14話

辿り着いたのは屋上だった。

 
 赤音が隠れる場所はここしかないような気がしたからだ。




 彼女はやっぱり、そこにた。

赤音

……

 寝転がって夜空を仰いでいる

レン

みつけた

 オレがそう言うと、静かに振り向いて。

赤音

見つかっちゃった

赤音

……です

と、笑った。

赤音

レンくん、隣に寝てください

赤音

一緒に、空を見ませんか?

レン

ああ

 オレは彼女の言葉に従い寝転がって空を見る。
 やっぱり、ここから見る空は綺麗だ。

赤音

カクレンボじゃなくて、鬼ごっこにすれば良かったです

赤音

隠れてるだけじゃ、寂しいです。みんなを私が追いかけるの。

レン

赤音は足が速いから、オレたちはすぐに捕まるよ。

赤音

アイです

レン

赤音

わたしの名前、アイです。名前でよんでくれますか?

レン

………まてよ、心の準備が必要だろ

赤音

心の準備が必要だったのですか?

レン

いや、その……

 オレは口ごもる。

レン

アイ

赤音

はい!

レン

……

赤音

……

 名前を呼ぶだけで彼女は嬉しそうに微笑んだ。

赤音

好きな人に名前で呼ばれるのって、何だか嬉しいですね

レン

そうだな

レン

…………………

赤音

……………

レン

へ?

赤音

わたし、レンくんのこと好きです。ごめんなさい、死んちゃってる女の子からの告白なんて困りますよね

レン

……そんなことはないさ、オレもアイのこと好きだからさ

赤音

へへへ……ラン先輩より先にレンくんと出会いたかったな

レン

アイが兄貴を好きになったから、オレとアイは出会えたんだろ?

赤音

はい、そうです。でも……

レン

うちの家系は初恋が実らない。兄貴はそう言っていた。これは実らなかったってことなのかな。

ラン

……

レン

いや、実っているよな。
オレの場合は

赤音

レンくんのこと幸せにできなくて、ごめんなさい

レン

幸せだよ。

レン

オレが好きな子が、オレを好きでいてくれるって幸せだって思わないか?

赤音

はい、わたしも幸せです。

赤音

レンくん、ひとつだけ試してみたいことがあるの

 そう言って、アイが取り出したのは。

レン

はにわ

赤音

ラン先輩、そこにいるのなら……お願いします!

赤音

わたし、レンくんをいただきます

レン

その台詞は問題あるかと思うが。兄貴に誓うよ、オレは赤音アイが好きだ

赤音

わたしも、レンくんが大好きです。だから……

赤音

レンくんに触れさせください。一度だけで良いんです!

ラン

わかった

ラン

奇跡を起こしてやるよ

レン

……

赤音

……

 誰かの声が聞こえた。

 誰の声かなんて考えるまでもなかった。

赤音

レンくん……

レン

……

赤音

……っ

 オレはアイと見つめ合い口づけを交わした。
 触れ合うはずのない、生者と死者が触れ合う奇跡。
 それは一瞬のことだった。

レン

……

赤音

……

赤音

……

 
 アイが微かに微笑む。
 もう、悔いは残っていない。そんなことを言っている気がした。

 アイは立ち上がる。

レン

アイ?

 オレが声をかけると振り返って微笑む。

赤音

もうすぐです

レン

え?

赤音

十二時になったら魔法は解けるんだよ

 時計を見た、時刻は十一時三十分。オレはアイが何を言っているのか、ゆっくりと考えた。考えたくなかった。

 

 音を立てて、屋上に駈け込んで来たのはアメリだった。

アメリ

黒いのが、黒いのが

アオ

あれ、どうしたの?

 遅れて涼しい顔を浮かべたアオが現れる。

赤音

よかった、みんな来てくれた

 そう言って微笑むアイ。

赤音

もうすぐ、お別れだからね

アメリ

何を言ってるの

赤音

その前に、みんなで星を見よう

 アイの言葉に疑問を口にする者はいなかった。
 オレたちは寝転がって空を仰ぐ。

赤音

アオさん、あの星座は何?

アオ

アレはアメリ座っていって不吉な星座なんだ

アメリ

何を言ってるのよ

赤音

流れ星だ、願い事しなきゃ

赤音

……

アメリ

何をお願いしたの?

赤音

みんなの、幸せ

レン

そうか、アイは優しい奴だな

赤音

へへへへ

 オレはそっと時計を見た。時刻は十一時五十分。

レン

……

アオ

アイ、俺はお前に感謝しているよ。親友を喪った俺が学校生活が楽しいって思えるようになったのは、アイのお蔭だ

赤音

アオさん。アオさんが同じ学校にいてくれて良かったです。誰もわたしが見えなかったから、あの時は本当に嬉しかった

アメリ

アイ、親友でいてくれて、ありがとう。生まれ変わったら、また仲良くしようね

赤音

うん。アメリちゃんが親友で良かったよ。わたしみたいな子と仲良く出来るのアメリちゃんだけだもの

 そして、アオとアメリの視線がオレに向けられる。
 二人ともわかっていたのだ。
 
 あと少しでアイとの別れが訪れること。
 
 オレは何て言葉をかけるべきか悩んでいた。でも時間はない、気の利いた言葉もかけられない。頑張って絞り出したのは一言だけ。

レン

アイ………ありがとうな

赤音

レンくん、ありがとう。もっと名前を呼んで

レン

……アイ、好きだよ

赤音

わたしも……っ

赤音

好き

 アイは精一杯の笑顔をオレに向けた。
 だからオレも頑張って笑った。
 オレたちは泣きたいのを堪えて笑い合う。

 そして赤音アイはオレたちの前から消えた。
 

 十二時の訪れと同時に、消える余韻もなく、忽然とその姿を消していた。

 残されたオレたちは声を殺して泣いていた。

to be continued

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