなつかしいなぁ。たろちゃん思い出すー

ああ、確かに。たろうを思い出すなー

 たろう、とはうちで飼っていた、一昨年に天寿を全うした柴犬(雌)だ。

 つばさは生まれた時から一緒に過ごしていたので、その懐かしさもひとしおだろう。

穂波さま

わらわは神じゃぞ、なぜ、小娘に抱かれなければならんのじゃ!

つばさ

威張ってるのもかわいー

穂波さま

ぎゃあ! 尻尾、尻尾をギュッとするでない! 手に力を入れるなああ!

つばさ

はぁ……もふもふ

つばさがヘブン状態に……神様、しばらく我慢してください。こうなったら何もいうことを聞かないので

穂波さま

いやじゃあ、うちに、神域に帰るうう

帰ったら山の神様にどんなことをされるか……

穂波さま

……だ、抱きつかれるぐらいならまあ良しとしようかの

 つばさの抱きつきは、山の神様とのキスよりは許容範囲らしいことがわかった。

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