サクヤヒメが嫁に来てから、あっという間に数ヶ月が経った。

彼女が来てくれたその夜に初夜を迎え、ニニギはイワナガヒメのことなど、一瞬で忘れてしまったのだが、意外なことに、その日以来2人は同じ布団に寝ていなかった。

ニニギ

いや、別に避けてるとか、嫌われてるってわけじゃないんだけど。国づくりの方もあるからさ。最近、いろいろと仕事で疲れちゃってて。


しかし、この日は珍しく、サクヤヒメがそろそろとニニギの部屋に入ってきた。

そして目の前まで来ると三本指を付き頭を下げた。『なんの用だろう?』とドキドキしながらも、やっぱり彼女は可愛かった。サクヤヒメは顔を赤らめながら口を開いた。

サクヤヒメ

・ ・ ・ ・ と言う訳で、子供を授かりました。そろそろ、出産の時期ですのでご報告をと思って。


ニニギは笑顔のまま固まった。

ニニギ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ へ? 今なんて?

サクヤヒメ

ですから、もうじき出産なので、ご報告をと。

ニニギ

は??いやいやいやいや!!!!!え?うそ?早くない?早過ぎじゃない???

ニニギ

てゆうか、あの日以来、やってないじゃないですかっっ!!!え??どうゆうことっ???

サクヤヒメ

そりゃ ・ ・ ・ 天つ神の御子ですから ・ ・ ・ 普通とは違うものかと ・ ・ ・ ・ ・ ・

ニニギ

うっそだぁ!!そんな、一回くらいじゃ着床しないですよ。それに十月十日も経ってないじゃん!!えぇっ??嘘っ!?そうゆう事???元カレいたんですか?

サクヤヒメ

はぁっ!?いませんよっ!!

ニニギ

あぁーーーーそーゆうことかーーーーそうですよねぇーーー可愛いもんあぁ~~~彼氏いない訳ないですよねぇーーーー絶対、どっかの国つ神の子だよぉぉぉーーーーー!!!!

サクヤヒメ

なっっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ひどいです!私がそんな事する女に見えるんですかっっ???


しかし、ニニギは聞く耳を持たずに頭を抱えて項垂れている。

ニニギ

あああぁぁぁ ・ ・ ・ そっかぁ~あぁ、どうしよう。予想以上にショック深い!!あぁーーやべぇーーー立ち直れないかもしんない!!!!

サクヤヒメ

ちょっ!何よ!?天つ神の御子を報告もなしに産むべきじゃないと思って伝えにきたのに ・ ・ ・ !!!自分の妻を疑うなんてサイテー!!!!

ニニギ

そんなこと言われたって ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ねぇ?

サクヤヒメは顔に似合わずブチ切れた。どうやらニニギは女性を怒らせるのが得意らしい。

サクヤヒメ

もういいです!!じゃあ、誓約で占いましょうよ!!私は、これから産屋にこもります。そして出産の前に入り口を塞いで小屋を燃やす!!

ニニギ

えぇっ?危ないですよ ・ ・ ・ ・ ・ ・

サクヤヒメ

いいんです!その辺の国つ神の子供だったら、無事に生まれて来れるわけがないですもの!!でも、天つ神のあなたの子なら、ちゃんと生まれてくるはずよ!!!

ニニギ

うぅ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかりました。


昔は出産のときに流れる血は穢れていると考えられていたので、家とは別に産屋(うぶや)という小屋を建てて出産をしたのだ。

サクヤヒメは、さっさと産屋の中にこもると、入り口を土で固めた。

そして産気づくと、本当に小屋に火をつけてしまった。

もちろん簡易的な小屋なので、材料は木の柱に藁の屋根と燃えやすい素材ばかりだ。火はゴォゴォと音を立て小屋はあっという間に燃え上がってしまう。

ニニギ

ちょ、火の巡りが早過ぎませんか??これ、本当にマズイやつじゃないですか??


ニニギは見ていられず産屋に駈け寄って声を上げた。

ニニギ

っっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ サクヤヒメ!!ボクが悪かったから ・ ・ ・ 出て来てください!!


しかし、返事は無い。

ニニギ

ねぇ、結果なんてどっちでもいいからっ!!サクヤ!!聞こえてるんですか??意地張ってないで!お願いだから ・ ・ ・ ・ ・ ・


ニニギは産屋からサクヤヒメを連れ出そうと考えたが、あまりにも火が大きくて近づくことすらできない。

ニニギ

これじゃ、全然、中の様子が見えない ・ ・ ・ サクヤ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


絶望的な情景にニニギが膝をついたその時 ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・ ・ おぎゃあ!おぎゃあ!!

赤子が元気に泣く声が響いた。

ニニギ

泣き声 ・ ・ ・ っっ産まれた? ・ ・ ・ 産まれたんですねっっ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ よかった!!

泣き声はさらに響く。

おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!お ぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!お ぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!

ニニギ

って、え?なになに??なんか、予想以上にうるさいんですけど ・ ・ ・ ・ ・ ・


ニニギが呆然としていると、サクヤヒメが炎の中から赤子を抱いてフラフラしながら表へ出て来た。

サクヤヒメ

ニニギ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ニニギ

サクヤ!!よかった、無事だったんですねっ!!!


ニニギは思わず駆け寄って彼女を抱きしめた。そしてあることに気付く。

ニニギ

あれ?なんか子供のボリューム多くない?

サクヤヒメ

ほら ・ ・ ・ あなたの子だったでしょ?三つ子よ。

ニニギ

三つ子っっっっっ!!??まじか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 神の血すげぇ!!!


赤子はまだ、おぎゃあおぎゃあと泣き叫んでいる。

サクヤヒメに我が子を抱かせてもらい顔を覗くと、ニニギは最初から誓約の必要なんて無かったんだと反省した。

この長男のふてぶてしい顔。父のオシホミミにそっくりじゃないか。彼女と目が合うと、困った顔で笑った。

ニニギ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ サクヤ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 疑ったりしてごめんなさい。一人でよく頑張りましたね。

サクヤヒメ

・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅん。いいの。よかった、信じてもらえて。


つかれてフラフラになった彼女の笑顔も、やっぱり可愛かった。

仲直りした2人は、3つ子をホデリ、ホスセリ、ホオリと名付け大切に育てた。

こうしてまた、主人公は子供達へと移って行く。

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