3話

出会って3日目

 突然、屋上の扉が開いた。

赤音

……

……

レン

お前は……

 そこにいたのは今朝オレを睨んでいた男だ。
 そいつはオレをジッと見てから、隣の赤音を見て目を見開く。

アイ

赤音

へへへ……

赤音

アハハ

 男に名を呼ばれた赤音が困ったように微笑む。そして、咄嗟に走り出した。男の横を突っ切って姿を消した。

 オレは何が起きているのか理解できなかった。
 男は赤音の去ったほうを辛そうに見据える。



 その後、オレに視線を向けると、足早に歩み寄って来た。圧倒されたオレは身動きが取れなかった。

おいっ

レン

な、何だよ

お前はあの子が見えるのか

レン

はぁ?

 こいつが言っている意味がわからなかった。

……

……二週間前のことを知らないのか

レン

二週間前って

 ぞくっと身震いがした。

………ああ

そうか、お前は知らないのか

レン

待てって二週間前って兄貴が死んだ時のことか

 そう言うと男は小さく、深呼吸をする。

アオ

まずは、自己紹介をしなければな。俺は海野アオ。三年だ。

レン

オレは神島レン

アオ

知ってる、二週間前に死んだランの弟だろ

レン

不良の神島レンって言われるかと思った

アオ

ランは親友だったからな。それで、さっき走り去ったのが赤音アイ。俺の従妹だ。

レン

赤音って苗字だったのか

レン

そうだったのか。でも、どうして赤音は逃げたんだ

アオ

……俺があいつを止めるからだろう

 アオが何を言っているのかオレにはわからなかった

アオ

ランが殺された翌日に、赤音アイも殺されたんだ

 低く重い声で彼は言う。

 思考が追いつかない。

 赤音は死んでいた。
 
 じゃあ、
 さっきまでそこにいたのは何だったのだろう。
 
 そして、もう一つ。アオはこう言った。

 「殺された」

 そうオレに告げた。

 オレの混乱に気づいているのか、

 アオはソッと肩に手を乗せる。

アオ

世間では「二人とも自殺だった」って言われているけど、違う。殺されたんだ。

レン

ま、待てよ

 オレは思わずアオの両肩を掴んだ。

レン

赤音が死んでるって? 今、ここに居ただろ

アオ

君はニュースは見ないのだね 

レン

見たくねぇよ。兄貴の話が出てくるの気持ち悪いだろ。

 当初は刺殺体で発見されたから殺人事件であろうと疑われていた。
 自宅にもマスコミが押しかけて来たのだが父親が全て追い払った。

レン

知らない奴らが他人事だからって言いたい放題してさ

アオ

………そうだね、すまなかった

アオ

でもこれは事実だ。ランが死んだ翌日に、赤音アイの遺体も発見されたんだ。見たくないだろうけど、これがニュース記事。

レン

………

アオ

信じられないだろうけど。今のあの子は幽霊みたいなもの。あれは意識体だよ

 アオはゆっくりとした口調で告げた。

レン

意識体って

アオ

あの子はある人物に何かを伝えたかった、だけど伝えることが出来ずに殺された。

 オレは頭が混乱していた。

 ある人物というのは、きっとカッコイイ人のことだろう。
 アオはオレを見ながら一冊のノートを見せる。

レン

これは……

アオ

俺が犯人だと睨んでいる人物の日記だ

レン

日記なんて盗んで来て、泥棒じゃないか

アオ

そう思ったが、親友と従妹を殺した犯人だ。俺はそういう奴には非情になれる。ここに真相が書かれてあるんだよ。

 そう言って押し付ける。
 その手をオレは押し戻した。

レン

ま、待ってくれ……

アオ

……わかったよ。今すぐにとは言わない。後で読んでくれ。今のアイはレンにしか心を開かないみたいだからな

レン

どうして、あんたは嫌われたんだ

アオ

あの子の「カッコイイ人探し」を止めさせようとしたからだ。

レン

……ああ

アオ

アイはこのノートの内容のことをわかっているのかもしれない、
忘れているのかもしれない。
わかっていて、君に伝えていないのかもしれない。

アオ

これは俺の予想だけど、アイは自分の死を受け入れていない気がする。

アオ

俺とお前がこの話をしたことはアイには黙っていてくれよ。

レン

なぁ

レン

幽霊なら見えないだけで近くにいたりしないのか?

レン

今の話も聞かれているってことは……

アオ

信じなくても良いけどさ、俺って霊感が強いからわかるんだよね。アイは近くにいない。断言できる。

レン

あ、ああ……

 とんでもない話をされている気がする。

 オレは渡されたノートをカバンの中に突っ込んだ。

アオ

それと、あの子の姿が見えるのは俺と君だけらしいから気を付けてね

レン

そうだったのか

アオ

お兄さんの死のショックで、レンくんに見えない友達が出来たって噂になっているよ。見えない友達に笑顔で話したり謝ってたりしてるって。

レン

マジで

 今朝の視線はそれだったのか。
 オレは背筋がゾッとするのを感じた。
 

アオ

ランの言った通りだね。お前って見た目が不良だけなんだね。中身は真面目、というか純粋というか……勿体ないよ。好感は持てるからアイのこと頼んだよ。

レン

兄貴も中身は真面目だろ

アオ

あれをどう見れば真面目って……

アオ

ああ、弟の前では良い兄貴面してたのか

レン

真面目だろ

 どうやらオレの知る兄貴と、アオの知る兄貴は全く違うらしい。







 アオが屋上から立ち去ったので、オレも帰ろうとしたとき。

赤音

驚いたー

 そう言って駆けこんできたのは赤音だった。

レン

驚かせるなよ、急に逃げて

赤音

だって、アオさん怖いんだよ。カッコイイ人探しなんてやめろ~って言うんだもの

レン

きっと、赤音が心配なんだよ

赤音

そうかもしれないけど……それで、何を話していたの?

 ゾッとした。
 赤音の視線から寒気を感じた。

レン

男の会話

赤音

そうなんだ

赤音

はっ、こんな時間だから帰るね

赤音

バイバイ

 赤音はニコリと微笑んで走り去ったのだ。

to be continued

pagetop