穂波さま

それでは、いってくるのじゃ

 翌朝、僕は穂波様を連れて山を降りることとなった。
 巫、つまりは神付きになった僕のそばを離れるのは、穂波様にとってよろしくないという理由からだ。

山の神さま

さびしくなるわさびしくなるわ

 涙ぐみながら見送ろうとする山の神様に穂波様は声をかける。

穂波さま

そんな今生の別れでも無かろうに

山の神さま

そうだけどそうだけど

 少し困った顔をする穂波様に山の神様は近づき、ぎゅっと四尾ごと穂波様を抱きしめた。

山の神さま

しばらく穂波ちゃんに口吻ができないと考えるだけでさびしくてさびしくて

穂波さま

……

 穂波様は無言で山の神様の腕を解いた。

穂波さま

ゆくのじゃ

いいんですか? 感動的シーンだと想うんですが

穂波さま

いいのじゃ、さっさとゆくぞ

山の神さま

そんなぁそんなぁ、穂波ちゃんのいけずいけずうぅぅ

 はらはらと涙を流す山の神様を尻目に、僕たちは穂波山を降りるのだった。

穂波さま

いやあ、すごかったのじゃ! 世の中はまた進歩したんじゃのう! まさか乗り手がおらんのに走るとは!

無人バスにのって電車に乗ってきただけなんですけど……どれくらい前なんですか山から出たのは

穂波さま

……さて、お主の家はこの近くかの?

話をすり替えましたね、別にいいですけど。ええ、そこの角を曲がったところですね

穂波さま

ほう、なかなか良い気脈の場所に建てておるのじゃ、善き哉善き哉

へえ、そんなのわかるんですね

穂波さま

わらわをなんだと思っておるのじゃ

……ダメ神様?

穂波さま

力が戻ったらお主を子々孫々まで呪ってやるから覚悟するのじゃ

あー、僕のモチベーション下がりますねー、その言葉は

 そんな他愛無い会話をしつつ、僕の家の前に辿りつく。
 階段を数段上り、内開きの扉門を開け、しばらく庭を進んでから玄関のドアを開く。鍵は開いていた。

お兄ちゃん! 一体どこにいってたのよう!

 ドアの向こうには少女が立っていた。
 というか、僕の妹、つばさだった。
 淡い栗色の髪を翼のようにまとめたツインテールがよく似合っている、僕の3つ年下の妹だ。

ただいま、つばさ

 荷物を玄関にあるすのこに置き、靴を脱ぎ始める僕をみて、つばさは続けて声を上げる。

つばさ

ただいま、じゃないわよう! なんで朝帰りなんてことをしたのよう!

神様を捕まえに行ってたんだ

 声を荒げるつばさに対し、僕は一言だけ答える。

つばさ

意味分かんないよう?!

 怒ったり驚いたり忙しい我が妹に対し、僕は結果を示すことにした。

で、これが成果です

 ずずい、と穂波様を妹の前に差し出す。

穂波さま

何がこれじゃ!

つばさ

……

 穂波様を見て、呆然とするつばさ。
 そして、十数秒後。

つばさ

おとーさん! おかーさん! 
お兄ちゃんが朝帰りで明らかにロリな女の子と不純異性交遊して、
しかも連れて帰ってきてるううううううう!!!!

 妹は盛大に勘違いをした。

 そりゃそうか。

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