5話

 出会って4日目

 夜が明けるまで色々なことを考えていた。

【赤音が兄貴に片思いをしていた】

 そうなると、赤音が会いたいカッコイイ人は兄貴のことだろう。




【今の赤音は兄貴の死を知らない、もしくは忘れている】
 
 わからないフリをしている?
 それはないだろう。赤音が捜している人物が兄貴だとすれば。
 初対面のオレに対して知らないフリをする理由がない。

 アオに言われていたことを思い出す。




【赤音は自分の死を受け入れていない】

 だから赤音の死について触れるのも禁句だ。

【赤音アイは自分が死んだことを忘れたまま、約束を交わしていた先輩・神島ランの姿を今も探している。その神島ランもこの世にはいない】



【神島ランはアメリという女子生徒に殺害された】

 殺害されたとは断言できない気がする。殺害された可能性がある、だけだ。




【それを赤音アイは見ていた】

 赤音アイはアメリがランを殺したことを知っている。だけど今の赤音はそのことを知らない。


 

【知らないから、今もランの姿を追っている】





 アメリの日記からのオレの判断だ。
 
 アメリが赤音アイからされた告白の内容もアメリの言葉で書かれているから信憑性に欠ける。赤音アイに確認できれば良いのだろうが。今の赤音アイに本人とランの死に関する話題は禁句だ。

レン

今の赤音がアメリについて、どう思っているのかはわからない。だから、赤音にアメリの名前を出すことも禁句だな。

レン

赤音とは今まで通りに接するか

 オレは頭が悪い。考えることは得意ではない。

 気が付くと一年生の教室の前にいた。
 生徒たちは突然現れた不良の先輩に怯えている。

 オレはアメリの日記から幾つか情報を得た。

 日記を盗み読んだことは言ってはいけない。
 アメリしか知らないことは口に出来ない。

 ランと赤音を殺したのがアメリであることを知るのは本人だけ。

 だけど、あの日記にはアメリ以外の人間も知っていることも書かれていた。

赤音アイは神島ランに片思いをしていた

 昨夜、ノートパソコンを開いて学校の掲示板、学校側が把握していない生徒たちの掲示板を覗いた。そこには、赤音アイはランの死のショックで自殺をした。そう書かれている。

あかねって子は先輩が死んだショックで自殺したらしーね

レン

この事実はオレが知っていてもおかしくないことだ

 不良がパソコンを扱えるのがおかしい?
 それは偏見だ。

 余談だが、オレはガキの頃から兄貴に頼まれて料理サイトからレシピを集めていた。
 料理をするのは兄貴だが、美味しいもの食べたさに色んなレシピを集めていたんだ。

 お蔭でパソコンの扱いには慣れている。





 掲示板を眺めながらオレは出来る限り考える。
 
 オレがアメリと接触する理由を……。

 神島ランの弟はオレだ。
 そのオレがランと関わりのあった人間に接触することはおかしくはない。

 二人の自殺は二日連続で起きていた。
 だからだろうか、掲示板に書かれていることは赤音がランに片思いをしていた。そればかりだ。
 それぞれの自殺の原因、二人の間で何かがあったのだろう、そう疑っている書き込みが多い。

 それだけでも二人に接点があったことがわかる。

 兄を喪ったオレが接触したい相手は、兄の自殺の原因に近い人物。

 赤音アイ。

 赤音アイがいない今となっては、その最も近しかった親友のアメリに接触。

 これがオレがアメリに接触するための理由。

 少しばかり、強引な理由かもしれない。

レン

不良のオレなら、多少強引な行動をしても怪しまれないだろう。丁度、変人扱いされているらしいしな。

 兄貴は自殺。

 何があったのか、オレは知りたい。

 気を付けなければいけないことは、
 【アメリが二人を殺したこと】
 を疑ってはいけないこと。

 アメリの容姿をオレは知らない。
 だけど、それは関係なかった。

 アメリが赤音の死を嘆いた姿はテレビでも流れたそうだ。

 だから、アメリが赤音の親友であることは多くの人間が知ること。ニュースを見ないオレは最近まで知らなかったが……

 容姿を知らなくても問題ない。

レン

神島ランの彼女?だったのかな……赤音アイっていたじゃん。その子の親友を呼んでもらえるか

は、はい

 オレは適当な生徒に声をかけてアメリを呼び出した。アメリはオレの姿を見ると顔を強張らせる。

アメリ

……

 オレは有名な不良だから一年にも顔を知られている。そして神島ランの弟だ。オレがアメリを知らなくとも、アメリはオレを知っていた。
 何を聞かれるのかと、慎重な足取りで近づいてくる。

アメリ

先輩、私に何のようですか

 黙っていれば美少女だろう。整った容姿の少女が微笑んだ。

レン

ああ、あんたに聞きたいことがあるんだ

 アメリはビクリとする。
 だが、オレは表情を変えない。

アメリ

え? 私にですか

レン

ああ、たしか赤音アイってあんたの親友だろ

アメリ

……

アメリ

……

アメリ

アイのことですか? アイとお知り合いだったのですか?

レン

いや、知らない

レン

……その赤音アイがオレの兄貴に片思いだったって噂を聞いてさ。恋人だったのか? それはどうでもいいんだけど。

アメリ

あ、ああ……

レン

兄貴の自殺について調べているんだ。兄貴の周囲で何があったのか、聞きたかった。兄貴の関係者が思い当たらなくて、ここに来た。

アメリ

一年じゃなくて三年に当たれば良かったんじゃないですか?

レン

うるせぇ、バカだから思いつかなかっただけだよっ

アメリ

あ、ごめんなさい

レン

確かに三年のことは三年に聞いた方が良い、そりゃそうだ……

レン

兄貴も不良だろ?友達ってどいつかオレは知らないんだ。

アメリ

まぁ、後輩の方が御しやすいと思った、そういうことですね。

アメリ

さすがに先輩相手に、「親友は名乗り出ろ」なんて言えませんものね。

レン

まぁな

レン

その親友とは接触しているが。

アメリ

二人の関係ですが恋人同士ではありません。委員会で先輩と後輩関係だったみたいです。アイの完璧な片思いだったみたいです。奥手な子なので、まともに会話は出来なかったみたい。それ以上はなかったと思います

アメリ

それなのに告白するなんて凄い子だと思っていたのですが。本当にかわいそうです。やっと告白する決心が出来たのに、こんなことになって……

レン

赤音アイは告白出来なかったのか

アメリ

はい。なので、ラン先輩がアイをどう思っていたのかはわかりません。そもそもラン先輩がどんな人なのかも私は知りませんからね。

レン

そうか。あんたは親友として相手の男を見に行ったりしたのかい? 仲が良すぎるって噂だしなあんたたち。

アメリ

アイの一世一代の大勝負なんですよ。結果によっては殴り込むつもりでしたけど。

アメリ

顔もテレビで拝見したのが初めてです。

レン

そうかい。

アメリ

すみません、私ではアイが先輩と、どう接していたのかは正直なところわかりません。

レン

……すまないな、時間を取らせて

アメリ

いえ、先輩

レン

ん?

アメリ

先輩も辛いと思います。ですが、あの出来事のことは忘れるのが良いのかもしれませんよ。前を向いて生きることが、死んでしまった人たちの為になると思います

レン

そうだな……じゃあ

アメリ

……

アオ

……

 何を得たのか、わからない。
 オレが屋上へ向かう階段を歩いていると見知った男が入口に寄りかかっている。

アオ

お前、馬鹿だろ

レン

馬鹿で十分だ

アオ

……

レン

……?

アオ

……

 アオはすれ違いざまにオレのポケットに何かを突っ込んだ。
 何を入れたのか気になったが、オレは屋上の扉を開いた。

to be continued

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