9話

出会って5日目

レン

あとは、コレは返さないとだな

 オレはノートをアメリの前に出す。

アメリ

やっぱり、あんたが盗んだのね

レン

アオから渡されたんだよ

アメリ

あの男……

レン

これって、どこに閉まっていたんだよ

アメリ

ロッカーよ

レン

一年って二人で一つのロッカーだったよな。お前って赤音と一緒だったのか

アメリ

そうよ

レン

開けられるのは、お前たち二人だけ。お前じゃないなら、開けられるのは一人しかいない

アメリ

……

レン

悪いけど、読ませてもらったぞ

アメリ

本当にデリカシーの欠片もない男ね

レン

書いてあったのは、お前の罪と謝罪の言葉

アメリ

……っ

レン

ここに書かなければオレもアオもお前の罪を知らずに済んだ。こんなノートだ、誰かに読まれる可能性がある。それを知っていて、お前は自分の犯した罪を書いたんだな。

アメリ

……

レン

面と向かって伝える勇気がないとき。自分の気持ちを紙に書いたりすると少しは落ち着くよな。

レン

何度もごめんなさいって書いて消した跡も残っている。罪の意識はあるってことだろ。そう思って良いんだろ。

アメリ

私にどうしろって

レン

だから、赤音に会って、あいつの話を聞いてやればいい。今はそれで十分だ。兄貴のことは今はいい。考えるな。

アメリ

私はあの子に会わせる顔がないのよ

レン

でも、会いたいんだろ。会いたいって気持ちを強く持てよ。赤音が会いたがっているんだそれに応えてやれよ

アメリ

どうして? あんたにとって私は

レン

憎いけど、今のオレは赤音の望みを叶えたい。兄貴のことはその後だ。行くぞ

 そして、オレとアメリは屋上に来た。

 扉を前にして怖気づいたアメリをこうして引っ張って来たのだ。

アイ、そこにいるのね

アメリちゃん、ここにいるよ

ごめんね、アイ。私、自分勝手で

わたしもごめんなさい。アメリちゃんに酷いこと言って。大嫌いじゃない、大好きだよ

アメリ

私も大好きよ

赤音

……

アメリ

……

赤音

知ってる……へへ

アメリ

……見える、見えるよ。アイがここにいる

赤音

わたしね、焦っていたんだ。早く告白しないと先輩が誰かに盗られる気がして。でも無駄骨だった。先輩は好きな人いたから

アメリ

そうだったのね。私も焦りすぎた。アイを盗られるの怖かった

 そこで、アメリはオレを振り返る。

アメリ

殺すつもりはなかったんです、ごめんなさい

レン

多分、兄貴があんたを怒らせるようなことをしたんだろ

アメリ

……私を殺さないの?

レン

オレはただの不良だ。犯罪者じゃない

レン

それに、兄貴のこともアイのことも事故だろ。

アメリ

はい……

アオ

レンはどうしてそう思うんだい?

レン

日記から判断するけど、アメリなら相手を殺す時には薬を使うはずだ。
年上の、あんな乱暴者の男を相手にするのだからな。

アメリ

そうですね。ただ、罵倒するだけのつもりでした。

レン

やっぱり事故だな。
さっきは【殺した】なんて言って悪かった。

アオ

レンが甘い子で良かったね。アメリ。

アメリ

はい

アメリ

因みにアイに使ったのは、
センブリ茶。

赤音

アレ飲むとお腹痛くなるんだよ。お腹が痛くなる薬だよ、アレは。

レン

そ、そうだったのか……

赤音

アメリちゃん、わたしね。アメリちゃんと見たいものがあるんだよ

 そう言って赤音はアメリの手を引っ張った。
 そして、突然アスファルトに寝そべる。

アメリ

アイ? 何をしているの

赤音

寝転がって、空を見よう。綺麗だよ

アメリ

ね、寝転がるって。ここに?

アメリ

いいわよ

 思い切って、というようにアメリはアイの隣に寝そべる。

赤音

ほら、綺麗だよ

アメリ

ほ、本当だ

 女子二人が寝そべる光景をオレたちは眺めていた。
 とても微笑ましい光景だった。
 ふと、赤音が身を起こしてこちらを見る。

赤音

レンくんも、アオさんもやるんだよ

レン

オレもか

アオ

俺もなのか

 オレとアオは視線を合わせて頷くと二人の側に寝転がり空を仰ぐ。
 これが青春なのだろうか。
 オレはそんなことを思っていた。
 気が付けば屋上の扉が揺れていた。
 誰かがそこにいる。
 そこで微笑んで見守っている。
 兄貴がそこにいる、そんな気がした。

ラン

……

to be continued

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