俊之と絵美は共に自転車で通学しており、
一緒にそれぞれ自分の自転車に乗って、
俊之の自宅までやって来た。
俊之と絵美は共に自転車で通学しており、
一緒にそれぞれ自分の自転車に乗って、
俊之の自宅までやって来た。
絵美は俊之の家の庭先に自転車を留める。
俊之は家の横にちょっとしたスペースがあり、
そこへ自転車を突っ込む。
今、玄関を開けるから。
そう言って、俊之は勝手口の鍵を開け、
家の中へと入って行った。
暫くしてから、
玄関の鍵を開ける音がして、玄関のドアが開く。
川村、こっちー。
俊之に呼ばれて、絵美は玄関へ向かい、
玄関から家の中に入る。
どうぞ。
お邪魔します。
俊之に促されて、絵美は俊之の家に上がった。
俺の部屋、二階なんだ。
いいなー。
私の家、平屋だから羨ましい。
そう言いながら、絵美は俊之の後について行く。
二人は階段を上がって、
俊之の部屋の前まで来ると、
俊之が部屋のドアを開ける。
促された絵美が先に俊之の部屋に入り、
後から俊之が部屋に入ってドアを閉めた。
絵美は俊之の部屋に入ると、部屋の中を見回す。
私、男の子の部屋に来たの初めて。
俺だって、この部屋に女の子を
入れるのは初めてだよ。
そう言いながら、俊之はベッドに腰を下ろした。
続けて俊之から絵美に声を掛ける。
適当に座っていいよ。
そう言われて、
絵美はベッドの前にある小さなテーブルを挟んで、
俊之と向かい合う様に座る。
いい家だねー。
うん。
親父が残してくれて助かってるよ。
山ノ井君のお父さん、
居ないのは知っていたけど、
どうしたの？
ああ、俺が小さい時に
事故で死んじゃったんだ。
そうだったんだ。
川村って弟が居たよね！？
うん。
生意気なのが一人。
いいなー。
良くないよ。
私、いつも、
馬鹿にされているんだよ。
ははは。
俺は一人っ子だから羨ましいけどね。
すると、家の外から何人かの話声が聞こえてきた。
誰か、来たんじゃない！？
ん！？
俊之は立ち上がって、
絵美の後方にある窓まで行き、
窓を開けて外を見た。
絵美も立ち上がって、俊之の横から外を見る。
山ノ井、居るかー！？
やっぱり、川村も居たよ。
これから、石川んチで
裏ＤＶＤを見ようぜ。
俊之のクラスメイトが自転車に跨がったまま、
俊之の家の前から俊之達を冷やかしてきた。
うるせーよ。
今、取り込み中だよ。
川村、気を付けろよー。
そう言うと、
山本達は自転車を漕いで去って行った。
俊之は窓を閉めて、再びベッドに腰を下ろす。
絵美も元の位置に戻って、座った。
いいの？
いいよ。
山本君達、
山ノ井君と遊びたいんじゃないの？
違うよ。
俺達を冷やかしに来ただけだよ。
山ノ井君、中学の時は
山本君達とよく遊んでいたよね！？
うん。
一緒に悪い事ばっかりしていたよ。
俊之はそう言って、苦笑した。
悪い事って？
煙草を吸ったり、お酒を飲んだり、
万引きも何度かは。
ちょっと意外。
山ノ井君、中学の時は
近寄り難い感じだったけど。
そう！？
うん。
万引きまではって。
印象が悪くなっちゃったかな！？
少し。
でも、今はもう、
やってないんでしょ！？
うん。
高校に入ってから、
悪い事はみんな辞めた。
そうなんだ。
でも、何で？
いつまでも、社会に甘えていちゃ
いけないと思ってね。
社会に甘えていちゃいけないか。
山ノ井君って、結構、
しっかりしているんだね。
そう！？
私なんて、
まだまだ子供だなーって、
思っちゃった。
俺だって、まだまだ子供だって。
ねね。
ん？
話、変わるけど、
うん。
さっき、山本君達が
裏ＤＶＤとか言っていたけど、
山ノ井君もそういうの見るの？
それ、訊いちゃう訳！？
うん。
余り言いたくないけど、
見る。
俊之は恥ずかしそうに、ボソッと言った。
そうなんだー。
絵美が蔑視する様な目で、
俊之を見ながら言った。
だから、中学の時は
石川んチに集まって、
観たりしていたんだけど、
俊之は言い訳をする様に言う。
ふーん。
山ノ井君は持ってないの？
ウチはプレーヤーがないから。
やっぱり、男の子って、
みんなそうなんだね～。
女の子は
そういうの見たりしないの？
私は見た事がないなー。
他の子は見てるのかな～！？
そっか。
でも、Ｈな話は時々、するよ。
絵美はちょっと照れ臭そうに言った。
そうなんだ。
ねー。
何！？
山ノ井君、私とＨをしたい？
え！？
いきなり、何を、
俊之は顔を真っ赤にしながら、言葉を詰まらせる。
照れてる。
山ノ井君、かわいー。
したいけど、まだいい。
良かった。
良かった！？
うん。
したくないとか言われたら、
それはそれで、ちょっと寂しいし、
私の事を大切に思ってくれている
みたいだと思ったから。
絵美が少し照れ臭そうに話をした。
やっぱり、川村って可愛いな。
え！？
急にそんな事、
今度は絵美が照れた。
だから、俺、
川村の事を好きになったんだ。
ねー。
絵美は恥ずかしさをはぐらかす様に
俊之へ話し掛ける。
ん！？
いつから私の事を好きだったの？
んーとねー。
小学校一年生の時かな。
え！？
そんなに前から！？
登校中だったか下校中だったかは
忘れちゃったけど、
その時に川村を見かけて、
可愛いなーって思って、
それから。
そうなんだー。
だったら、
もっと早く言って欲しかったなー。
意気地なしって思う？
少し。
言い訳になっちゃうけど、
小学生の時は別として、中学の時は俺、
悪い事ばかりしていたからさ、
なんか、川村に対して、
正面を向けてないというか、
後ろめたい気持ちがあってさ、
それで高校に入って、真面目になって、
それからって考えていたんだけど。
そっかー。
だから、本当は
一学期の期末テストで
１番になってから、
告ろうって思っていたんだ。
え！？
１番？？
うん。
山ノ井君、実力診断テスト、
何番だったの？
ん？
５番だったけど。
えーーー！
山ノ井君って、
そんなに頭が良かったの！？
ははは。
川村は何番だったの？
そんなの言えないよー。
自分から聞いておいて、
それはないだろ。
だって、
教えろよー。
３２９番。
そりゃ、少しは
勉強をしておいた方がいいぞ。
もー、
お母さんと同じ様な事を
言わないでよー。
はははは。
なんか、ちょっとショックー。
なんで？
差があり過ぎるっていうか、
引け目を感じちゃう感じ。
そんな事はないって、
同じ学校に通っているんだから。
もっとレベルの高い学校へ
行ってる奴らは、
もっと頭がいいんだぜ。
そうなんだけどさー。
気にするなよ。
俺は川村の可愛らしいところが
好きなんだから。
でも、
ずっと、ずっと、
川村の事が好きだったんだよ。
うん。
これからも、
ずっと好きでいれたらいいなって、
思っている。
絵美は俯いてしまう。
どうした？
嬉しい。
絵美は俯いたまま、小さな声で言った。
なー、
なーに？
絵美は顔を上げたが、
その顔はまだ少し赤らんでいた。
これからは名前で呼んでいいかな？
いいよ。
私はなんて呼んだらいい？
何でもいいよ。
じゃあ、
少し間をおいてから、
続けて絵美が照れ臭そうに言う。
俊君。
良かった。
良かった！？
何でもいいって言ったけどさ、
変なあだ名で呼ばれたら、
恥ずかしいと思ったから。
呼ばれて恥ずかしがらなきゃ
ならない様なあだ名、
呼ぶ方だって恥ずかしいじゃん。
そりゃ、そうだな。
俊之がそう言うと、二人は笑い合った。
ねね。
何！？
さっき、ちょっと話をして、
私が話をしたい事と違う方向に
進んじゃったから、
話を戻したいんだけど、いいかな？
いいよ。
山本君達の事なんだけど、
ああ。
中学の時は仲が良かったって。
うん。
俺がバイトのない時とか、
よく此処でたむろって
いたりもしていたよ。
え！？
俊君、中学生の時から､
アルバイトをしているの？
そうだよ。
親戚のおじさんが大工をしていて、
その手伝いをしているんだ。
すごいなー。
そうでもなきゃ、
中学生でバイトなんか出来ないからね。
そうだよね。
中学生の時なんか、
時給３００円だったんだぜ。
それって、めちゃめちゃ安くない？
安いよ。
それで、こき使われてたの。
そうなんだ。
今は時給５００円だけどね。
５００円でも安くない？
他にもっと、
稼げるバイトはあるけどね。
大工仕事、面白いし、
他の仕事を探すの面倒だから、
そのまま続けているんだ。
俊君、将来は大工さんになるの？
そこまでは考えてないな。
面白く思えるのも、
バイトだからかもしれないし、
色々と大変そうだからね。
そっかー。
って、また話が違う方向へ進んでるー。
ははは。
何の話をしたいの？
私が聞きたかったのは、
俊君と山本君達の事なの。
うん。
それで。
俊君、高校に入ってから、
山本君達と仲が悪くなったの？
仲は悪くはなっていないと思うよ。
学校でもちょくちょく話はするし。
ただ学校が終った後、
遊ぶ事はしなくなったかな。
なんで？
単に俺に遊ぶ時間がないからだよ。
だから、山本達は俺の事、
付き合いが悪くなったよな、
とか思ってはいるのかも
しれないけどね。
ふーん。
第一、俺、高校に入ってからは、
学校が終った後、
誰とも遊んだ事がないよ。
えー、それでいいの？
仕方がねーじゃん。
体がいくつもある訳じゃないし、
時間が無限にある訳でもないんだから。
それは、そうなんだけどさ。
なんか、そういうのって、
俊君も可哀相に思えるし、
山本君達も可哀相に思っちゃうな。
俺だって、時間があれば、
山本達と遊んだりもしたいけどさ。
バイトをしないと
小遣いが無くなっちゃうし、
バイトのない日は
勉強をしなきゃならないし、
それ以外にも、これからは
絵美とも出来るだけ
一緒に居たいと思うし。
えーーー！？
えー！？って何だよ！？
一緒に居たいって
言ってくれた事は嬉しいけど、
ちょっと複雑。
複雑って？
なんか、私が俊君から、
友達を奪っちゃう様な感じがして。
ははは。
何を言っているんだよ。
みんなそんな様なもんだよ。
そんな様なもんって？
男は彼女が出来ると、
男友達との付き合いは減るし、
女の子だって彼氏が出来ると、
そうだろ！？
そうかもしれないけどさ。
一番いいのは、みんな一緒に、
彼氏、彼女が出来ちゃえば、
いいんだろうけどね。
うん。
中々、そうもいかなかったりするから、
その時間差が人と人との
距離を拡げちゃうのは、
仕方がないんじゃないかな。
うん。
それに俺にとっては、
絵美が居てくれれば、
全然、可哀相じゃないし、
山本達だって俺と遊べなくなるから
可哀相って思っちゃ、
失礼なんじゃないかな。
そうなのかな～。
そうなんだよ。
うーん。
なんか、よく分かんないけど、
そんな気がしてきた。
ふふふ。
えへへ。
そういえばさー。
何！？
俺の方よりも、最近、
佐藤の奴、元気がなくね！？
そりゃ、そうだよ～。
ん！？
由佳も俊君の事、
好きだったんだよ。
そうなんだ。
だから、私は、
すぐの返事が出来なくて、
考えさせて貰ったんだよ。
そっか。
でも、
私も俊君の事を好きだったから、
遠慮なんかしたら、
逆に由佳に失礼だと思ったし、
由佳に怒られちゃうと思ったから、
俊君と付き合う事にしたんだ。
でもよー、
佐藤って中学の時、
彼氏が居なかった！？
居たけど、
お父さんにばれて、無理矢理に
別れさせられちゃったんだって。
そっか。
因みに、その彼は誰？
川崎君。
へぇ、川崎と付き合っていたのか。
知らなかったの？
知らなかったな。
川崎とは、そんなに
親しくなかったしね。
それで、その後に俊君の事を
好きになったって言ってたよ。
そっか。
それにしても、中々、
うまくはいかないもんだな。
そうだね。
もしさー、
うん。
佐藤が山本の事を好きになって、
付き合ったりとかすればさ、
俺と山本は付き合いが
悪くなったもん同士で、
前より親しくなれたのかもしれねーし。
あはは。
俊君、面白い事を考えるね。
まー、とにかくよー、
あれだな。
あれって？
俺達、付き合うのを
暫く中断しようか！？
え！？
絵美は暫く佐藤の傍に居てやれよ。
あ、うん。
俺も暫くは、
バイトと勉強で忙しいし、
佐藤の奴を元気にする
秘策を思い付いたんだ。
何それ？
教えて。
だから、俺達が
付き合うのを中断するの。
そうすると、由佳が元気になるの？
そう。
暫くすると、何かが起こる。
そして何かが起こると、
佐藤は元気になる。
その何かって？
それは楽しみにしていてよ。
えーーー！
あはは。
いいじゃん。
教えてよ。
その内、佐藤が俺か絵美に
ボケをかましてくると思うんだ。
それで？
そこで、うまく突っ込んでやれば、
元気になるんじゃねーかな。
どう突っ込めばいいの？
それは俺に任せておいて。
えーーー！？
私には教えてよ。
そんな事を言われても、まだ佐藤が
どういうボケをかましてくるか、
分かんねーからなぁ。
そっか。
うん。
じゃあ、任せる。
さあて、
佐藤がどういうボケをかますか、
楽しみだなー。
俊君、面白がってるの！？
うん。
ひどーい。
由佳、俊君の事が
好きだったんだよ。
分かってるよ。
だから、俺達が楽しんで、
佐藤を引き込むんだよ。
引き込むの？
落ち込んでる奴と
一緒になって暗くなってたら、
拉致があかねーだろ。
うん。
だから。
分かった。
俊君に全部、任せる。
任されちゃった～。
もう～。
そだ。
何！？
付き合いは中断しても、
電話はするから。
分かった。
ねぇ、俊君。
何！？
今、何時か分かる？
ごめん。
俺の部屋、時計がなくて。
５時３２分。
え！？
なんで分かったの？
そこのＣＤプレーヤー。
そっか。
それじゃ、今日はそろそろ帰るね。
そうだね。
もう、こんな時間だ。
そうなの。
私、夕飯の手伝いを
しなきゃならないから。
偉いじゃん。
偉くないよ。
私、勉強をしないから、
手伝いくらいはしないと。
勉強もしろよ。
もー、それは言わないでよ。
あはは。
とにかく今日は
どうもありがとうね。
うん。
外まで送る。
うん。
俊之は立ち上がってドアを開け、部屋を出る。
絵美も俊之の後について、部屋を出た。
俊之がドアを閉める。
階段、気を付けて。
うん。
今度は絵美が先に階段を下りて、
その後に俊之が続いた。
廊下を通って玄関で絵美が靴を履き、
俊之は玄関にあったサンダルを履いて、
二人は外に出る。
それじゃ、また明日、学校で。
うん。
そして絵美は自転車に乗り、
俊之に向かって手を振る。
バイバイ。
そう言って、絵美は自宅へ帰って行く。
俊之は絵美を見送ってから、家の中に戻った。
