私たちは、領地拡張のためにモールを出た。

 先頭はヤマイダレさんだった。

 次にセシリアちゃん。

 そして3人のお姉さんが、セシリアちゃんを護るように展開した。

 私たち中学生は、バリケードを積んだ台車を押して後に続いた。


MI6の諜報員

退くぞ! 痴女が退いていくぞ!!

 セシリアちゃんの清らかさにあてられて、痴女の群れはどよめいた。

 目をそらし、顔をそむけて、痴女は恥じらい逃げ惑った。

 私たちからどんどん離れていった。

 で。

 そのことはヤマイダレさんの作戦通り、思惑通りだったのだけれども。


嗚呼っ! なんて私は、ふしだらなのっ。私は淫猥、淫奔よっ

 ヤマイダレさんまで悶絶したのは想定外、困ったことだった。

あはは

 笑い事ではないんだけれど。

CIAの工作員

私が代わろう

 CIAのお姉さんが前に出た。

 ヤマイダレさんを護るように背中をあずけ、それからゆっくりとヤマイダレさんを後退させた。

 手にはナイフと、小型のクロスボウを持っている。


CIAの工作員

弾は節約したいわ

 お姉さんはそう言ってクロスボウを孤立していた痴女に向けた。

 ボルトを放った。

 ボルトが痴女に刺さる。

 痴女即死。

 お姉さんは、その死体からボルトを引き抜いた。

 そして再び周囲を警戒した。


私たちはバリケードを作りましょう

 ヤマイダレさんが、私たちのところにやってきた。

 台車から杭(くい)を取り、それを道路脇に突き刺した。

 ここ米軍の駐屯地は、道路や滑走路のほかはゴルフ場のような大らかな芝だから容易に刺せるのだ。


フェンスを張って!

うん

次の杭まで引っぱって!

はいっ

ロープで縛って、それからワイヤーで固定するのよ

はい

ああん、私まで縛らないでえ

ははは、口では嫌と言っても、こんなにも悦んでるではないか

——って、縛るかっ!

 私は慣れないノリ・ツッコミをキメた。

 するとヤマイダレさんは、ひどく嬉しそうな顔をした。

 いつきと小夜は、それ以上に嬉しそうな顔で私たちを見ていた。


ほんと仲が良いよね

息がピッタリ合ってる

ちょっと止めてよ

あら、嫌なの?

うーん

 私は、ぎこちない笑みで固まった。

 よくよく考えてみれば失礼な態度である。


ごめんなさい

いいのよ

 ヤマイダレさんは母性に満ちて微笑んだ。


仲直りのしるしよ

 そう言って、チョコ棒を私に持たせた。

……うん

 私はチョコ棒をポケットにしまった。

 それは直前までヤマイダレさんが握りしめていただけに熱かった。

 しかも、数分おいても熱気を保っていた。

 脈打っているようにも感じられた。

 なんだか生々しい存在感。

 私は太ももに伝わってくる温かみが、妙に気になってしかたがなかった。

 と。

 そんな感じで私は集中力を欠いていたのだけれど、しかし作業は順調に進んで、私たちは新たなエリアを獲得した。たった1人の痴女を残して。

………………


 今、ショッピングモールからは、バリケードで囲まれた道が伸びている。

 そして、その先の広場がバリケードで囲まれている。


 その広場の真ん中に、痴女はぽつんと立っている。

あれは童話の痴女 →

CIAの工作員

『ウィザード・オヴ・チジョ』よ

MI6の諜報員

カカシのようだが?

CIAの工作員

ヤツはあの場所からは動かないわ。近づく者を痴女にするだけよ

KGBの職員

だったらフェンスで囲んで放置しておけば?

CIAの工作員

痴女を呼び寄せるのよ。それに土も汚染される

 お姉さんはそう言って、痴女の下腹部を見た。

 謎の液体が痴女の太ももを伝い、ふくらはぎまでたれていた。

 というより、よく見るとカカトが地面にめり込んでいた。

 植物のように地面に根ざしているようだった。


MI6の諜報員

なるほど。では、ヤマイダレ監察官。ヤツを担いで外まで運んでくれないか?

嫌よっ

MI6の諜報員

そんな子供みたいなこと言わないで。キミは免疫を持っているのだろう?

免疫といっても、痴女にならないだけよ

 ヤマイダレさんは、まるで理解力のない子を諭すように、そう言った。

 するとCIAのお姉さんが間に入った。


CIAの工作員

無理に動かすのは危険よ。あの痴女に普通のやりかたは通用しない。アレはユニークよ

KGBの職員

まるで攻略法があるような言いかたね

CIAの工作員

攻略法は、たしかにある。CIAはそれを解明している。ただし途中までよ

MI6の諜報員

聞こうか

 私たちは、いっせいにお姉さんを見た。

 お姉さんはツバを呑みこむと、痴女を見ながら話しはじめた。


CIAの工作員

あの痴女は『ウィザード・オヴ・チジョ』。オズの魔法使いに強く影響を受けた痴女よ。だから、その倒しかたもオズの魔法使いに則している——そう推測されてるわ

あくまでも仮説なのね?

CIAの工作員

途中までは、そのやりかたで間違いないわ。というより、それ以外のやりかただと手ひどい反撃を受けるのよ

MI6の諜報員

具体的には?

CIAの工作員

オズの魔法使いの主人公には仲間がいる。カカシ、ブリキの木こり、ライオンの3匹ね。あの痴女の弱点は、その3匹に由来しているの

KGBの職員

すなわち『脳みそ』のないカカシ、『心臓(ハート)』のない木こり、『勇気』のないライオン

CIAの工作員

その通り。あの痴女には、脳と心臓を同時に攻撃することでダメージを与えられる。もう1箇所合わせると倒せるのではないかと、推測されている

脳みそだけじゃダメなんですか?

CIAの工作員

そこがあの痴女のユニークなところね。頭を撃ちぬいただけじゃ死なないの。ものすごい勢いで再生するのよ

 お姉さんは深刻な顔をしてそう言った。


MI6の諜報員

なるほど。弱点は『脳みそ』と『心臓』と、あとひとつ……『勇気』だが、しかし、それが身体のどこなのかが分からない

CIAの工作員

ええ

 私たちは痴女を見ながら、ため息をついた。

 深く考えた。

 私も一緒に考えたけど、でも分からなかった。

 やがてヤマイダレさんが言った。


子宮よ

KGBの職員

子宮が『勇気』なの?

よく分からないけど、でも、頭と心臓以外には後は子宮ぐらいしか残ってないじゃない

MI6の諜報員

……それもそうだが

今はどうだか知らないけれど。『女は子宮で考える』とか言うでしょ?

KGBの職員

昔はね

CIAの工作員

今、アメリカでそんなことを言ったら、0.5秒で撃ち殺されるわよ

 お姉さんは笑い混じりにそう言った。

 半分は冗談、半分は本気って感じだったけど、冷凍睡眠していたヤマイダレさんはちょっと混乱した。

 KGBのお姉さんが説明した。

 そのことでヤマイダレさんは、ようやく現在のアメリカのお国事情を理解した。まあ、現代の日本とそれほど変わりはないとは思うのだけれども。


まっ、まあ。とにかく子宮よ。子宮で間違いないわよ

CIAの工作員

うーん

CIAは試したの?

CIAの工作員

いや

だったら撃ってみましょうよ

 ヤマイダレさんはそう言って拳銃を構えた。

MI6の諜報員

賛成

 MI6のお姉さんも銃口を痴女に向けた。

KGBの職員

やる価値はあるわね

 KGBのお姉さんも安全装置を外した。

CIAの工作員

ちょっと落ち着きなさいよ

 と、CIAのお姉さんがあわてる目の前で、

 ヤマイダレさんたちは、痴女の脳と心臓と子宮を見事撃ちぬいた。

 すると——。


んほおぉぉぉおおおお————!!!!!

 痴女が絶叫した。

 そして大量の痴女が集まってきた。

童話の痴女『ウィザード・オヴ・チジョ』《1》

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