少年はなぜか、テイマーのそばから離れられなかった。
呆然と、ただテイマーだった物を見つめる。少年の頭ではテイマーとの思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。

SP2-01

そうだ、物。俺の魔法で動かせるんじゃ……

少年がテイマーに手をかざしかけた瞬間、男が少年の目の前に唐突に現れた。

SP2-01、人が接近しているようだ。直ちに帰投せよ

この男は少年の見張り役である。
光学迷彩服を着用し、またすぐに姿を消してしまった。
遠くから少女の声が響いてきた。
だんだんと近づいてきている。
少年は岩場を立ち去った。

お母さ~ん、どこ行ったの~?

刹那——。

この世のものとは思えないような断末魔の叫びが、少年の後を追った。
テイマーの娘、だったのだろうか。そういえばたまに娘の話をしていたな……、と少年は思い出した。
胸のあたりが痛むのは、きっと先ほどの戦闘でどこかにぶつけたからだろう。

SP2-01

帰投しました

少年は短くそう告げると、四郎が人殺しを命令した人間とは思えないような笑顔で少年を労った。

四郎

ご苦労

不意に四郎から笑顔が消えた。少年の全身を怪訝そうに見る。

四郎

ふむ。何か、具合の悪いところは?

SP2-01

は?

普段なら首にMICチップを差し込み、魔法を完全にシャットダウンして両手足に枷をはめられて地下牢へ帰される。
しかし今日は違った。
四郎は眉をひそめて少年を見つめる。

四郎

何か具合の悪いところがあるのかを問うている

SP2-01

ありません

四郎

そうか、なら良い

四郎はいつも通りの手順で少年を地下牢へ帰した。
ほとんど普段と変わらないが、明らかに少年には違和感があった。

四郎

あの返り血の付き方……。テイマーに何らかの思い入れを抱いたのだろうか。それならば、厳正に対処しなければならない

少年は考えていた。
どんなに鮮明に思い出しても、戦闘中に胸をぶつけた覚えはない。
それなのに胸に押さえつけられるような圧迫感があった。

SP2-01

なぜ、あの声が頭から離れないんだ……

テイマー

ごめんね、何もしてあげられなくて。でも、よかった

いやぁあああああああああああ!

頭の中で繰り返される、満足そうなテイマーの声と悲痛な少女の叫び。
そのたびに胸は締め付けられ、痛いと信号を送ってくる。

何時間も考え込んでいたのだろうか。
牢の前には質素な膳が並べられていた。
お世辞にも美味しそうには見えないが、一日二食しか与えられない少年にとって貴重な栄養源だ。
しかし、手を付ける気にはなれず物思いに耽っていた。

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